10月下旬だというのに、福岡は暖かい。思えば昨年も、秋とは思えぬ暖かさだったと思う。
ここ10年足らず、福岡に帰省した際の「最低限」ショッピングルートというのが確立されている。米国在住時、すなわち30代のころと、インドに来てからの40代とでは、必要だ、と思われるものが変わった気がする。
昔から、いつもお世話になっている「岩田屋」。まるで旅行者のごとく、キャリーバッグを携えての一日だ。
ドライヴァーのアンソニーが荷物を持ってくれるわけではない。荷物が重くなっても自分で運ぶのは当たり前。ゆえに、なるたけ楽に買い物ができるようにとの思いである。
名島から貝塚経由で地下鉄に乗り、天神地下街で下車。地下街をそぞろ歩きつつ、岩田屋へ。ここからのルートは、毎年、ほぼ決まっている。
まずはいつもの婦人靴エリアで歩き易い快適な靴を。それから上階の、肌着売り場へ。「大きいサイズ」の婦人服コーナーもチェック。
その後、新館、旧館を行きつ戻りつ、インテリア、キッチン用品売り場を眺めたり、書店でジャーナルを購入したり、特設の展示即売品をのぞいたり。
ウインドーショッピングも楽しみつつ、インドでもニューヨークでも手に入らない、必要な物、欲しい物を買いそろえる。
本当は、Facebookで友人知人に情報を提供してもらっていた店でランチを取りたかったのだ、すでに疲労困憊。結局は、岩田屋のレストラン街ですませることに。
天一で、天ぷらランチ。普通に、おいしい。
ランチをすませて、一旦、岩田屋を出て、斜め向かいのビルディングVIOROへ。ここでお気に入りのヘアブラシを調達。何年も前から愛用していて、すでに2本あるのだが、夫も気に入っているので、余分に購入。
思えば、髪を短く切ったので、ヘアブラシの出番は非常に少ないのだが、なんとなく、つい。
福岡出身の男性が立ち上げたというジュエリーブランドSunset Glassの商品が、目に留まる。期間限定での展示販売らしい。ご本人が商品について説明してくれる。通常のガラスとは異なるプロセス(高熱)にて加工されていて、軽量かつ割れにくいなどの特徴があるという。
かなりマニアックかつ専門的な視点による商品の説明を聞きつつ、今度はインドのジュエリーの話なども尋ねられたので、あれこれと説明する。なにかしら、濃密な世間話。
この形、大きさが気に入ったので、衝動買い。このほか、人工オパールを包み込んだ、光の揺らぎが美しくも愛らしい、上品なイヤリングやペンダントも見られた。
販売をサポートされていた女性は、久しくニューヨークに住んでいたとのことで、今度はニューヨークの話などでも盛り上がり、店頭でしばらく過ごしたのだった。
帰りに、再び岩田屋へ向かい、今度は地下食料品店街へ。
いい香りに誘われて、いつもの回転饅頭を! イートインコーナーで焼きたて(白あん)を食べる。地元のおばちゃん感、満点。いや、若いときから、よくやってたけれど。
これは寝具、ナイトウエアコーナーで、やはり期間限定で販売されていた部屋着を母へお土産に。綿100%、天然染料で染められたもの。これは、ブドウで染めらたものらしい。
最近は、こういう素朴な素材の魅力的な商品が増えていて、うれしい。が、日本は全体に、当然ながら割高。インドとて、このごろは、オーガニックコットンなどを素材とする、デザインも洗練された「よきもの」は増えてはいるが、先進諸国に比すれば、まだまだお手頃だ。
夜は、よく冷えた白ワインを。これは、シンガポール空港のワインショップで買ったもの。お店のお兄さんに勧められたニュージーランドのソーヴィニョン・ブラン。
フルーティなのに、甘くない。風味豊かにドライな白ワイン。おいしい。帰路、今度はインドに買って帰ろうかとも思う。
岩田屋の「デパ地下」で夕飯の一部を調達。いつもの店で、いつもの寿司刺身を。こんな新鮮な寿司を手軽に買えるのも、福岡食生活の醍醐味だ。
しかし、野菜や果物の値段の高さには、毎度、おののく。デパ地下だから、というのもあるけれど。トマトを買うにも、結構、迷う。
野菜や果物、穀物など「基本的な食材」の、しかも良質なものが、廉価で手に入る国こそ、豊かな食生活を営める国だと、このごろは痛感する。それさえ食していれば、人間は、健康的に生きられる、といった類いの最低限のものが。
日本はその、人間が本来、たっぷりと摂取すべき、基本的な、天然自然の食材が、あまりにも、高すぎる。
飯塚、嘉穂、桂川のあたりを、走る。父の母校だった嘉穂高校の近くもかすめつつ。
遠い昔、炭坑の街だったあたり。母方の祖母が暮らしていた古い長屋があったところは、すでに光景が一変しており。
昭和40年代が前世の記憶のように、遠い。
走馬灯、精霊馬、精霊流し、線香花火……。
酸漿(ホオズキ)の苦く、奇妙な音。
柱時計の音に眠れず、底なしの闇。
あのころの、暗闇は、独特であった。仄かな灯火がむしろ、心もとなく。
大人になった今では、決して感じることのできない、途方のない心細さ。
日常の中にあった、天然自然への畏怖、のようなものが、もう、片鱗を見つけることさえ難しく。
わが「超愛用」の「茅乃舎のだし」を作っている久原本家の拠点へ。
車を降りた途端、清澄な空気に包まれる。緑の匂いと、せせらぎの水音。
本当は、ここで昼食をとりたかったのだが、かなり先まで予約がいっぱいだったのだとか。というわけで、夕暮れ時のコーヒーブレイク。
バウムクーヘンとコーヒーのセット。どちらも、とてもおいしい。
紅葉にはまだ早かったが、これから気温が下がるにつれ、あたりの緑は色づいて、温かみを増すことだろう。
束の間でも、こうして街中から離れて、自然の空気に触れられたのは、本当によかった。
ちなみに今年も、茅乃舎からは、オンラインで商品を大量に注文。インドへ持ち帰る準備はすませている。定番の茅乃舎だし、そして野菜だし。あとは醤油と味噌。今となっては、我が家の食卓に欠かせない銘柄の商品だ。
異国にいても、美味な日本の料理を簡単に作ることができる。ありがたい限りである。
さて、明日からは5泊6日で東京滞在。楽しみだ。