自分の足で歩き、自分の目で見て、自分の手で触れて、そこではじめて良し悪しや好き嫌いを判断する。ライター、リサーチャーという職業柄、もちろん情報収拾はオンラインに頼るが、最終的には「自分で体験すること」を重視している。ゆえに、どこに行っても「歩く」ことになる。
今回は、咳は収まったものの、その余韻で背中や腰が痛く、残念ながら加齢を実感している。「年齢は、単なる数字♡」などというコピーが巷で聞かれるようになって久しいが、そんなこたぁない。もちろん、心はいつまでも瑞々しくありたいが、心や魂の「乗り物」あるいは「借り物」として肉体は、確実に老化していく。ゆえに、先走る気持ちを抑えつつ、身体を労らねばならない。
東京2日目は、浅草まで出かけたものの、人とは会わずに自由行動。心身ともにスローに動くことを心がけた。3日目の一昨日は、午後のお茶と夕食の二部制で、ミューズ・クリエイションの同窓会がある。ゆえにランチタイムまではのんびりと、日比谷公園でも散歩しようかなと思っていた。
今回の日本旅では、「浴衣の購入」がミッションのひとつであった。前回の一時帰国は秋だったが今回は初夏につき、浴衣が店頭に並ぶ時期だ。いくつかの呉服店で「浴衣」を探したが、しかし今回も無理だと半ば諦めていた。というのも、出来合いの浴衣は、機械のプリントによるモダンなものが多数。インドで日本の伝統的なテキスタイルを語る人間が着るには不都合だ。
もちろん、絞りや絣など、伝統工芸の浴衣もあるが、それらは反物を購入して仕立てることになる。となると1カ月から数カ月かかるとのことを、数軒の店で言われた。しかもお値段が跳ね上がる。諸々、不都合。
リーズナブルな浴衣に紛れて、ときどき有松絞りの高品質な浴衣も見かけたが、わたしにはサイズが小さく、柄もいまひとつ。ゆえに、前日の浅草で購入した単衣(ひとえ)のリユース着物を浴衣風に着ようかと考えていた。
ところが、2日目の夜、立ち寄った呉服店「ティロワール」で、魅力的なチラシをいただく。またしても、ビンゴなタイミングで開催されているセールだ。この呉服店の店主とは、2年前の一時帰国の際に言葉を交わしたことがあり、Instagramなどもフォローしていた。しかし、この催しのことは告知されいなかったので知らなかった。
店頭で対応してくれたスタッフの女性が、この会場ならば浴衣が見つかるかもしれないとチラシをくださったのだった。場所は日本橋付近。……これは同窓会の前に行くべきだろうか……。いや、行くしかあるまい。と、ショッピングバッグを肩にかけ、いざ出陣したのだった。ちなみにこの前日、浅草へは「空のスーツケース」を携えて出かけた。まさに爆買いのツーリスト状態。なにしろ着物や帯は重いから、とてもじゃないが、持ち歩けない。
👘
果たして! その会場は、宝の山であった。
スタッフの女性の方のサポートを得て、いろいろと教わる。着物世界の常識を、わたしは今、学びはじめたばかりだから、恥も外部も捨てて、お尋ねするしかない。着物用語を少しずつ耳にすることでなじんでいき、自分の言葉になる。その過程もまた、楽しい。
その結果! 身長165センチ、厚みあるボディの我がサイズにぴったりの有松絞りの浴衣が見つかったのだ! ちなみに有松絞りの浴衣は4枚ほどしかなかったが、どれもがなぜか、大きめサイズだった(これらは新品。売れ残りだったのか)。インドでも映えそうな華やかな色合いのものを選んだ。絞りのサリーと同様、絞りの浴衣は身体に軽くフィットして着心地がいい。これならば、イヴェントの際にも着やすい。
さらには……! 数ある着物の中から、「わたしはここにいますよ!」と呼びかけてくる一枚があった。……辻が花! なんと艶やかな美しさ! これはかなり高価であるに違いない。それよりなにより、サイズはわたしには小さかろう。しかし、気になる。ちょっと試着してみたいと広げてもらったところ……大柄なわたしにぴったりの寸法! しかも古めのリユースなのでお値段も想像していたよりはるかにお値打ち!
そして試着してみたら……非常にお似合い!!
スタッフの方々は楚々と対応される上品な呉服空間において、ジーンズ&Tシャツ姿で乱入し、あれこれ尋ねまくり、いちいち感嘆の声をあげ、「非常にお似合い」と自画自賛する自分は、だいぶ違和感だったと今振り返って思うが、いやもう、これは一期一会にもほどがある出会いだと思った。
これはもう、浅草寺の大吉を引いたおかげだと確信した。そのことを対応してくださった女性に話したら、浅草寺のおみくじの大吉率は非常に低く、凶が多いのだとか。結構、有名な話らしく、昨日も同窓会で同じ話を聞いた。かくなる次第で、稀な大吉99番を引けたことは幸運だった。
ちなみに1枚目の写真が辻が花だ。帯は商品なので折れないから幅広のまま巻いていただいている。自分はサリーが似合うとは自負していたが、着物もなかなかに似合うんじゃないかと確信した今回の旅。インドに帰ったら、本気で帯の結び方を特訓して、いつでもどこでもササッと自分で着付けられるようになろう。
実は来月、某イヴェントにて日本を語るミッションがあり、そのときに着物か浴衣を着ようと思っている。前回インドに持ち帰ったのは、母のお下がりが大半、どれも小さめだった。今回、自分に合う寸法のものを得られて、本当によかった。
🇯🇵【名古屋情景⑨】〈有松絞り-1〉インドから伝わった絞り染めが日本で花開く。江戸時代に栄えた有松を訪ねて。
https://museindia.typepad.jp/2023/2023/10/ar.html
🇯🇵【名古屋情景⑩】〈有松絞り-2〉100種類を超える「有松絞り」のごく一部をご紹介
https://museindia.typepad.jp/2023/2023/10/arm.html
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