7月1日(日)。この日で、スリナガールにおけるハンドクラフトツアーは終了。ここから先の2泊3日は、デヴィカが個人的に、関心を持ちそうな人にだけ声をかけての、プライヴェートな旅だ。
彼女が羊飼いの女性たちを支援すべくプロジェクトを行っているのが、目的地のパハルガム (Pahalgam)。日本語のサイトでは、「パハルガム」の表記が多いが、実際には、「ペヘルガム」と発音されている。
バンガロールが実際に発音すると「バンガロァ」なのと同様だ。
正しい発音を記しておきたく、敢えてパハルガム(ペヘルガム)と、くどく表記することにする。
最後の最後まで、パハルガム(ペヘルガム)に同行したがっていたマイハニー。
プレゼンのためのカンファレンスコールを、ホテルからできないかどうか、実は夕べ、あれこれと問い合わせていた。
不可能ではなさそうだったが、万一、回線にトラブルがあったり、携帯電話のネットワークが不全だったら、洒落にならない。
非常に重要なプレゼンにつき、さすがのマイハニーも、ここでバンガロールに戻ることを決めたのだった。
とはいえ、飛行機は午後の便。
わたしたちよりも一足先にホテルを出て、ちゃっかり市内観光をしたのだという。これはホテルから立ち去るハニーの写真。
2泊3日のお別れです。
上の4枚の写真は、アルヴィンドの撮影。湖でボートに乗った後、どこぞの公園へ行き、ピクニックランチを楽しんだとのことである。
この、しかめっ面をしたおじさんの漕ぐボートに一人で乗って、湖面を遊覧していたのかと思うと、ちょっと笑える。
さて、デヴィカとキラン、そしてわたしの3人も、車に乗り込み、次なる旅へ。スタッフのみなさんに、地味に見送られての出発だ。
さて、目的地のパハルガム(ペヘルガム)は、スリナガールから約100キロ東に位置する。
ヒマラヤ山脈とは実に広大で、西のパキスタンから、東へ向かってインド、ネパール、ブータンを貫き、北側のチベット自治区にも及ぶ。
ゆえに、いちいちヒマラヤ山麓云々を連発して記すこともないのだが、「ヒマラヤ」と書くだけで、旅情が高まるので、書いてしまう。
道路事情のいい国であれば、100kmほどの距離は1時間半もあればたどり着くところだが、ここはインド。3時間は見積もってのドライヴだ。
途中で、西暦800年代に建造されたヒンドゥー寺院の遺跡を眺めたり、田園風景に和ませられたりしつつの、しかし、実に埃っぽいドライヴだ。
一応、舗装はされているものの、暑くて乾いた大地の砂塵が、車の通過で舞い上がる。窓を閉めたいところだが、カシミールのタクシーは、冷房がついていても壊れていたりして、使えない。
そもそも、今年が例年以上に暑いらしく、普段はエアコンなどを必要としないから、設備に注意を払っていないようである。
途中、このような木材が積み上げられた光景を、数キロメートルに亘って目にした。これは、何のための木材だか、おわかりいただけるだろうか。
インドのエンターテインメントに不可欠な道具。
そう、クリケットのバット、である。ここはクリケットのバット生産の中心地であるらしい。
使用されているのはこの木。ウィロー (Willow)、すなわち柳の木だ。
クリケットのバット以外で、この地で多く見かけたのは、サフランの看板。このあたりはサフランの原料となるクロッカスが栽培されているのだ。
4月の開花時期には、この見渡す限りの大地に、紫色のクロッカスの花が咲き乱れるという。想像するだに、すばらしい。
花々が咲き誇る4月に、またこの地を訪れたいと強く願いつつ、今はただ茶色い大地を眺めるのだった。
途中の商店で、休憩。ここでもサフランが量り売りされている。サフランの箱の上に、野鳥が……。
水田を見ると、郷愁を駆り立てられる。自分の中のアジアの血が、静かに反応するようだ。
スリナガールを出発して以来、道路はLidder Riverと呼ばれる川と、近く遠く、並行しながら走っていたのだが、パハルガム(ペヘルガム)に近づくにつれ、川と道路との距離が狭まって行った。
同時に川の色が、どんどん麗しくなってゆく。
轟々と流れる渓流の、その目にも耳にもうれしいさま。極上の爽快感だ。やがて車は、標高2740メートルの避暑地 (Hill Station)、パハルガム(ペヘルガム)の町中へと入る。
小さい町、いや村ながらも、ここは魚釣りやスキーなどを目的に訪れる観光客も少なくないようだ。
加えて、パハルガム(ペヘルガム)を拠点とするヒマラヤ山中、アマルナート洞窟 (Amarnath Cave)に、ヒンドゥー教の聖地がある。洞窟には、氷で作られたシヴァ神のリンガ(男根)が奉られている。
即ち、このあたりはヒンドゥー教徒の巡礼地(ヤトラ Yatra)であることから、巡礼の季節には、大勢の人々が訪れるとのことである。
ゆえに、こんな麗しき景観の、のんびりした村にも関わらず、宗教間の対立などが起こる怖れもあることから、兵士らの姿が一段と多いとのことだ。
上の写真は、アーミーキャンプだと思っていたのだが、今調べてみたら、兵士らのキャンプとは別に、巡礼者用のベースキャンプがあるらしい。
しかも、わたしたちが訪れた数日前の6月29日、なんと14,000人もの信者らが、この小さな村に集まり、アマルナートに向けて4日間に亘る巡礼の旅に出発したとのこと。
ちょうど、わたしたちが滞在していた2泊3日、14,000人の老若男女が、山道を歩いていたというわけだ。知らなかった。
さて、チェックインするのは、目抜き通りの中程にある、パハルガムの老舗リゾート、その名もパハルガムホテル。
ホテルの左右に、レストランとカフェが並んでいるのだが、レストランの看板に目が留った。
"THE TROUT BEAT"。この店、U-KO隊員がお勧めの魚料理の店だったのだ。実はこの左右のレストラン&カフェはホテルの同経営。なんとも奇遇である。
道路に近い駐車場で車を降り、ロビーでチェックインをすませ、庭を横切った先に……。
目の前に広がるは、絶景!
