2年前の夜。それが咲いているとは知らず、庭に出た。
白い大輪の花が、夜の雨に打たれて静かに揺れているのが、目に飛び込んで来た。
その、神々しいほどの、存在感。大急ぎで部屋にいる夫を呼び、二人、傘をさして、静かに眺めたものだ。
昨年は、5つの蕾がついた。いくら写真で撮っても、花の気高さ、花の香り、その周囲の空気を伝えることはできない。
我々夫婦だけで眺めるのは惜しく、友人たちを招いて鑑賞会を開くことにした。
いつ開花するのか、タイミングがわからず、開花前の数日間は、毎夜やきもきとしていた。「ついには今夜開くだろう」と思った午後、友人らへ連絡。月下の宴を楽しんだ。
誰もが「今夜のことは、忘れない」と言ってくれた。記憶に深く刻み込まれた花の姿。
そして今年。11もの蕾がついている。
「どうぞ見にいらしてください」
と、しつこいほどに告知していたのは、この夢のような花の魅力を、少しでも多くの人に見てもらいたかったからだ。
年に一度。しかも、その日に、家にいるかどうかわからない。去年は、開花の前日、そして翌日は不在だった我々。その間をとって咲いてくれた花に、心から感謝した。
そして今年もまた。今日から夫は出張なので、夕べがぎりぎりのタイミングだったのだ。これが先週だったら、ムンバイにいて、見られなかった。
今年もまた、すばらしいタイミングで咲いてくれたことが、本当にうれしかった。
なにしろ開花がわかるのは当日のこと。
友人らに連絡をし、わたしは締め切りの原稿を書くために書斎にこもりつつも、つぼみの成長が気になって、いちいち庭に出て確認せずにはいられない。
仕事を終え、午後、鑑賞会へ向けて庭の準備を整える。
しかし今年はゆっくりと、8時過ぎての開花。
一度開き始めればしかし、どんどん花弁が広がっていき、その変化が手に取るようにわかる。
みなが持ち寄ってくれた料理を味わいつつ、お酒を飲みつつ、花の様子を眺めつつ……。
去年はご近所さんも招いたが、今年はのべ10名の友人らと、静かに楽しむことにした。
と言いたいところだが、相変わらず、我が家のゲストはなぜか、賑やかな人が多い。
「うるさすぎ! 近所迷惑!!」
と叫ばざるを得ぬほど、賑やかだ。月下美人が一生懸命、健気に開花している間、友人が「一発芸」を披露してくれたりもして、たまらん。
頼んでもいないのに、小道具を仕込んで来てくれての披露である。
その芸がもう、筆舌に尽くし難い内容で、場内、笑いの渦。箸が転げてもおかしい年頃のわたしはといえば、笑いすぎて、今、肋骨が痛い。
肋骨及び背中が痛くなるほど笑い続けたのは久しぶりのことで、そういう意味でも、忘れ得ぬ夜となった。
花びらが徐々に広がってゆき、めしべとおしべが見えてくる。岡本太郎の作品のような世界が、花の中に広がっている。
毎週月曜日は米国本社との電話ミーティングがあるため、帰宅が遅めになる夫。
開花のプロセスを見ることはできないかもね、と言っていたのだが、今年は去年よりも遅く開き始めたので、彼もじっくりと眺めることができた。
本当に、ワンダフルなタイミングである。
開花時間が遅かったこともあり、みな、のんびりと深夜まで、花見をしつつ、お酒を酌み交わし、語り、夜が更けるまで、楽しんだのだった。
咲いてくれてありがとう、月下美人。
実は、11の蕾のうち、夕べ開花したのは8輪。残りの3輪は、本日、開花しそうだ。今までは一気に咲いていたので「年に一度」だと思っていたが、微妙に、「年に二度」状態。
今夜は一人静かに、3輪の開花を愉しもう。
【昨年、一昨年の月下美人】
■上弦の月、夢一夜。月下美人囲み、杯傾ける。2011年6月10日 (←Click!)
■夢と現の狭間で揺れる。幽けき月下美人の宵。2010年6月15日 (←Click!)