まるおさんとみほさんが、2週間足らずのニューヨークの旅を終えて、月曜日に戻ってきました。出発前には、猫らのために手づくりのごはんをたくさん作り、猫らに「仲良くしててね」「遠くに行ってはいけませんよ」と言って、みほさんは旅立ちました。
旅先からも2日に一度はドライヴァーのアンソニーさんに電話をして、家の様子と猫らのことについて、確認をしていました。アンソニーさんとメイドのマニさんが、不在のおうちを守ってくれているのです。金曜日には外部のガーデナーさんも来て、庭の掃除や草むしりなどをしてくれます。
10日余りの間、特に問題ない様子でしたので、みほさんたちは安心していました。今回は、何ごともなくてよかった、と思っていたのですが……。
みほさんもブログに書いていましたけれど、ニューヨーク最後の夜に、いやな知らせを受けました。せっかくビリー・ジョエルという人のコンサートに行って、いい気分でホテルに帰ってきて、いい気分でビールを飲んだあとだったのに、「一応、電話をしておこうね」と電話をしたら、NORAがいなくなったというではありませんか。
そうなんです。
わたしはもちろん、現場を目撃してましたから知ってましたけどね。NORA姉さん、逃げたんです! 去年の今ごろ、まるおさんとみほさんがニューヨークに行っている間、当時は「半野良」だったNORAは、一度も家に寄り付かず、結局、みほさんたちが帰ってきて数日後に、やつれて、憔悴して、帰ってきました。
みほさんたちがいなくてつまらないということもありましたが、まだ子どもだったROCKYがうざかった、というのもあります。でも、やつれるまで帰って来なかったのには、多分、ほかに理由があると思うのですが、それはわからずじまいです。
病院に連れて行ったら、肝臓を痛めていて、血液検査をしたり、お薬を飲んだりと、それなりにたいへんでした。そんなこともありましたので、そのあとにみほさんは、庭の周囲の柵を高くする工事をしてもらい、庭から外には出られないようにしていたんです。
にも関わらず、どうやって逃げたのでしょう? この1年間、玄関先から逃走した以外、庭から出て行ったことはありませんでしたから、みほさんもまるおさんも、不思議でなりません。
一旦、外に出てしまったら、外から入って来られないので、そのために柵に小さなドアが設けられているのですが、そこを開けっ放しにしておくと、今度はROCKYやJACKが出て行く可能性があります。
仕方ないので、ともかくはROCKYとJACKを屋内に閉じ込めて、NORAのためにドアをあけておいてもらうことにしました。餌を食べに帰って来るかもしれませんからね。小窓ドアのことについては、1月にROCKYが脱走したときのレポートに写真を載せてますから、こちらを見てくださいね。
このときはまだJACKが小さくて、かわいいです!
ニューヨークからバンガロールに戻って来る途中に、ロンドンのヒースロー空港で乗り継ぎをします。そのときに、空港からアンソニーに電話をしたら、お隣の庭でNORAがくつろいでいるのを見つけたので、捕まえて、今、3匹ともお家のなかにいる、という報告を受けました。一安心です。
それにしても、アンソニーは、最初のころ、猫がとても苦手で、「デヴィル(悪魔)よりもいや」とさえ言っていたのに、今では猫を触れるようになってしまいました。マニさんは自分ちにも猫がいますから、猫好きなんですけどね。
みほさんとしては、猫が苦手な人に留守番を頼むのは申し訳ないと思っていたのですが、アンソニーが変わってくれたので、少し肩の荷がおりました。
長旅を終えて、月曜日の夜が空けたばかりのころ、まるおさんとみほさんは、自宅に到着しました。
玄関のドアを開けて家の中に入るやいなや、みほさんは驚きました。家が、猫臭いんです!
普段は庭を開放しているので、臭いと思ったことはなかったのですが、猫を3匹、家の中に閉じ込めておくと、こんなにも猫屋敷臭がするものなのかと、びっくりです。
NORAがまた脱出する怖れもありましたが、とにかくは家中の窓やドアを開け放ちて、空気の入れ替えです。それから、スーツケースを荷解きしたり、洗濯機を回したりと、みほさんは帰宅早々、働き者です。
一方のまるおさんは、ニューヨーク土産のおもちゃで、猫らと遊んでいます。
楽しそうですね!
ROCKYの美脚ジャンプ、かわいいですね!
ROCKYやJACKが喜んで遊んでくれる一方、NORAは塀の上をうろうろとするばかりで、落ち着きがありません。まるおさんのお土産にも、少しも関心を示しません。
久しぶりの再会なんだし、少しは付き合ってあげればいいものを……。つれないですね!
