会場だったナヴィ・ムンバイから1時間余りのドライヴを経て、バンドラ・クルラ・コンプレックスにあるホテルに戻り、久しぶりに大きなバスタブで湯船に浸かり、ベッドに入っても、興奮覚めやらず、今朝は早くから目が覚めた。
半年前、ニューヨークの帰りにロンドン経由でダブリンに降り立ち、U2の故郷であるアイルランドを旅したことや、この間、日本で買った赤いiPhone11は、U2ボノが提唱したHIV/AIDS救済プログラムに貢献する(PRODUCT)REDだったことは、静かな序章だったのかもしれない。
U2の歌は、社会問題をテーマにしたものが中心だ。戦争、宗教紛争、反核、難民問題、人種差別、女性の地位、薬物依存、銃社会、精神疾患……。無論、わたしは彼らの曲の「旋律」だけに親しみを持っていて、歌詞の内容を理解してはいなかった。U2に限らず、英語の歌詞を知った上で気に入った洋楽というのは、本当にごくわずかだ。ゆえに、正々堂々と「好き」といえない中途半端さが伴っていたのだが……!
夕べは、本当に、最高だった。もっともっと歌詞を理解しながら、もっともっと聴きたいと思った。
YPOメンバーの友人たちと、ムンバイの会場を訪れ、「インドならではのドタバタ」を経て、幸運にも舞台の間近で彼らを目撃し、2時間以上、立ちっぱなしで、ともに歌い、踊り、浸った。パワフルで、鋭く、深く、強く、揺らぎなく、瑞々しく、そしてセクシーなボノの声!
舞台映像もファンタスティック。遠く遠くへ、旅をしているような気持ちにさせられる。
メッセージが、ぐいぐいと心に刺さる。
インドに対する敬意をもまた、幾度となく口にするボノ。インドの古くからの叡智。マハトマ・ガンディが提唱したアヒンサー(非暴力)。酷似しているアイルランドとインド国旗に言及しながら、今回初めて、インド公演ができたことを、メンバーが全員で喜んでいると伝える。
ドラムのラリーが「ツアーの最終日。遂に初めて、インドでライヴができた。今日は新たなはじまり。またインドへ来たい」と言葉少なにやさしく語る言葉もしみる。
HIS+STORYとしてのHISTORYではなく、HER+STORY=HERSTORYとしての歴史の構築。
「性別の違い、左右(思想)の違い、宗教の違いを超え、互いを尊重し合えれば、世界は平和になる」と叫ぶ。
40年間も、ずっとずっと歌を通して、自らのメッセージを国際社会に向けて発信し続けることのすさまじさを思う。60歳近くなっても、エナジェティックにステージに立つ彼ら。翻って小さな自分を顧みる。
ささやかでも、信念を持って、死ぬまでしっかり生きていこうと、改めて思う。いつまでも踊り続けていられるように、どこまでも歩き続けて行けるように、足腰を鍛えておこうと思う。
最後には、著名なインド人作曲家ARラフマーン(映画『スラムドッグ・ミリオネア』でヒットした「JAI HO!」の作曲者)が登場。コラボレーションによる初公開の新曲、その名も「アヒンサー(Ahimsa)」を披露してくれた。いろいろと、感慨深くて泣ける。
わたしは1985年、20歳のとき、初めての海外旅行でロサンゼルスに赴き1カ月のホームステイをした。そのときの経験が契機となり、「高校の国語教師になる」という将来の目標を転換、「いつか海外に出られる仕事につきたい」との衝動に駆られて、上京した。
一方の夫は、1987年、15歳のとき、家族でロサンゼルスを旅行した。そのときに、発売されたばかりのU2のCD、「THE JOSHUA TREE」を買った。それは彼が、初めて自分で買ったCDだった。デリーの自宅にCDプレイヤーがなかったので、「THE JOSHUA TREE」を聴くために購入した。
夫は10歳くらいのころから、伯父が定期購読していた『TIME』誌を愛読していた。U2を知ったのはTHE JOSHUA TREEを賞賛する記事を読んだからだという。繰り返しCDを聞き、米国への思いを募らせ、大学は米国に進学するのだと決意したという。猛勉強をして、進学校に編入し、晴れていくつもの米国の大学に合格した。
ちなみに、伯父がベッドの下に隠していたもう一つの愛読書『PLAYBOY』が、ティーンエージャーだった夫に強い刺激を与えたことも、書き添えておこう。ともあれ我々夫婦にとって米国は、切り離せない国だということを、改めて痛感する。
ちなみにJOSHUA TREE(ヨシュア・ツリー)。米国西海岸に、ヨシュア・ツリー国立公園があるという。知らなかった。車を駆って、行ってみたい。
ムンバイの片隅で、世界の広さを思いつつ、本当に、いい夜だった。
「アーデルハイド!」と、呟いてしまう。お気に入りの、この服を着ると。だってロッテンマイヤーさん風。
ベースのアダムとは、何度か目が合ったのよ! と、ミューズ・クリエイションの若女子らと話していたら、「ジャニーズのファンと同じようなことを言っている」と指摘された。ちっ。
でもね、本当に目の前で弾いてたから、見つめ合えたんです。