2カ月ぶりのムンバイです。飛行機を降り立った途端、ムッとする熱気に包まれます。これぞ、インドの夏です。
熱風に辟易しながらも、しかし昨年末までの2年間はこの地で暮らしていたので、バンガロールにいるときとはまた違った感じの、「なじみの街」という打ち解けた気分にもさせられます。
前回同様、マラバーヒル・クラブにチェックインしたあと、夫は仕事に、わたしはまず「歯科医」を訪れ、治療の続き。そのあとは、コラバにあるホテル、The Taj Mahal Palaceへと向かいます。
目的は書店と、宝飾品店訪問。まずは書店へ。以前から欲しかったサリーの専門書を見つけたので購入。サリーの本についてはまた後日触れるとして……。
宝飾品店へ向かう前に、ジュエリー関連の本をあれこれとめくります。ジュエリーのデザインに関するアイデアを仕入れておきたかったのです。
というのも、今日、宝飾品店を訪れる目的は、使うことのない古い金(ゴールド)を再利用して新たな指輪を作ること、だったからです。
インドでは一般的ですが、わたしにとっては初めての試みなので、シンプルなデザインから試してみようと思ったのですが、書物にあるものはいずれも派手。単なる目の保養にとどめました。
母方の祖母から遠い昔もらっていた金の指輪を溶かして台にし、大振りの半貴石(セミプレシャスストーン)を付けるというアイデアはあったのですが、石の種類はその場の雰囲気で決めようと思っていました。
ざっとその場に並んでいる既製の指輪を眺めていたところ、今日はムーンストーンが目に飛び込んできました。
半貴石の中でも、ムーンストーンは決して高価ではない、手ごろな石。インドでは廉価で入手できます。
一番上の写真がそれ。無造作に紙に包んである石を、店の人が取り出して見せてくれます。まるでビー玉でも扱うようなカジュアルさ。
埃っぽい台の上に広げてくれたものから、コンディションを確認します。石の表情はもちろん、サイズや厚み、丸み、それぞれに異なります。
店の人のアドヴァイスを仰ぎながら、「雪見だいふく」のような形の1つを選びました。
祖母からもらっていた指輪は、もったりとしていて着け心地も悪く、デザインも好みに合いません。しかし、形見のつもりで保管していましたが、使わないのはもったいないと思ったのです。
「これを溶かして作ってくれるんですよね」
と尋ねれば、実はインドでは一般的に、「ゴールドは買い取るが、作る時には別の素材で作る」とのこと。それでは、「祖母の指輪を作り直した」とは言えません。
本音を言えば、この際、たいしたこだわりはないのですが、ともあれ祖母の形見だと伝えたところ、
「そんな思い出の指輪なら大切でしょうから、なんとかこの指輪を溶かして作ることにしましょう」
と言ってくれます。こうなると嘘も方便。気分の問題ですが、ともかくそうしてもらうことにしました。
台座は、既製のものの中から好みのデザインを選び、細かい少々リクエストを添えて注文しました。
結局は、ゴールドの重量がかなりあったので、ムーンストーン代、加工費も入れてプラスマイナスゼロ。感覚としては「物々交換」です。
★
指輪は金曜には仕上がるというので、バンガロールに戻る前に立ち寄ることにしました。
店を出ようと立ち上がったら……、目に飛び込んできた、ディスプレイされているゴールドのイアリング。
シルヴァーよりもゴールドの方が肌に合うため、最近では数少ないゴールドのイアリングを使い回していたのですが、その使い回しに加えたい、スポーティーなファッションにも似合いそうなシンプルなものです。
試してみると、非常にいい感じ。
祖母の指輪の他に、いくつかの古いゴールドを持ってきていたので、それらとの交換が可能か尋ねてみたところ……。
結論からいうと、祖母の形見の指輪は、取り合えずわたしの手元に戻し、古いブレスレットと交換することにしました。
自分で買った初めてのゴールドだったので、思い入れがないわけではないのですが、細工が細かすぎて一部が壊れており、修復不可能。もう十年近く身に付けていません。
バングルは、いつも付けている義母の形見で十分なので、これも「お蔵入り状態」だったのです。
重量が少々足りないとのことなので、さらに、いつ誰からもらったのかもわからない、果たしてゴールドかどうかさえ定かでない指輪を2つを追加します。
「どこにも刻印がありませんね。本当にゴールドですか?」
と、拡大鏡越しに指輪を見ながら店の人。
「さあ~。どうなんでしょうか。よくわかりませんけど、多分ゴールドですよ」
〈銅だったらどうしよう〉
などとくだらんシャレを心でつぶやきつつ、わたしもわたしで、いい加減なものです。結局、そのゴールドかなんだかわからないものも、引き取られました。
結果的には、ゴールドのブレスレットとよくわからない指輪2つが、ムーンストーンの指輪とゴールドのイアリングに生まれ変わりました。
売る方も、買う方も、厳密さを欠いた、インドならではの「ノープロブレム」の姿勢があればこその、小さな取り引き。
いずれにしても、眠っていたものが目覚めるのであれば、それはうれしいこと。
出来上がりはまた改めて、ここでご紹介します。