今日は快晴だ。いよいよ、夏らしい空気になってきた。冬日と夏日が交互にやってくる、そんな初夏のニューヨーク。だから毎年、持参する衣類が混沌としてしまう。ここ数年はなるべく持参する荷物を減らすべく、「滞在中は、現地で買ったものを着る」ようにしている。するとスーツケースのスペースも、少しは広くなる。
午前中は、キッチン周りの小物を調達すべく、ホテルの近所にあるBED BATH AND BEYONDへ。去年と明らかに異なるのは、コーヒー関係のプロダクツを売るエリアが増えていること。
米国の都市部は昨年あたりからコールドブリューコーヒー(水だしコーヒー)などを出すコーヒーチェーン店が増え、第3次コーヒーブーム、らしい。ちなみにスターバックスなどの台頭が第2次コーヒーブームだったらしい。
このごろは、インドでもオンラインを中心に、欧米のキッチン用品、調理器具などが多彩に入手できるようになったが、自分の目で見て購入するのが一番。欲しかった「ガーリック・クラッシャー」なども見つかり、またBRITAのウォーターピッチャーなども新しいスタイルの使い易そうなものを手に入れられて、満足。
しかし、実は一番欲しかった、水だしコーヒー用のポットが、あいにく望むブランドのものを見つけられず。来て早々、オンラインで注文しておくべきだったと後悔。
買い物のあとは、一旦ホテルに戻って荷物を置き、近所でランチ。
マンハッタンは本当に、犬連れの人が多い。尤も猫は散歩に出さないので見かけないだけで、猫を飼っている人も少なくないのだろうけれど。
思えば、マンハッタンには野良猫も野良犬も、いない。見たことがない。野良牛、野良犬、野良猫だらけのインドとは、大いに異なる光景だ。
犬を抱っこ紐で抱えて歩いている人もいる。この犬、脚の具合でも悪いのだろうか……。
さて、ランチのあとは、ダウンタウンへ出かけることにした。特に用事はないのだが、滞在中、一度は散歩をしておこうと思い立ち。
いつものコロンバスサークルの地下鉄駅に降り立てば、ちょうどAトレインがやってきた。この列車、特急で、ものすごい数の駅をすっ飛ばして走る。
実はニューヨークに住んでいたころ、ミッドタウンから帰宅するのにうっかり乗って、うっかり降りるべき駅で降り損ね、59丁目で下りたかったのに、125丁目まで行ってしまったことがある。辛かった。
わたしは、しっかり者に見えて(←自分で言う)、なぜか電車を乗り間違えることが多々ある。地図を読むのは好きだし、方向感覚も悪くない方だと自負しているのだが、駅のホームに入ると、なぜか感覚が狂って、反対方向の列車に乗ることも少なからずある。
だから、一本電車を逃してもいいから、ゆっくりと、目的地を確認して、列車に乗り込まねばならない。
そんな次第で今回も、うっかりAトレインでイーストリヴァーを超えてしまわないよう、少々緊張しつつ、揺られる。
と、この列車、やたらと「道徳的」な案内が貼られていて面白い。日本みたいだ。
「お年寄り、身体障害者、妊婦には席を譲りましょう」とか、「音漏れに注意」とか、「ゴミは持ち帰りましょう」とか。
「ポールは安全のためのものであり、あなたの最新の技を披露するためのものではありません」というのは、いかにもニューヨークらしくて面白い。いるんだよなあ。こういう使い方をする人が。
……などとのんきに車内を眺めているうちにも、A列車、こまごまとした駅を豪快にすっ飛ばしてあっというまにダウンタウン。いつものWEST 4THで下車。なぜか昔から、ダウンタウンへ行くときには、ここで下りて、ブリーカー・ストリート界隈を歩きつつ、SOHOへ向けて歩くのが好きなのだ。
公園では、子供たちが水遊びをしている。なんだか、贅沢な遊びだと、水不足のインドを思いつつ。
ブルーノートの隣にラーメン屋。本当に、ニューヨークにはラーメン店が溢れている。
ミューズ・パブリッシングを起業した直後、経済的に不安定だったがゆえ、少しでも家賃を安く抑えようと、いろいろな物件を見て回った。実はこのブリーカーストリートの界隈の物件を見に来たこともあった。確かこの上階だった。
非常に狭い部屋なのに、家賃は結構高く、最終的には諦めたのだが……。あのころは本当に、綱渡りのようなことを、普通に平気でやっていたものだ。「なんとかなる」「なんとかする」という思いの強さ。
