つつがなく、北京オリンピックが終わってよかった。閉会式の模様をインド国営放送DDで見た。そのあとも、本日だか昨日だかの競技が放送されていた。
なんとはなしにジムナスティック(床体操?)を見る。女性がグループで、ヒモをひらひらさせながら回転したりするやつだ。決勝に出場しているのは、東欧やロシア界隈の国々ばかりである。
それにしても、派手なウエアである。いつのまに、こんなことになっていたのだろうと、新鮮な思いで眺めつつ、わたしもこんな風に、バック転やら側転やらをひょいひょいとできたらどんなにかいいだろうと思う。
今でもできることなら、タタタ〜ンと全速力で駆けて、スパッ! タッ! タンタンタタッ! という機敏な動きをしたくなる。見ているうちにも血が騒ぐ。今世はまあ無理にしても、来世では「闘える身体作り」をしたいものだ。
いや、実は今からでもやれるものなら、格闘技関係をやってみたいとの願望がある。先日、映画「カンフーパンダ」を見たときも、
「あのパンダにできるなら、わたしにもできるかも」
「あ、でもわたしは痛みに弱い方だからダメだ。あのパンダはなにしろ打たれ強いのがポイントだ」
「やっぱり決め手は柔軟性か」
などと、ついつい思いを巡らせてしまう。
傍らに座る、「攻略法としてのクリケットは本が書けるくらいに詳しいが、実技は今ひとつで試合には出られなかった」夫に声をかける。
「ねえ。もしも生まれ変わってオリンピックに出るとしたら、何がいい?」
「100メートル走!」
100メートル走? 常に悠然と歩くあなたが100メートル走ですか? やはり、現在の自分からかけ離れたものを求めるのか?
「どうして100メートル走なの?」
「だってさ。競技は10秒程度でしょ。あとはゆっくり、休めるじゃない!」
こ、この男は……。冷たい視線を送る妻などお構いなしに、自分で自分のコメントに大受けして、うひゃうひゃ笑っている。だめだこりゃ。アスリートのみなさん、ごめんなさい。
今日は晴れている。風は心地よいが、日差しが強い。木陰などでくつろぐには好適の日和だが、街歩きには不向きであろう。しかし今日は市場調査のためコラバ地区をゆかねばならない。ついでに電気代もおさめにゆこうと思う。
ちなみに以前「読めない請求書」(←文字をクリック)について触れたが、あのときは、支払額はマイナス、つまり払わなくてよかった。大家が前もって多めに支払ってくれていたようである。そんなわけで、今日が初めての支払いである。
途中途中で、調査のための写真撮影をしながら、木綿製の手ぬぐい、いやスカーフで汗をふきつつ街をゆく。ANOKHIやSOMAで手に入る、色柄も豊富な柔らかな木綿の小振りのスカーフ(長方形)を、わたしは巨大なハンカチ代わりに愛用している。頭から被れば日よけにもなる。見た目はともかく、便利なのだ。
それにしても今日は、暑い。商店街は木陰がないから、アスファルトの照り返しで余計に暑く感じる。加えてド汚い界隈である。暑苦しさもひときわである。
さて、電気会社に到着した。それは共産主義国の建物のような無機質さで、中に入れば前時代的なムードである。単刀直入に言えば、古い。その無駄に大きな古い建物の、「支払い窓口はあっちだ」「いやこっちだ」と、右往左往させられたどりついたのは、小汚い窓口。
バンガロールの電気会社とも共通のたたずまいである。
そこには、使用人業界の男たちが、請求書と小切手を片手にあふれていた。マダム自ら足を運ぶところではないとわかってはいるのだが、一応、見ておきたいのである。次回からはメイドのジャヤに頼むとしよう。
暑い上に暑苦しい男衆と並んで待つのは、なかなかに苦痛だ。若干、距離を置いて立つ。と、すかさず後ろから来た男が平気な顔をして、わたしの前に立ちはだかろうとする。
「ちょっとあなた! わたしが見えないの? わたしはここに、並んでるんですけど!!」
こういうときの、自分の声のドスのききっぷりに、自分でも驚く。
さて、20分ほども待ち、ようやく支払いを終えたらもう、すっかり一仕事終えたような充足感だ。これが日本なら、知らないうちに銀行から引き落とされているというものである。ちなみに米国では銀行引き落としは一般的ではない。
小切手を切る、あるいはインターネットで支払うなどの手段をとる。米国も、インドに負けず劣らず、間違って請求されることしばしばなのだ。日本はそういう点において、世界で一番といって過言ではないほど、几帳面で間違いが少ない国だと思う。
電気代を無事に払い、この界隈における市場調査もすませ、一休みの気分だ。
本当ならTHE TAJ MAHAL PALACEのラウンジにでも立ち寄って一息つきたいところだが、なにしろ自分がボロボロで、高級ホテルに似つかわしくない。
やむなく観光客の往来激しいコラバ・コーズウェイのレストラン・バーに立ち寄り、ビールを注文。
インドに於いて、女性が一人昼間っからビールを飲むというシチュエーションはかなりよろしくないのだが、ここは外国人客が多いし、わたしとて外国人だ。
許されよう。
歩道を行き交う人々を眺めながら、ひととき、ひとり旅の途中の心で。
帰宅後、シャワーを浴び、さてレポートをまとめるつもりが、どうにも眠たい。このごろは、ちょっと疲れやすい。やっぱり、年波が寄ってきているのかしらん……などと思い巡らしているうちにもあっというまに寝入り、1時間ほど仮眠を取る。
暑い中を歩き回り、昼間っからビールを食らえば、眠くなって当然と言えば当然である。目覚めれば、すでに夕飯の準備の時刻だ。空と、アラビア海を、茜色に染める夕映えを眺めながら、今宵もまた海風が心地よい。
今日はトンカツ、それからたっぷりキャベツのマスタードシード(スパイス)炒めと、トマト&オニオンスープ。野菜の旨味がぐっと詰まった、力みなぎる夏のメニューである。
気がつけば、8月が、終わろうとしている。