1年半前の一時帰国時に着物に目覚めて以来、帰国のたびにリセール(中古)の着物を発掘すべく、福岡で、東京で、店舗や展示会を巡ってきた。
そして今回もまた、リサーチしていたところ、天神の「アクロス福岡」にある「銀座いち利」にて、リユースのバーゲンが開催されているのを見つけた。これは行かねばと、母の眼科&歯科通院の谷間だった木曜日、天神へ赴いた。
折しも、店内では西陣織の老舗「西陣まいづる」の展示会が開催されている。店内に入るや、伊藤若冲の青い鶏冠の鶏らが、目に飛び込んできた。リユース着物を見るよりも、見事な職人技の帯に俄然、興味が湧き、間近で拝見させていただく。
絹糸のしなやかさと輝き、精緻な織り具合が格別で、ほぇ〜……と感嘆の声が漏れるばかり。聞けばこの絹は、三眠蚕(さんみんさん)で織られているという。三眠蚕とは、孵化後に3回の脱皮を経て繭を作る蚕のこと。
一般的な4回脱皮する「四眠蚕」が作った繭に比べると、繭玉が小さく、糸が細くしなやかなのが特徴だという。触れてみれば違いは顕著。その細い糸で織られているからこその、この精緻な仕上がりなのだ。
また、内閣総理大臣賞を受賞したという「ゴブラン紹巴(しょうば)」という帯がエキゾチックで魅力的。昨年、エジプトを訪れて以来、すっかり引き込まれなじみとなったヒエログリフや様々なモチーフが、びっしりと織り込まれている。
ちなみに紹巴織(しょうはおり)とは、西陣織の代表的な織物で、中国由来の絹織物。一方、ゴブラン織とはフランス起源のタペストリーだ。この帯には、五色の経糸が用いられ、ゴブラン織と紹巴織の技術が融合して織りなされていることから、「ゴブラン紹巴(しょうば)」と名付けられているようだ。
さらに目を引いたのは、友人のYashoが東京旅で入手したことで初めて知った「螺鈿引き箔」と呼ばれる技法で織られた帯だ。引き箔とは、西陣織の技術のひとつで、和紙の表面に金や銀の「箔(ハク)」を貼り、それらをごく細く糸のように裁断したもので織る、織物のこと。螺鈿引き箔とは、貝殻の内側の輝く部分を丁寧に剥離し、柔軟になめして和紙に貼り、糸状に裁断して帯に織り込んだもの……。という、超絶技巧が反映された織物なのだ。
Yashoの帯もすばらしいので、以下の記録をご覧いただければと思う。
🇮🇳🇯🇵布が織りなす日印の絆:サリーと着物に触れ合う展示会(2024/09/20)
ところで、若いころのわたしはゴブラン織りが好きだった。欧米のミュージアムなどで、豪奢でダイナミックなゴブラン織りを目にするたび、見入ったものだ。個人的には、ベルギーを旅した際(東京時代とニューヨーク時代、ドライヴで一周した)のゲント(ヘント)にて出合ったゴブラン織りは本当に好みだった。中世の面影が色濃く残るゲント。久しく旅していない欧州への旅情も高まる。
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幸い、他のお客さんが少ない時間帯だったこともあり、じっくりと拝見し、京都からいらした「西陣まいづる」の方のご説明を聞くことができた。いち利のスタッフからも、この作品を目にする機会は滅多にないことであり、お話をお聞きできるのは幸運なことだと言われた。
リユース着物のバーゲンが目的で訪れた着物初心者が、ぐいぐいと関心を示すのは、日本では失礼なことなのかしらとの思いも過ぎったが、せっかくの機会。学ばせていただけてよかった。なお、こうしてソーシャルメディアに記すことはお伝えし、許可を得ている。
それにしても、若冲の帯は、今、写真で見返しても、麗しくて見入る。帯の見える部分だけでなく「見えない部分」にさえも、味わい深い水辺の様子が描き織り込まれている極まりよ。
この店でリユースの帯と着物を少し買い求めたあとランチをとり、さらにはわたしが着物に目覚める契機となった新天町の店に赴いた。毎回ここでは、なにかしらの魅力的な着物や帯に出合える。今回もまた、超廉価ですばらしい着物を見つけてしまった。バンガロールに帰ったら、袖を通そうと思う。他の写真も残したいが、膨大になるので、今日のところは西陣織メインで。
帰宅すれば、多々良川の彼方、玄界灘に沈む夕日を眺める。毎日のように、似て非なる日没を眺められることのありがたさ。名島神社の方角を見遣り、その深き緑の森に向かって合掌をする。
ミレーの『晩鐘』を思う。
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