エジプトの古代遺跡といえば、ピラミッドやスフィンクス、王家の谷くらいしか知らなかった。世界四大文明の一つがエジプト文明であり、ナイル川は世界で一番長い川であり、ナイル川のデルタは肥沃な三角地帯であり……と、地理や世界史の授業で習った程度の知識。
思えばインド移住前の、わたしのインドに対する知識はその程度だったし、それは遍くどの異国に対しても同じこと。いや、母国日本のことでさえ、実は知らないことが多いと思う。生きている限り、学生のころよりもむしろ、大人になってこそ学びたいことが、次々と湧き出てくるということを、改めて思う。
特にわたしが日頃から語り綴っているところの「歴史を知ることの大切さ」。それは自分に対しても、いい聞かせ続けていること。1988年。社会人になって初めての海外取材で、台湾を訪れて以来の指針だ。
今日のガイド氏も、説明の途中にそのことを強調していた。カイロ出身の彼は子供のころ、親に連れられて英国の大英博物館を訪れた。そこで見聞きしたことは、以降の彼の人生に大きな影響を与える。
「繰り返される戦争を回避するためには、歴史を学ぶ必要があるのです。そこから打開策を導くことができます」と力説していた。
アスワンでのガイド氏とも、その話でしばらく盛り上がったものだ。西欧史観の書籍だけを頼りに勉強していたのでは真実は見えない。歴史は書き手によって大きく変わる。英国人が書いたのではない、エジプト人によるもの、インド人によるもの、異なる立場や視点、あるいはイデオロギーから記された複数の書物を紐解く必要があると。
専門家や歴史家でもない限り、膨大な情報を紐解き咀嚼し吸収することは不可能で、しかし、せめて自分の知識は浅薄で、だから他者をたやすく軽んじるのは危険なことだということだけでも、心がけたいものである。さすれば、争いは軽減する。
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地理的に「中央」に位置付けられることの多いエジプト。この国の置かれてきたポジションもまた、一筋縄ではいかないということが、わずか数日のうちにも感じられる。
さて、午後はエドフ神殿 (Edfu Temple) を訪れた。紀元前57年に完成したハヤブサ神ホルスに捧げられた神殿だ。
建立以来、2000年以上の歳月が流れたということが信じがたいほどに、壮大な建造物、壁という壁に施された多様なレリーフの迫力に、ため息の連続だ。目に飛び込むすべてに、神々と人間を含む生きとし生けるものとの関わりの物語が刻まれている。
古代遺跡のハイライトを観光する前の序章の段階で、想像を遥かに凌駕する経験をしている。未知なる世界の広さを思う。明日はいよいよルクソールに到着だ。今日よりも更に濃密な一日になる。
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