6月29日(金)。この日もまだ、スリナガールの街は閉鎖状態。現地でコーディネートをしてくれているレヌカとアビール、そしてデヴィカが検討の末、今日は郊外へピクニックへ行くことになった。
工芸品巡りだけでなく、大自然を見に行きたがっていたアルヴィンドにとっては、グッドニュース。工芸品を楽しみにしていたわたしだが、翌日にまとめて回れるとのことで、ノープロブレム。
道路沿いの店舗という店舗はシャッターを下ろしており、閑散としている。とはいえ、人々は行き交い、特に緊迫感はない。
目的地のグルマルグ (Gulmarg)は、ピー・パンジャル山脈 (Pir Panjal Range)に位置する村。
パキスタンとの国境に近く、情勢的には決してワンダフルとはいえないロケーションながら、ここには毎年冬になると、世界各国からスキーヤーが訪れるという。
スキーに詳しくないわたしなので、詳細には触れないが、雪質や景観やらなんやらかんやらが、格別らしい。
そりゃあ、ヒマラヤ山脈やら、カラコルム山脈のK2やらを眺めながらのスキーとあっては、気分爽快に違いない。
わたしは昨年9月に、iPhoneを購入した。
世間から遅れてのスマートフォン購入であった。
あまりガジェッツに触れ合いすぎるライフは好まないのだがしかし。
便利なのね。
いちいちラップトップを開かなくてもメールの送受信ができる。(今更?)
MiPhoneを随時アップロードできるのも、iPhoneのおかげ。
そして何よりお気に入りなのが、このマップ機能。
どこにいても、自分の場所、目的地がすぐにわかる。
旅先で、よろしくないドライヴァーに遭遇しても、これがあれば、迷うことはない。
特に、地図を見るのが好きで、自分のいる場所を確認したい衝動が強いわたしには、本当にうれしい機能だ。
山間の展望所で車を降り、みなで記念撮影。雲が多い空ではあるが、時折、雲間から青空が広がり、たちまち緑鮮やかに、景色が生き生きと浮かび上がってくる。
左上の写真。左端がデヴィカ、真ん中がレヌカ、そして右端がレヌカの娘。
思いがけず、望み通りに山間のドライヴが実現し、ご機嫌のマイハニー。
こうしてみるに、どんだけ楽勝な仕事をしている人?
と思われそうなので、夫の名誉のために一応、書いておく。
彼もそれなりに、がっつり働くビジネスマンである。
が、彼の場合、長時間拘束されるタイプの仕事ではなく、打ち合わせやプレゼンを除けば、場所を問わずどこからでも仕事ができる。
だからって、急に思い立って、その日のうちに旅に出て来るというのはいかがなものか、という気がしないでもないが。
それにしても、今回の突然の来襲を通して、わたしは益々、夫に対する「不思議感」を高めたのだった。
思いがけないフットワークの軽さ。というか押しの強さ。友人曰く、
「アルヴィンドさん、マイペースなんですよ」
とのことだが、そうかもしれん。まさに究極のマイペース男といえよう。
インド人だから、なのか、アルヴィンドだから、なのか、そのあたりは、ようわからん。
グルマルグ、とは、ヒンディー語で「花々の草原」という意味だという。その名の通り、あちこちで花が見られ、本当にうれしい。
ちなみに写真の花は、ルーピン(Lupin)。
さて、ここから「フランス製」のゴンドラに乗り、山の中腹を目指す。ゴンドラのチケットを購入し、順番を待っていたところ、見慣れぬ電話番号から電話がかかってきた。
「もしもし? 美穂さんですか? ゆうこです」
そう、ローカルフード探検隊のU-KO隊員からの電話であった。昨年末、日本へ帰国した彼女一家。彼らはカシミールが大好きで、この地にも訪れていたのだ。
わたしとはまったく異なるアプローチである。
ともあれ、ブログやFacebookでわたしがカシミールに来ることを知り、いてもたってもいられなくなった様子。
どこぞのベーカリーの焼き菓子がおいしいだとか、どこぞのレストランの魚料理は美味だとかいう、カシミールの情報を、たいそう興奮気味に教えてくれるのだった。
彼女曰く、カシミールなら永住してもいいらしい。
そういえば、Pakako隊員も、過去にスリナガールを訪れたことがあると言っていた。
やはり、この地の魅力にひかれているようで、ローカルフード探検隊、旅先にも共通項があるのである。いつか、カシミールでローカルフード探検ができれば、楽しいだろうなあ。
これは、願っていれば、叶うような気がする。ぜひいつか、実現したい。
さて、この中腹からは、さらにゴンドラ第二弾があり、山頂へ行くことができる。ぜひとも乗りたいところだったが、土曜日のせいか、たいへんな人出。
待つだけで時間が過ぎて行きそうだったので、山歩きをすることにした。
ヤギを見ると、「パシュミナ……」と思ってしまう。あごの辺りの毛を、少し触らせてほしいものだ。
あいにく、雲がどんどん迫って来て、雨が降り出しそうな予感。とはいえ、ここで引き返すのは惜しい。彼方に見える氷河のあたりまで歩くことにする。
なにしろ標高3000メートルを超えているはずで、少し歩くだけでも息が切れる。じわじわと、歩く。
アイリスや、どこどなくエーデルワイスに似た黄色い花などを見つける。
そういえば、ヒマラヤの花といえば、ブルーポピーが有名。かつて米国で見たことがあるが、ヒマラヤに咲いているところを見てみたいものだ。
2005年、米国在住時。
デラウエア州ブランデーワインにあるロングウッドガーデンズでの一枚だ。
