一昨日、インド航空会社最大手のジェットエアウェイズと二番手のキングフィッシャーエアラインが業務提携するとの突然のニュースに、メディアは沸いた。
航空業界の不振は、敢えて詳細を綴るまでもなく、世界規模の趨勢。好景気のインドでも、その経営難はシビアなようで、二社はコードシェアをはじめ、機体の整備、給油などのメンテナンスなどを共有するなどして、コスト削減を目指すとのことである。
さて、昨日の新聞。一面に、泣き顔の女性の大きな写真。黄色と紺のユニフォームを着たジェットエアウェイズの客室乗務員の写真だ。突如の大幅人員削減で、1900人もの従業員が解雇されることになったという。
15000人の社員を残し、すでにこの日通告を受けた800人に加え、数日中に1100人が解雇通知を受けるとのこと。一昨日に増して、空港周辺およびメディアは大騒ぎ。
普段は笑顔の客室乗務員たちが、その美しい顔を険しく歪めて一斉に抗議するさまは、パワフルの一言に尽きる。
「以前はカタール航空に勤務していたのですが、両親と一緒に住むためにジェットエアウェイズに転職したばかりだったのに。これからどうすればいいのでしょう!」
「1ラック(約27万円)もかけて、航空学校へ行って、ようやく半年前から働き始めたというのに、突然の解雇だなんて。ローンもまだ返していないのに!」
「家族の生活をわたしが支えているんです。両親はわたしの仕事を誇りに思っていたのに。これからわたしたちは、どうして暮らしていけばいいの?!」
社員の平均給与は2万〜3万ルピーと思われる。つまりは10万円以下。日本に比べるとずいぶん安いが、しかしインドではやはり花形の職業である。
中には、
「ディワリ(今月末のインドの正月)の前に、解雇するだなんて! なんてひどいことでしょう」
というコメントもあった。いやいや、ディワリ前だろうが後だろうが、この際ひどいことには変わりないだろう。
最近の国内移動はほとんどジェットエアウェイズを利用しているフリクエントフライヤーであるわたしにしてみれば、機内食の削減から始めればいいのにと思う。
国内線のフライトで、あんなにご丁寧な機内食が出るのは、今時インドくらいではなかろうか。乗客としてはうれしいが、しかし解雇された人たちが気の毒である。
さて、本日のニュース。上の写真が今日の新聞である。社員の大反発を重くみた会社側は、一夜で解雇を白紙に戻したのだ。朝令暮改とはまさにこのこと。
解雇しないかわり、給与削減とするらしいが、社員はみな大喜びで、会社に感謝の意を表している。この経緯だけを見ていれば、ひょっとしてこれは一つの作戦では、とさえ思ってしまった。
「解雇」という衝撃に比べれば、「減給」は軽い。まず解雇で衝撃を与えておけば、減給で反発する人はないだろうとの作戦ではないだろうかと思ったのだ。しかし、それはあまりにも意地悪な見方かもしれない。
なぜなら、昨日のジェットエアウェイズ社長の会見は、非常にインド的な家族的温もりを感じさせる、感情的でセンチメンタルなものだったからだ。
社員の人たちの悲しむ顔を見て、自分は非常に辛かった、会社の財政問題のために、家族のような存在である社員たちを傷つけたことを、また社員とその家族を悲しませたことを、深くお詫びします、社員のみなに笑顔が戻ることを望みます、解雇せずに財政難を切り抜けるべく経営を考えますと、彼は切に訴えていた。
それは、見ているだけで目頭が熱くなるような、語り口調であった。
裏事情はいろいろあるのだろうが、インドとは、やはり一筋縄では判断できない、興味深い国であると、この一件を通しても思った。
ともあれ、重量感のある陶器製の食器に入った機内食はもうやめて、原価の安いサンドイッチやスナックでも出して、まずはコスト削減を図ってほしいものである。
とりあえず、明日は笑顔のスタッフに迎えられて、コルカタからムンバイへ帰ることができるだろう。よかった。