清流の音も心地よく、青空、緑、山々、花々、そしてナイチンゲールの得も言われぬ美しい鳴き声!
部屋に入れば、広々とした窓から、またしても絶景が見渡せる。眺めがよすぎる部屋! 一人で滞在するのが惜しいほどの、すばらしい場所である。
しばし、窓の外の景色を眺める。アルプスもいいけれど、ヒマラヤもいいものだなあ。と、その郷愁を伴う柔らかな空気に包まれながら、思う。
この特有の、心和む雰囲気は、なんなのだろう。初めて訪れる場所なのに、懐かしい感じがする。
庭を歩けば、柔らかく色とりどりの花々。右下の写真は、ポピー(ケシ)の花の一種。こんな花びらのポピーを見るのは、初めてのことである。
ひとしきり、花を眺め、写真を撮り、そして自分が相当に、お腹が空いていることに気づく。
ランチの前に、デヴィカから一人の女性を紹介された。ラムニーク。
ラムニークはこのパハルガム・ホテルを経営する一族の女性。ホテルのマネジメントに関わる傍ら、デヴィカとともに、羊飼いの女性たちの支援プロジェクトを行っている。
ランチはヴェジタリアンのブッフェ。ノン・ヴェジの人は、追加で肉や魚を注文できる。ここの料理もまた、ブッフェながらもかなりおいしく、何とも幸せである。
食後、ホテル内のギフトショップへ。ここは、ラムニークが買い付けた、趣味のよい書籍や雑貨、手工芸品などが並べられており、眺めるのが楽しい。
一隅には、ラムニークとデヴィカの共同プロジェクト、シェパード(羊飼い)の女性たちの手づくり作品も売られている。彼らの活動については、後ほど詳細を説明する。
ここには、あまり見かけないタイプのパシュミナが売られていた。中でも目に留まったのは、金糸が織り込まれた右上のパシュミナ。
写真ではわかりづらいが、シンプルなこの一枚布。羽織れば、角度によってキラキラと輝く、上品な美しさなのだ。
これならば、どんな服を着ていても合わせやすく、シンプルなのに華がある。というわけで、迷いなく購入。
ホテルの部屋でしばしくつろいだあと、デヴィカとキランの3人で、地元のタクシーを頼み、山間へドライヴに出かけることにした。
ARUと呼ばれる、更に山奥に入った場所にある村だ。
途中の道路、日曜だということで、ピクニックなどへ訪れる人たちでごった返し、大渋滞。とまった車窓から、行き交う人々を撮影する。
ご覧の通り、南インドの人たちとは、まったく異なる顔つき、身体つきの人々。目の色素が薄く、澄んだ目をした美しい人たちも多く。
服装を見て、お気づきの方もあるだろう。
男性の服装は、まさに「いまどき」なのだが、女性たちは伝統的なサルワールカミーズ。
ラムニークから、この地の女性たちの地位の低さについて、その後、話を聞くことになるのだが、ともあれ、服装を見る限りにおいても、明らかに男性の方が自由であるとの印象を受けた。
2001年の国勢調査によると、人口は5922人。男性56%、女性44%。識字率は35%。女性の識字率に関しては17%……。
この町には、病院がなく、だから大きな病気や怪我をした際には、スリナガールまで行かねばならないという。
ごく限られた、この現状を知るだけでも、わずかながら、この地の背景が透けて見えるようである。
車は砂利道を緩やかに蛇行しながら、高みを目指す。時折、目に飛び込んでくる渓谷。点在する粗末な家々。氷河から流れ落ちる滝……。
途中、視界が広がった場所で車を降り、写真を撮る。山深く、このあたりの景観もまた格別だ。
数十分のドライヴののち、小さな村ARUに到着。質素な建物に、数軒の店が並び、ぽつぽつと訪れる観光客を相手に、ホースライディングをさせる人々……。
山々を望む平原を、しばらくのんびりと散歩する。そのあと、食堂に入って休憩。
左上の写真は「ケサール・ミルク」というカシミールならではの飲み物。ケサールとはサフランのこと。濃厚な牛乳にほんのり甘み。これもおいしい。
右上の青年は、Good Guys Get Good Girls、らしい。