しばらくしたら、アンソニーさんとマニさんもやってきました。マニさんがバルコニーで洗濯物を干していたら、NORAが枯れ葉用のコンポスト(腐葉土)のカゴからジャンプして、バルコニーの屋根に登るのを目撃しました!
マニさんが「マダム! NORAが屋根にジャンプしました!」というので、みほさんは大急ぎで2階へ駆け上り、書斎の窓を開けて、NORAを呼びました。するとNORAは逆らわず、大人しく窓から部屋に入ってきました。
コンポストのカゴからジャンプしたのであれば、取り敢えずはこのカゴを倒しておけばいいだろう……と、アンソニーさんに手伝ってもらって、この状態です。さて、このカゴはどうしたものでしょう。見苦しいですね!
まるおさんは午後からお仕事なので、シャワーを浴びて仮眠を取っています。みほさんも大まかに片付けを終えて、1時間ほど休むことにしました。
するとNORAがベッドにやってきて、蚊帳に潜り込み、みほさんとまるおさんの枕元で寝転びます。NORAはまるおさんのことが好きなので、まるおさんに近いところに、いつも寝転びます。
みほさんもまるおさんも、自分たちがいなかったから、NORAは寂しくなって、きっと探しに行ってくれたのかもしれない……と、思っていました。でもそれは、とんでもない「思い違い」でした。残念なことに!
確かにNORAは、まるおさんやみほさんのことを好きには違いありませんが、外に出たいという気持ちが、本当に強いんです。今回、2日ほど外出したことで、野良魂が蘇り、野良心に火がついたようです。
コンポストのカゴを倒されたことに腹を立てたのか、その日の午後はもう、みほさんの傍らに来ては、ミャオミャオミャオミャオ、うるさいほどに抗議をするんです。
外に出して。外に出して。外に出して。
今まで聞いたことがないくらいに、しつこいんです。久しぶりに会ったというのに、まったくかわいげがありません。
その日の夜、ふと気づいたら、NORAの姿が見当たりません。また、逃げたみたいです。でも、どうやって?! コンポストの高さはすでに半分くらいです。そこから屋根まで飛べるとは思えません。それとも、みほさんたちの不在時に、筋トレでもやってジャンプ力を増強したのでしょうか?
もう、みほさんもまるおさんも疲労困憊。もう、好きにさせようと、万一、帰ってきたときのために、書斎の窓を開けて眠りました。
すると朝方になって、ミャオミャオと言いながら、NORAが帰ってきました。
またしても、蚊帳の中に潜り込んできて、今度はみほさんに添い寝です。みほさんに添い寝をすることはあまりないので、みほさんはうれしくなってセルフィーです。
それにしても、NORAはいったいどうやって逃げたのでしょう。
翌朝、庭の掃除をしながら、みほさんがコンポストのあたりをしつこく検証していましたら、NORAがやってきました。いつものように塀を歩きます。
すると、ある一点で、停止しました。停止して、少し身体の向きを変えるやいなや、椰子の木に向かってジャンプ! 椰子の木に、まさに「ハッシ」という感じでしがみついたあと、今度はバルコニーの屋根に飛び移ったんです!!
みほさんが、すでにブログに書いてますけどね。もう、びっくりですよ!
こんな逃げ方をするなんて、誰が想像したでしょう。みほさんは、呆気にとられながらも、
「猿なのか?!」
と、つぶやいていました。わたしもみほさんも、他の猫のことを知りませんから、これが普通なのかどうかもわかりません。ただ、ROCKYやJACKは運動能力は男子だけあり長けてはいますけれど、こういう知恵が働くとは思えません。
2匹で追いかけっこをしたり、取っ組み合いをしたり、ウギャウギャ言いながら、楽しそうに遊んでいますからね。
NORAはといえば、そんな弟たちを横目に、昨日の午後、外に出してくれないみほさんに業を煮やして、この脱出経路を開拓したのです。本当に賢いですね!
ちなみにこのときは、逃げるわけではなく、あくまでも「こうやって逃げました」ということを、みほさんに教えるにとどめていました。屋根の上から、呆気にとられているみほさんを見下ろしていましたよ。まさに「上から目線」です!
