○バンガロールに20年前創設された混声合唱団「ロイヤルエコー」の助っ人メンバーとして、今日はカニンガム・ロード沿いにある「Seventh-day Adventist Central English Church」へ赴いた。バンガロール移住直後の1年余りをその近所に暮らし、何度となく前を通過していたはずなのに、その教会の存在を、今朝初めて、認識した。
○気にかけていないと、視野に入っていても、見えていないことは、たくさんある。
○80%弱を占めるヒンドゥー教徒を筆頭に、イスラム教徒が約14%、キリスト教徒2%強、そしてスィク教徒、仏教徒、ジャイナ教徒と続く。ここバンガロールのあるカルナータカ州は、アラビア海に面したケララ州、ベンガル湾に面したタミル・ナドゥ州と、キリスト教が早い時期から伝播した両州に接していることから、キリスト教徒が多く、教派もさまざまだ。
○インドにおけるキリスト教の歴史は、非常に古い。十二使徒の一人、聖トマスがイエスの指示に従い、「西暦52年」、ケララ州に上陸し、シリア正教の基礎を創設したという記録が残されている。インドでは、ヒンドゥー教やイスラム教に並び、キリスト教の祝祭日も国民の祝日だ。大航海時代、ヴァスコ・ダ・ガマやフランシスコ・ザビエルらがやってくる遥か以前から、信仰されていたのである。
○ちなみに本日訪れた「セヴンスデー・アドベンチスト教会」とは、19世紀前半に米国で起こった「(キリスト)再臨待望運動」を源流とするキリスト教系宗教組織だとのこと。このこともまた、今回、初めて知った。
○教会では、年末の大切な礼拝が行われており、そのプログラムの一環として、ロイヤルエコー他、2組のミュージシャンが招かれており、歌を披露した。日本の歌も含め、数曲を歌ったが、「アメージング・グレイス」を歌う際、信者の人たちに「一緒に歌いましょう」とエコー団長の志乃さんが声をかけた。大勢の人たちと声を揃えて歌う「アメージング・グレイス」は、かつてなく魂に響き、歌いながら、感極まった。
○牧師が語る「愛と平和、希望」の話は、半分も理解できなかったが、しかし「希望 Hope」という言葉を、ことさら、心の寄る辺にしているわたしにとっては、その時間もまたギフトだったように思う。
○おいしいランチをご馳走になったあと、教会をあとにした。
○現在のインド。実は宗教問題で大いに揺れている。インド政府は先日、パキスタン、バングラデシュ、アフガニスタンという近隣3カ国からの不法移民に市民権を与える法案を提出したのだが、「イスラム教以外の少数派宗教グループに所属していることを条件」としたのだ。この法案に反発する人々のデモなどが各地で発生している。この件を綴るとまた長くなるので割愛する。
○インドという多様性国家が存続し続けている「奇跡」は、異文化への理解、あるいは協調、敬意、調和と平和を願う思いなど、さまざまな要素があるだろう。不毛で希望のない、異教徒同士の諍いが、消えてなくなることを切に祈る。
○帰路、インド移住以来のなじみの店、「トムズ・ベーカリー」に立ち寄る。入った途端、クリスマス……!を実感する。ライフスタイルが劇的に変化し続けているこの国にあり、もう何十年も変わらないのであろう、そのクリスマスケーキ(プラムケーキをアイシングでコーティングしたもの)の風情に安堵さえする。
○1960年代に創業されたトムズ・ベーカリー。バンガローリアンなら誰もが知る、ごちゃごちゃとした、昔ながらのスーパーマーケットだ。所得階級の差を問わず、多くの人々に愛されている。オーナーはクリスチャン。トムズとは、聖トマスにちなんでの命名であろう。従業員もまた、その大半がケララ州のクリスチャン・コミュニティが出自だ。
○そもそもはベーカリー&カフェだったこともあり、素朴な味わいのパンやケーキ、スナック類が豊富。「昭和テイスト」なドーナッツが安くて美味だ。野菜や果物、乳製品、加工食品、各種調味料に日用消費財とあらゆるものが揃っている。アルコールショップも併設されていて、新銘柄のアルコールは大抵入手できる。最近お気に入りのクラフトビール「Eight Finger Eddie」もある。売れ筋の商品については、店のお兄さんに聞くと的確に教えてもらえる。外には果物店もあり、小さい店ながら、一気に買い物がすませられる、超コンビニエンスなストアである。
○2010年前後、バンガロールでは、小売業のテストマーケティングが全国の都市部に先んじて、行われた時期があった。数々のスーパーマーケットの旗艦店が一気に林立したとき、これからトムズ・ベーカリーはどうなるのだろうと案じたものだが、杞憂であった。客足は減ることなく、新しいスーパーマーケットが数年のうちにあっというまに淘汰されても、「昔と変わらない」風情のまま健在だ。
……と、なぜかトムズ・ベーカリー愛を語ってしまったが、これもクリスチャンつながり、クリスマスの話題ということで。🎄