WEST BROADWAYを南下してSOHOへ。かつてワールドトレードセンターが見えていたところに、今は別のビルディングが建っている。
あのテロの直後、まだ崩壊したワールドトレードセンターが残っていたころに、一度、あのエリアを訪れた。そのときの衝撃は深く……。以来、あの界隈には一度も、訪れていない。これからも、多分、敢えて訪れることはないだろう。
ウインドーショッピングを楽しみつつ、西へ東へ、ストリートを歩く。少し休憩をしたいのだが、コーヒーブームと言いながら、このSOHO界隈、昔からいいカフェ、が少ない。くつろげる場所が意外に少ないのだ。
数年前にできたばかりのNespressoに足を運べば、カフェコーナーがなくなっていて商品の販売のみ。うろうろとしつつ見つけたのはカップケーキの店。カップケーキの店で、カップケーキを横目に、コーヒーを頼む。
ニューヨークのカップケーキブームの火付け役は、SEX AND THE CITYでも紹介され、世界的に有名になったマグノリア・ベーカリーであろう。ウエストヴィレッジに最初の店がオープンしたのは、わたしが渡米したのとちょうど同じ年、20年前のことだ。今では東京にも店舗がある。
当時、日本人の、女子風男子の友人が遊びに来たとき、「これ、はやりのカップケーキ♡」と言って、お土産にと買って来てくれた。
彼と二人で「これの、どこがそんなに、いいんだろうね〜。おいしいっちゃおいしいけど」などと言いつつ、ブームの理由がよくわからないといった感じで、首を傾げつつも、平らげたものである。
今でも、カップケーキを見るとそのときのことを思い出し、敢えて食べようとは思わない。わたしにとっては微妙なポジションのお菓子である。
夕方、夫とホテルで待ち合わせ、夕食へ出かけることに。二人ともランチは軽めで調整しておいての行く先は……ステーキハウス。である。
このステーキハウス選びがまた、悩ましかった。とにかく、米国のステーキは大きい。有名店では、わたしたちが食べたいところの部位を、巨大なポーターハウス(Tボーン)丸ごと、2人分からしか出してくれないところがあり、それでは多すぎて、とても食べられないのだ。
ネットでメニューの詳細をあちこち比較した結果、米国在住時にも何度か訪れたことのある、Ruth's Chris Steak Houseへ。ここのステーキなら、比較的脂身の多いリブアイが、適量、注文できる。もちろん、夫とシェアである。
加齢で胃腸が弱くなったとかいいながらも、赤みのフィレよりは、リブアイの方が好きなのだ。
メニューにカロリーを書くのはやめてほしい。非常に、複雑な気持ちになる。
コンボイ・リブアイ1690キロカロリー(!)を夫とシェアすることに。22オンス。約620グラム。一人300グラム。一般的な日本人にしてみると多いかもしれぬが、我々にはちょうどいいだろう。
ちなみに米国人の多くは、このくらいは平気で一人で平らげられるのである。
ステーキの他には、前菜としてサラダ、そしてサイドにアスパラガスを注文。ポテトも頼もうかと思ったが、カロリーの表示に気持ちがそがれて、頼まなかった。
見映えは決して美しくない、典型的な「肉!」という感じのステーキがテーブルに。
熱せられた皿に、給仕がかなり雑な感じで、盛りつけてくれる。アメリカンだ。
写真はいいから、早く食わせろ! と、投げやりな笑顔で前のめりの、またしてもシマシマ。今回は縦縞。
ステーキは、柔らかく滑らかな食感で、わたしたちの好みに合う塩こしょうメインのシンプルな味付けで、非常においしかった。赤ワインともよく合い、大満足である。
思えば去年、デング熱で入院していたとき、病院食のあまりの味わいにストレスがたまり、無性にステーキが食べたくなった。直後のニューヨークでステーキを食べに行ったのだが、夫の裏切りに遭い、満足のいく肉を食せられなかった。
僕はステーキ、あまり食べたくないから、ランチコースでいいよ。と言われたのがその理由。シェアせずして、大きな肉を注文できるはずもなく、わたしもランチコースを頼み、その半端な牛肉の半端な味に、落胆したのであった。
無念を晴らすが如きの、ステーキ。食べられて、よかった。
「もう一切れくらい、食べられるかも」というところで終わりというのも、また次に食べに来たいと思い気持ちが残されて、よいというものだ。
ごちそうさまでした。