気温が下がり、ジャケットを着ていても日陰は寒いが、日向に出るとたちまち暑い好天のプラハ。
明日はドレスデンへ向かうので、ゆっくりできるのは今日一日だけ。
カレル橋を渡り、石畳の坂道を上って、プラハ城そびえ立つフラチャヌィの丘を歩く。
24年前、この丘のはずれにある安ホテルに滞在していたのだが、上り下りのルートが異なっていたせいか、観光のハイライトのひとつであるプラハ城を訪れないままだった。1週間も滞在していたにも関わらず。
今日はだから、丘の上からの光景も、なにもかもが目新しく、瞬く間に一日が過ぎたのだった。
夜も更けてきた。心に残った光景を残しておきたい。
息を切らしながら坂道を上ってたどり着けば、更に見上げるばかりの建築物の壮大。
広大な敷地内を、散策する。
仰ぎ見てばかりで、首が痛くなる。
24年前がしきりに、鮮やかに思い返される。
過去を振り返るというよりは、パラレルワールドに迷い込み、行き来を繰り返しているような、奇妙な感覚。
このごろは、インドの日常が、遠い。猫らも、遠い。
会いたくなるので、思い出すのはやめよう。
今回は、フォーマルな装いで出かけるコンサートへ赴く機会はなかったけれど、気軽に楽しめる環境を満喫できて、よかった。
ランチは高台で、ビールとサラダ、パスタをシェアして軽いランチだったので、だいぶお腹がすいている。
近場でいいところを探してと、我が家のレストラン検索大臣に頼んだところ、思いがけず、またしてもすばらしい店に遭遇した。
エントランスに「♪」があるホテル内の、CODAという名のダイニング。ふらりと立ち寄るには、優雅すぎる空間だった。
折しも日曜日。すでに満席だったはずが、直前にキャンセルが出たからと迎え入れてもらえたのだった。
ピアノのライヴ演奏が行われている店内。随所に、芸術作品が配されている。ダリやシャガール、ピカソの作品、そしてアンティークの数々。わたしたちのテーブルの横には、古伊万里風のランプも据えられている。
明日、訪れるドレスデンのツウィンガー宮殿。27年前に訪れたときに、古伊万里のコレクションがあったことを思い出した。
昨日同様、チェコの伝統料理を現代的にアレンジしたという料理をオーダー。豚肉も、鴨肉も、極めておいしい。肉とはいえ、ソースがほどよく軽いので、あまり重くない。思いがけず、大満足の夕餉であった。
これまで「プラハは食事が辛かった」という記憶を引きずってきたが、今回の旅で、プラハの食事のおいしさを存分に経験できた。
レストランのバックグラウンドなども調べたいところだが、今日のところは明日に備えて、そろそろ寝るとしよう。
【翌朝の記録】
今朝もまた、麗しい眺め。普段は睡眠7、8時間と「寝る子は育つ」とばかりに、これ以上育つ必要もないのに、よく寝ているが、旅の間はどうしても、6、7時間と短くなる。
それでも朝は、すっきりと目覚め、日常からは遠い、窓からの光景に見入る。茜色の朝日があたりを包み、情景を柔らかくしている。
夫は、旅の間もジョギングに出かける。
わたしは軽くストレッチと体操をして、インドから持参しているオリジナルのハーブティーを飲みながら、朝食までのひととき、こうしてラップトップに向かっている。
プラハの旅をまだ、消化できておらず、綴っておきたいことはまだまだあるのだが、今日は正午過ぎの列車で、ドレスデンに向かう。
この2日間、肉類だけを食べ過ぎて、そちらもしっかり消化できていない気がするが、しかし、敢えてチェコの伝統料理を選び、試してみたかった。
普段は、肉と魚介類という組み合わせを選んでシェアするのだが、敢えての肉料理だった。
夕べは疲労困憊で書きそびれたが、ポークはひところ流行った「低温調理法」によって、極めてやわらかく、ほんのりピンク色に仕上げられていた。
そして鴨肉は、一昨日のランチ同様、素朴に旨味がしみ込んだ、ザワークラウトの酸味とよく合う料理だった。
今回の旅では、思い出にボヘミアングラスを買いたいと思っていたが、街中では良質のものを目にする機会がなかった。
ところがプラハ城内のガラス工芸品店で、明らかに、これまで見たのとは違う「本気」のグラスを見つけた。紛れもなく、職人技が滲んでいる。
ボヘミアの森のような、昨日の記録に載せた、深い緑のシャンパングラスを買った。保証書のようなものも添えられている。街中に支店があるか尋ねたところ、城内のこの店1軒だけ、なのだという。
音楽会が始まるので、ゆっくりと吟味する暇がなかったが、欲しかった物を買うことができて、とてもうれしかった。
我が家には、27年前にプロヴァンスで買った小さなサントン人形や、スウェーデンで買ったガラス製品(いずれも1階のトイレに飾っている)が今でも健在だ。このグラスも久しく使い続けたい。
チェコの名産である琥珀のアクセサリーも興味があったが、これはまた次の機会に残しておこう。
プラハには、改めて「ゆっくりと」訪れたい。観光客はすさまじく多いけれど、荒波をかき分けるように、この都市の本質を眺めながら歩きたい。
無論、観光ポイントを除けば、静かで魅力的な街並が広がっている。
本当に、すばらしい3泊4日だった。ドレスデンで2泊したあと、最終日にプラハへ戻り、1泊して翌日の便で、バンガロールに戻る。
いよいよ、旅も佳境だ。
まだまだ紹介したい写真はたくさんあるが、ひとまずは、インスタグラムにマキシマムな10枚を選ぶ。夫がジョギングの途中に撮影した、朝のカレル橋の写真などもシェアしつつ。
物語に満ち溢れた麗しい町、プラハ。ありがとう。