みほさんはもう、お手上げ、という気持ちだそうです。
バルコニーの屋根を歩き、書斎の窓枠にジャンプしたあと、この写真に写っている、隣家との間に立てられたパーティションの上を伝い歩いて、隣の敷地に出て行ったようです。
みほさん曰く、椰子の木に近い塀の部分にパネルを張るなどして、NORAが通過できないようにする方法はあるのですが、今のところ、それをする気力が損なわれてしまったようです。
パネルの予備はありますし、大工道具もあります。みほさんは、日曜大工程度なら自分でやりますから、その気になればすぐにできるんですけどね。今回は、なんだか、気分が乗らないみたいです。
みほさんが書斎で仕事をしていましたら、NORAがバルコニーの窓枠にジャンプしてきました。ちょうど窓際ではROCKYが寝ていたのですが、窓の向こうにNORA姉さんがいるので、びっくりしています。
このとき、みほさんはもう,NORAを引き止めませんでした。
角のあたりで、しばらく周囲を偵察していましたが……、やがて隣家の柵に飛び降りて、外に出かけてしまいました。
NORA姉さん、どこに行ったのかなと、ROCKYは心配そうな顔をしています。
ROCKYとJACKは、まるおさんの棚からバッグや帽子を引っ張り出して、散らかして遊んでいます。
ROCKYのそばにあるのは、まるおさんがニューヨークで買って来たお土産のひとつです。JACKはこのネズミが気に入って、長い間、遊んでいましたよ! まるで自分が仕留めた獲物みたいにくわえて、得意げに歩くんです。そして得意の前脚フットワークで、蹴って遊びます。
思い返せば、NORAは7カ月近くまで野良猫で、そうしてマルハン家を選んで住み着きました。最初のころは、ネズミ(大中小)や、リス、鳩、コウモリの赤ちゃんなどを捕獲していました。
捕獲するだけでなく、ネズミ小は丸ごと食べていましたし、ネズミ中はシッポ以外、やはり食べていました。そしてインドの小柄なリスも……。シッポだけが庭に落ちている衝撃の光景を、みほさんも忘れてはいません。
そんなNORAですから、こんな「子どもだまし」なおもちゃで遊ぶなんて、有り得ないんです。彼女的には「ちゃんちゃらおかしい」のだそうです。
まず、NORAには捕獲の高度なスキルが備わっています。次に、獲物を食べるときも、見事に、血を一滴もこぼすことなく、そして自分の口の周りも汚すことなく、頭から、メリメリ、メリメリ、と食べていたんです!
思い出したら、鳥肌が立ちます! うさぎなりに! しかも置き物ですけど!
そんな野性味溢れていたNORAが、みほさんの手づくり食で心底満足するはずはないんです。食とは「自ら獲物を捕らえて、食らう」ことにこそ、至福の一時があるのだそうです。多分、ですけれどね!
今、外は夜の雨が降っています。ROCKYは書斎のバルコニーから、外を眺めています。NORA姉さんが帰って来ないので心配しているみたいですよ。
みほさんは今、NORAの再「半野良化」について、改めて考えているところです。
みほさんは、自分も若いころ、未知の世界へ出かけるのが好きでしたし、母国を離れて遠い場所へ旅する自由が大好きでした。ですから、NORAが外に出る自由を求める気持ちは、痛いほどわかるんです。
でも、一度かわいがると、愛情がわいて、心配する気持ちのほうが、強くなってしまいます。なにしろ最近では、ご近所に工事現場が増えていますし、触れると感電死する発電装置もあります。このごろは野良猫も増えて縄張り争いも顕著ですし、ともかく、リスクが高いご近所なのです。
それでもなお、彼女の自由にさせる方が、彼女にとっては幸せなのかもしれないと思っています。
NORAとROCKYの2匹だけのときは、猫の個性などわかりませんでしたが、JACKを飼い、そしてご近所の野良猫であるインヤン(陰陽)やモカやジュリーを見ているうちにも、猫それぞれに強い個性があるのだということを、学んでいるのだそうです。
人間によって幸せの形が違うように、猫によっても、幸せの形が違うのだと思います。
NORAは最初から、「高みから睥睨して世界を眺める」のが好きでしたからね。
願わくば、NORAと言葉のコミュニケーションが図れればいいのに、とみほさんは思います。そうすれば、心配する気持ちが激減するのにと。
「今夜、近所で猫会議があるから、遅くなる。わたし会長に立候補したから、忙しくなると思うの」
とか、
「昼ご飯、外で食べてくるわ。最近、隣で新鮮なネズミが捕れるみたいだから、ちょっと味見してくる」
とか、
「今日は、別の方角、攻めてくる。場合によっては2、3日帰らないかもしれないから、食事は用意しなくていいよ。適当に、そこいらで食べて来るから」
とか言ってくれれば、と思うのです。
でも、人間と猫の間では、そういう具体的な意志の疎通は図れないようです。残念ですね!
来月で、NORAがマルハン家にきて、丸2年になります。その間にも、本当にたくさんのことがありました。
またこれからも、色々なことがあるのでしょうね! みほさんとまるおさんの揺れる飼い主心を含め、これからもレポートしていきますね!
それではみなさん、ごきげんよう!