いや、結婚前に一度、夫と京都で年を越したことがあるから、18回目か。大晦日の清水寺を詣で、おぼろ月夜の小雨降るなか、東寺のあたりで除夜の鐘を聞いた。
翌日は、宿の朝食でおせち料理を味わい、やはり宿で獅子舞を鑑賞したり、餅つきを体験させてもらったりしたものだ。つきたての餅にきな粉をまぶしたそれの、おいしかったこと。ついこの間のことのように思えるが、それもまた、遠い昔。
当然ながら、南インドのこの地には、日本的正月の片鱗もなく、わたしは2日から仕事に戻った。1月中旬までに仕上げておきたい仕事がいくつかあり、しかし師走は慌ただしくてなかなか捗らなかった。ゆえに新年早々、仕事始めである。
無論、途中での息抜きの方が遥かに長く、午後も日が陰り始めると、お茶やコーヒーよりも飲みたいものへと手が伸びる。年末、友人夫妻からいただいた日本酒を、お気に入りのグラスに注ぎ、少しずつ、味わう。
このグラスは、結婚式のプレゼントにと、ニューヨークで出会った友人から贈られた。決して割りたくないので、メイドには任せず、自分で洗って片付ける。
2001年、結婚式の折に初めてインドを訪れた時も、2005年にインドへの移住を決めた時も、インドでは、おいしいワインを手軽に飲めなくなることを、覚悟した。とはいえ、言うほど、ワイン通ではない。特段の拘りもない。
米国在住時から、普段は1本15ドル前後のリーズナブルなワインで、十分に満足できる我々だ。それでも、好きなものを諦めるという覚悟をしたくらいに、当時のインド国産ワインの味は、ひどかった。
それが今では、選択肢が増え、品質には一進一退あるにせよ、おいしいワインが誕生している。このカルナタカ州ハンピ産のKRSMAのワインもそのひとつだ。
インドワインの先駆的存在と言えば、マハラシュトラ州ナシック産のSULA。今でも安定した品質で、多彩な種類のワインを販売している。特に気に入っているのは、スパークリングワインのBRUT。しかし、赤白ワインに関して言えば、銘柄にもよるが、このところ、KRSMAの方が口に合う。
不自由なこと、とか、足りないこと、について、あまり意識しなくなって久しい。
その一方で、選択肢が多ければいいというものではない、とも思う。
週末は、親戚とともに夕食を。米国在住の親戚が、新妻を伴ってインドへ一時帰国。夫はコルカタ出身のインド人。妻はニューオリンズ出身のインド系米国人。ハーバード大学在籍中に知り合ったという二人。夫は現在、ボストンで弁護士として働き、経済学者の妻はワシントンD.C.の政府機関で原油価格に関する仕事をしているとのこと。
バーベキューを食べながら、ときに難解な話に集中して耳を傾け、ときにくだらない話題をスルーして食に集中し、英語力の不足云々を超えて、親戚との会話も、なかなかにたいへんである。子供は子供で「趣味はチェロ。好きな作曲家は……」と語り始める。消化不良を起こしそうだ。
ずっと自宅で過ごしていると、半野良NORAとの交流も増える。が、日中は大抵、近所のパトロールに出かけている。元旦に1歳の誕生日を迎えた彼女は、自分へのプレゼントなのか、あるいはわたしたちへ感謝の気持ちを込めてなのか、ともあれ、小リスを捕獲して来た。正月早々、大騒ぎである。
そして翌々日の3日。またしても小リスを捕獲。NORAを溺愛する夫もさすがに辟易し、小リスの亡骸に詫びを入れながら片付けている。このような「捕獲物収拾作業」をはじめ、NORAへの食事の準備、トイレの片付けなどを夫が自ら行う、ということが、思えば去年の、最も驚いた出来事のひとつだった。
自分のことは、殆ど一切、進んで行わないというのに。
そんな夫の、今年初めての買い物は、amazon.inで注文したピンポン球。卓球をするわけではない。なにかのサイトで、猫はピンポン球で遊ぶのが好きだと読んだらしく、購入することにしたようだ。
しばらくは、見向きもせず。玄関先で、招かない招き猫状態で、じっとしている。夫が何度も転がしてみせてようやく、反応を示すも、さほど喜んでいるようにも見えず……。
夫、全力で、彼女の注意を引こうとしているの図。手前の、バーカウンターにぶらさがっているのは、夫が昨年訪れた日本の、ペットショップにて購入した、NORAへのお土産である。リアルねずみやその他諸々が豊かなのだから、玩具までそろえることもなかろうと思ったのだが、予備にと2つ。そして先日のOWCのバザールでも1つ購入し、3匹もぶら下がっている。なんともいかしたインテリアだ。
夫の情熱に根負けして、ようやく本気で遊び出した。それなりに楽しそうで、何よりだ。
ところでこの植物、日本で言うところのパキラ、英語ではマネープラント、とも呼ばれている。お金が貯まり、家に幸運を呼ぶ植物ともいわれる。この木をよじのぼって、NORAは柵をこえ、野良活動を行う。
NORAを野良でなくすために、この木を移動させるべきかとも思ったが、枯らしてしまうことになったりしては、不本意だ。というのも、これは、思い出の植物なのだ。
最後までインド移住を渋っていた夫が、ついにバンガロールへ移る決意をした。しかし当初、彼にとっては米国での快適なオフィス環境からほど遠く、バンガロールのすべてが、相当に辛そうだった。そんな中、オフィスに少しでも潤いをと、パキラの鉢植えを買ったのだった。
2006年5月。移住して半年後のことだ。そのときの記録を今、読み返してみた。さすがに、9年前の自分は、若い。そして、パキラが、微笑ましいほど、小さい。
なんとも、いろいろあった。そしてこれからも、いろいろある。
幸せは、自分の手で、育てなければ。
もはや、色あせることがなくなった過去の写真を目の前に、歳月さえも飛び越えて、当時の心持ちを思い返しながら。
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