2007年1月に放送されたNHKスペシャルの『インドの衝撃』(全3回)。急激に経済成長を遂げるインドの様子がリアルに取材された、とてもすばらしい番組だった。2008年7月にも、『インドの衝撃2』(全3回)として、放送された。どちらもDVDに保存している。
わたしが「Super 30」の存在を知ったのは、この番組の第1回「わき上がる頭脳パワー」を見たときだった。
インドで最も貧困とされるビハール州パトナにある私塾「ラマヌジャン数学アカデミー」。極めて数学が得意だったことから、英国のオックスフォード大学から入学を勧められたにもかかわらず、航空券を買うことすらできなかったため、断念したアナンドという男性が創設した。
校舎と呼ぶにはあまりに粗末な建物のなか、数百人の若者が勉強している様子は極めて印象的だった。2002年以来、特に優秀な生徒を30人選び、IIT(インド工科大学)の全員合格を目指す特別授業を施す様子には感嘆したものだ。
1947年にインドが独立した直後、巨大国家の基幹を育むべく、ネルー初代首相をはじめとする首脳らが、インド工科大学(複数)の設立を計画した。優秀な学生らはしかし、卒業後、海外での就労を目指して「頭脳流出」していき、インドの社会や経済に貢献することは久しくなかった。
その趨勢に変化が見られ始めたのは2000年ごろ。頭脳流出から頭脳循環という傾向が見られるようになってきた。このあたりのことは、過去のブログに詳しいので、関心のある方は目を通されたい。
昨日は、その「Super 30」の創始者であるアナンド・クマールが、YPOのイヴェントに招かれ、講演することになっていた。極めて楽しみにしていたわたしは、慈善団体訪問直後で疲労困憊だったにも関わらず会場を訪れ、一番前の席を陣取り、話が始まるのを待っていた。
が! 彼が話を始めても、内容が頭に入らない。なんてこったい! 彼はヒンディー語で話し始めたのだ……。インドに久しく暮らしながらヒンディー語を話せないことに関しては、もう100%わたしの問題である。が、この哀しみときたら、どうだろう。
最初は、最底辺の貧しい暮らしをしていた若者らが、勉強して、IITを卒業して、海外で活躍している映像などが映し出されてイメージを見ながら、想像しつつ聞いていた。
時折出てくる英単語だけを拾い、急激に襲い来る睡魔と闘いながら座っていたら、遅れて入ってきた親しい友人が、WhatsApp経由で、わたしに英訳文を送ってくれるではないか!なんという、心遣い!
貧しくても優秀な若者に大学進学のチャンスを与えたいとの一心で、1日18時間、毎日、数学を教えているアナンド。すさまじい情熱には言葉がない。
彼の実績や、とりまく諸問題を聞きつつ、感じ入ること多く。来年早々、彼をテーマにした映画が、ボリウッド人気俳優のリティク・ローシャン主演で公開されるらしい。
◎NHKスペシャル『インドの衝撃』を観て思うことたっぷり。(2008年10月の記録)