アブ・シンベル大神殿へのドライヴを終えて夕暮れどき。灼熱の太陽が傾き始めたころ、オールド・カタラクトホテルにチェックインした。アガサ・クリスティが『ナイルに死す』を執筆した場所でもあり、古くから多くの著名人をゲストに迎えてきた。
1899年、英国の旅行会社が避寒地として建てられたリゾートがオールド・カタラクトホテル。その後、1961年に新館が増設された。2010年に、仏アコーグループの「ソフィテル・レジェンド」として改築され、現在の「ソフィテル・レジェンド・オールド・カタラクト・アスワン」となった。
今回のエジプト旅を決めるまでは、いや、旅に出るまでは、わたしは、エジプトに関する造詣がほぼ皆無だった。夫にしても然り。なぜ、特に関心を抱いていなかったエジプト旅を決めたかといえば、わたしたちが属しているグローバル組織であるYPOバンガロール支部がツアーを企画してくれたからだ。
他のメンバーらと合流する3日前にアスワン入り決めた理由は、カイロに住む夫の友人に、このホテル滞在を勧められたからに他ならない。建築家の彼とは以前、アスペン・インスティテュートの会合でバルセロナで会ったことがあり、建築に関する好みが共通していたことから、彼の勧める場所ならば……と、滞在を決めたのだった。
その後、アスワンの見どころを調べ、アブ・シンベル大神殿へのドライヴも決めたのだった。つまり最初に「オールド・カタラクトホテルありき」だった次第。彼のお陰ですばらしい経験ができ、感謝だ。
由緒あるホテルを初めて訪れるときの、そのエントランスをくぐる瞬間の、得も言われぬ心の躍動。期待を上まわったときの、いい意味で想像を超えたときの感動は、本当にいいものだ。
夕暮れの日差しが差し込むロビー。テラスからはナイル川、その向こうに古代遺跡が佇むエレファンティネ島が見える。なんという絶景!!
チェックインの際に出されたハイビスカス・ティの甘く芳しい味わいが、砂漠ドライヴで乾いた全身に染み渡る。なんという至福。
🇪🇬
このホテルはまた、ムンバイの我が愛すべきホテル、タージ・マハル・パレスホテルと似た雰囲気を持つ。タージ・マハル・パレスホテルも、英国統治時代の同時期に建築された高級ホテル。もっとも、このホテルとは異なり、インド一大財閥タタ・グループの創始者によって建立された「インド人のプライド」にかけたホテルなのだが、ともあれ。この話になるとまた長くなるので割愛。
タージ・マハル・パレスホテルもまた、旧館と新館があり、わたしは圧倒的に旧館が好きなのだが、このオールド・カタラクトホテルに関しては、どちらに滞在すべきか、かなり迷った。というのも、部屋自体の風情は旧館が魅力的なのだが、新館の方が圧倒的にすばらしい眺望なのだ。
2泊するので、1泊ずつ泊まろうか……などという案も出たが、結局は新館を選んだ。それはわたしたちにとって正解だったと、チェックインしたあとに確信した。これまでの人生、数え切れないほどのホテルに泊まってきたが、多分わたしの経験の中でも5本の指に入る「眺めのいい部屋」だ。
このホテルでわたしの心を引き付ける魅力のひとつが、「ムーア風」の内装だ。ムーア人とは、中世のマグレブ(チュニジア、アルジェリア、モロッコ)や、イベリア半島(スペイン&ポルトガル)、シチリア、マルタに住んでいたイスラム教徒のこと。
実はわたしにとって初めての欧州は、1990年のスペイン取材。その際、マドリード、アンダルシア地方、バルセロナを訪れたのだが、どの地も独特の魅力に満ちていて、それはそれは強烈な印象を受けた。中でもアンダルシア地方のコルドバは、イスラムとカソリックとのせめぎあい(レコンキスタ/国土回復運動)が見て取れる建築物が随所に見られた。
写真にあるストライプのアーチが、その「アルカサル」の内観を思わせるムーア風の内装で、独特のエキゾチシズムを漂わせている。夕食は、エジプト料理が楽しめるダイニングにて。思えばわたしは、生まれて初めて、エジプト料理を食べたのだった。
パセリの風味が鮮やかなファームサラダ。辛味のない、スパイシーな魚の煮込み、そしてエジプト風パスタ……。どれもユニークで、おいしい。
料理も音楽も、インドと陸続きで影響し合っていることを感じさせられたエジプト初日。未知の世界が身近に感じられた、豊かな1日だった。
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