わたしがインドに暮らし始めて4年になりますが、アーユルヴェーダのマッサージを受けることは、ライフスタイルの一部になっています。
中学時代から、バスケットボールが原因で起こった腰痛に苛まれてきましたが、最近はほとんど痛みを感じません。ヨガをしていることもありますが、定期的に受けているオイルマッサージの効果も大きいようです。
アーユルヴェーダのスパは、本来「診療所」に併設された、飾り気のないものが大半でした。
アーユルヴェーダの発祥地である南インドのケララ州には、診療所や保養所のような施設が数多くあり、体質改善を目的とする人々が、国内外から訪れます。
身体の疾患を治療するためには、最低でも一週間から数カ月の集中トリートメントが勧められています。
さて、あくまでも「治療」が目的の診療所は、簡素な内装で、「優雅でラグジュリアス」な雰囲気はありません。日本で言えば指圧や鍼を受けにいく感覚です。
しかし最近では、高級ホテルのスパや富裕層を対象とした市井のデイ・スパなどでもアーユルヴェーダのサーヴィスを始め、気分的にもリラックスしながらトリートメントが受けられる場所が増えています。
わたし自身は、廉価かつ本気な治療を受けられる診療所と、高価だけれど心身がくつろぐ高級ホテルのスパとを、そのときに応じて使い分けています。
加えてバンガロール宅に滞在しているときには、ケララ出身の看護士さんに、定期的に自宅へ来てもらってマッサージをしてもらいます。米国在住時代には考えられなかった、インドならではの贅沢です。
さて今日は、ローカルの診療所についてご案内します。
アーユルヴェーダといえば、日本では額にオイルを垂らすシロダラ (Shirodhara) がよく知られていますが、実際には何十種類もの治療法があります。
わたしがよく受けているのは最も一般的なボディマッサージであるアビヤンガム (Abhyangam) と呼ばれるもの。二人の施術師が身体の左右に立ち、全身をシンクロナイズド・マッサージするものです。
施術室に入ったら、まず裸になり、使い捨ての「ふんどし」のようなもの、あるいは紙製のパンツを身につけます。しかしこれは、あくまでも儀礼的なものだということを理解しておかねばなりません。
下の写真は、ある診療所のトリートメントルーム。壁にかかっているのは、アーユルヴェーダの神様ダンヴァンタリの石盤です。診療所によっては、マッサージを始める前にマントラ(読経)を唱え、場の空気を整えます。
次いで、木のベッドに腰掛けます。大量のオイルを受け止めるため、マッサージには木のベッドが用いられるのです。最初は硬くて寝心地が悪いと思われましたが、慣れました。
まずヘッドマッサージを受けたあと、ベッドに横たわります。施術師が左右に立ち、上半身から足先までを、くまなくマッサージしていきます。
その動きは、「材木にカンナをかける大工の姿」によく似ています。やさしくマッサージというよりは、身体の上から下へ、下から上へとかなりのスピードで何度も往復し、身体の筋肉をほぐしていくのです。
つまり、ふんどしのヒモがあると、いちいちそこに手がひっかかって心地よさが半減されるため、いつも途中で外してしまいます。本気で治療を受けたい人は、素っ裸になる覚悟が必要です。
その姿は、まさに「まな板の上の鯉」。
身体の裏表、まんべんなくたっぷりのオイルでマッサージされます。宮沢賢治の『注文の多い料理店』を思い出すこともしばしばです。
身体よりも精神疲労が重なっているときには、シロダラを受けます。上の写真にもありますが、ベッドの頭上の器に温められたオイルをたらたらと垂らし続けます。
木のベッドで受け止められたオイルは何度か温め直して再利用しつつ、30〜45分ほど、ひたすらにオイルを受け止めます。
神経が深くリラックスするせいか、あっという間に眠りについてしまい、目覚めた時には何時間も熟睡したあとのような気分になれます。
非常に効果が高い治療法ですが、刺激も強いため、アーユルヴェーダのオイルに身体がなじんでいない人は注意が必要です。何度かボディマッサージを受けたあとなどの最後のトリートメントとして勧められています。
このほか、わたしがよく受けるトリートメントにピッチリ (Pizhichili) があります。オイルバスとも呼ばれるもので、温められたオイルを、水差しのようなものに入れ、じわじわと全身に垂らしていきます。
ほどよい温かさのオイルが身体にかけられるその気持ちよさといったらもう、極楽のひとことに尽きます。「好きにして」。という感じです。
数リットルのオイルを何度か温め直して、約1時間ほど、全身にオイルを浴びるこのトリートメントは、身体内外のさまざまな器官に働きかけ、体調を整えます。
旅が多いわたしは、特に長時間フライトの前日にこのトリートメントを受けます。すると、疲労感や時差ぼけが軽減されるのです。
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