この庭園は、わたしが訪れたことのある庭園の中で、最もワンダフルな場所。
同じ年、2月と5月の2回、訪れた。
5月の方が、花の種類も多く、オランジェリー(温室)だけでなく、外の庭園をゆっくりと歩けたのがよかった。
過去のホームページに写真を載せているので、植物やお花が好きな方、どうぞご覧ください。たまらんよ。
■ブランデーワイン・ヴァレーとフィラデルフィア
■今度は初夏の、ロングウッド・ガーデンズを。
今、久しぶりに写真を見直したが、本当に花々がすばらしい。季節ごとに異なる花が見られ、本当に見事なのだ。
あまり観光客が訪れない場所にあるだけに、知名度のあまり高くないが、花好きな方にはたまらない場所であること、間違いない。
歳を重ねるほどに、記憶の引き出しが増えてゆき、回想する事柄もまた、積もり積もるというものである。
何を見ても、何かを思い出すのだ。
……と、話をインドに戻そう。
レザージャケット持参で、防寒の準備は万端のマイハニー。
しかし、雨は予測していなかったらしい。
わたしはレインパーカーを着ていたのでノープロブレム。
と、デヴィカがアルヴィンドに、予備の毛糸の帽子を貸してくれた。
おそろの帽子を被る二人。
に、似ている……。
と思うのは、気のせいか。
さて、わたしはといえば、頑丈そうに見えて三半規管が弱く、多分、高地にも強くない体質だ。旅はこれから、につき、体調を悪くしたくないので、じわじわと、のぼる。
途中で軽い目眩がしてきたので、足を止める。高山病を防ぐ方法はあるのかとレヌカに問うたところ、
「お腹がすいてちゃ、だめなの。何かを食べて上るといいわよ」
と言いながら、途中のベーカリーで仕入れて来た焼き菓子を出してくれる。
山歩きの途中で食べた、この素朴なチョコレートケーキのおいしいことといったら! きめが細かく、しかもしっとり。風味豊かにおいしいのだ。
ワンダフルな環境のせいなのか、それともこの菓子が本当においしいのか、そのあたりはよくわからんが、幸せだったことには違いない。
ついでに、大振りのビスケットもアルヴィンドと分け合って食べる。
ランチ前だというのに、明らかに、食べ過ぎである。
だが、高山病になっちゃいかんので、仕方ないのである。
ちなみにこの菓子類は、スリナガールにいくつかチェーン店のあるHAT TRICKという店のものらしい。
U-KO隊員が勧めてくれた店も人気らしいが、レヌカ曰く、双方の店の厨房を見て、HAT TRICKの方がいいと判断したらしい。
レヌカのその探究心。微妙に、気が合う感じ。
そしてついには、遠くに見えていたグレイシャー、即ち氷河に到着!
思わずこぼれた第一声。
汚なっ。
仕方ないのよね。冬場は一面、雪に覆われているこのあたりだが、今は真夏。とはいえ、氷河でソリだのスキーだのの真似事をしたい人たちが、氷河の上を行き来するのだから、汚れて当然である。
ともあれ、インドで初めての氷河体験。それができただけで、我は十分に、満足である。
山を下るころ、本格的に雨が降り出し、急ぎ足でゴンドラ乗り場へ。山頂近くで本降りにならずに助かった。少々雨に濡れたが、ラッキーであった。
そして下山、ランチタイムだ。実はこのあたり、気が利いたレストランなどは一切ない。特にスリナガールは「厳戒態勢」とあり、この付近もまた、諸々、規制が厳しい。
みなのランチをどうするか、苦心したレヌカは、政府関係者にまであたってくれ、彼らのプロパティで料理を振る舞ってもらうべく、手配をしてくれた。
インドとは、善くも悪くも、コネ(コネクション)がものを言わせる国である。
そのコネを、駆使していただき、本当に、感謝である。
絶景を眺めながらのランチはまた、格別。参加者たちは、みなフレキシブルでポジティヴな人ばかり。話していて、楽しさが増すというものだ。
止んでいた雨が、食事を終えて、デザートを食べたところで再び降り出した。これまた、絶妙なタイミング! みなで車に駆け込み、帰路につく。
思いがけず、ギフトのようなピクニック。参加者は口々に、レヌカとデヴィカの機転に感謝しつつ、楽しかったドライヴ&ピクニックを振り返るのだった。
さて、ホテルに戻り、ほっと一息。ホテルの庭でお茶を飲み、くつろぎ、iPhone経由スカイプで日本の母に電話をする。
カシミール峡谷。と聞くだけで、電波もネットも届かなそうなムード満点だが、なんともクリアに、母の声が聞こえることよ。
この地の素晴らしさを語り、夫来襲の顛末を説明しては笑い、遠くて、近く、近くて、遠い。
夕暮れ時、夫と二人でホテルの近くにある遊歩道を散歩する。コーランが、あたり一帯に響き渡り、夕映えが静かに花々を照らし、何とも言えぬ、ひとときだ。
アルヴィンドがバラの匂いを嗅いでいると、おじさんが声をかけてきた。
「そのバラは、あまり香りがしないよ。外来のハイブリッド種だから。カシミール原産のバラは、一つの茎にたくさんの花が咲いて、非常に強い香りなんだよ」
と、説明をしてくれる。
自分から「一緒に遊歩道へ行こう」と誘っておきながら、そのおじさんと、いつまでもいつまでも、語り続けるマイハニー。
妻は一人で、遊歩道を歩くのである。
「彼はこの近所に住んでいるドクターなんだ。遊びにおいでって誘われたけど、さすがに、初対面でそれはないよね。遠慮しておいたよ」
とのことである。
かくなる次第で、この日もまた、思いがけぬギフトのような一日であった。