今年最後のサリーズは、クリスマス・スペシャルで2曲をお届け! え? いらない? まあそう言わずに、受け取ってください。
まずは1曲目、Aikoの『カブトムシ』。クリスマスになぜこの選曲なのか……。メッセンジャーで恵美子さんと「好きな曲で歌える曲」をやり取りしているうちに、流れで決まった。大前提は「ピアノ音源があるかどうか」ということで、今回はYoutubeにアップロードされているものをお借りした。
昔から歌は好きだったが、歌う機会はほとんどなかった。東京時代は、あまりにも仕事に追われすぎていて、数えるほどしかカラオケに行ったことがない。
むしろニューヨークに移って、ごく稀に、夫とともに「カラオケ・デュエット」に行った。夫の選曲はいつも、ABBAの『ダンシング・クイーン』や、フランク・シナトラの『ストレンジャーズ・イン・ザ・ナイト』などだった。
発音も滑らかに、眉間にしわ寄せつつ、情感を込めて歌うのだが、いかんせん音感が悪い。耳を傾けていると、神経衰弱に陥る領域の、すさまじい音痴だ。にもかかわらず、カラオケの機械が高得点を弾き出したりする。機械も判別不能ということか。
それはさておき『カブトムシ』。この曲は、2000年、父が末期の肺癌と知らされて一時帰国した際、妹の運転する車の中で、初めて聞いた。玄界灘に沈みゆく夕日を彼方に感じながら、遣る瀬ない思いで聞いた。
それから、たまにカラオケに行くと、この歌を歌った。「新しい日本の曲」のレパートリーが少なかったわたしにとって、宇多田ヒカルの曲と併せて、これは「新しい曲」の類だった。
それから。気がつけば、20年も経っていた。当時、闘病していた父は死に、同じく闘病していた親しい友も死に、わたしもどんどん、歳を重ねる。
カラオケで歌っていたあのころとは、歌詞のことばのひとつひとつが、違った響きを奏でている。生涯忘れることができない瞬間を……。歳を重ねてなお、これからも、育めたなら……と思う。