■In defense of Uber in India (←Click!)
■果たして、責められるべきは、UBERばかりなのか。
今回、デリーで起こった米タクシー配車サーヴィス会社「UBER」のドライヴァーによるレイプ事件は、実に広範囲に、そして深く、社会に問題を提起しているように思う。
外資系企業だけではない。
インドに生まれ育ったインド人ですら、インドで事を成すのを阻む多くの障壁、多様性の坩堝。言語や宗教などわかりやすい差異に留まらぬ、歴史を遡っての慣習、文化の差、貧富の差、教育の差からくる意識の差などについて、異邦人はよりいっそうの、絶大なる好奇心と探求心をもって、よほどの調査をし、分析をし、理解をし、そして判断して行かねばならないのではないかということを、改めて思う。
粘りづよい姿勢、情熱。そして決して近視眼的ではない、利益を遠い先に見据える長期的計画。そういうあれこれが、必要なのだということを、ここ数日、この事件を通して、再確認した。
今、デリーの人々は、政府も含め、UBERの責任追究に躍起になっている。過剰なほどにヒステリックになっている。ここに来て、その趨勢を疑問に思う。
UBERは、かつてなく、この国において便利で有り難い、タクシーサーヴィスを提供してくれている。それは、間違いないことだ。犯罪歴のある運転手を採用していたことは、致命的な問題だったとはいえ。だから、ただ糾弾するだけで問題解決の糸口を探ろうとしない抵抗には、賛同しかねる。
色々な記事を走り読みしたが、今のところ、わたしの気持ちに一番近く感じられたのは、上にリンクをはっている、この記事だった。
米タイム社インドのプレジデントである友人のセイジェル。
かつて米国に暮らしていたNRIの友人は少なくないが、彼女もまた、バンガロールに暮らす一人。スマートな彼女がFacebookにリンクしている記事は、参考になるものが多く(無論、彼女のみならず、真にグローバルなNRIの友人らのリンクは、インドを、世界を知るためになるものが多い)、今回の記事もまた、彼女の投稿を通して知った。
確かにUBERは、ライセンスの取得やドライヴァーの素行調査などの点において、「違法」だったかもしれない。その点については、わたしも詳細を追求することはできない。ただ、肝心なポイントは、「腐敗に満ちあふれたインドの公的機関を通して」「ときに賄賂を交えながらの」経過を経たところの、「体裁としての手続き/申請」に、どれほどの現実的な効力があるか、ということだ。
この記事のポイントは、そこにある。インドでは、運転免許証を取ることさえ、「然るべきお金=賄賂」を支払えば、テストなしに取得できる場合もある。
犯罪歴があったとしても、それを隠すことは、多分、難しくない。
翻って、我々の日常生活。町中を走るオートリクショーやタクシーのドライヴァーの素性を、我々は把握しているだろうか。否。
自宅で雇用しているドライヴァーの、犯罪歴を、確認しているだろうか。否。
つまり、ある程度の責任は、我々の判断力、行動にかかっている。それがインドでの日常生活だともいえる。無論、多かれ少なかれ、それはどんな国においてもいえることだ。理想郷など、ありはしない。
そう考えるに、インドで最もレイプ事件などのニュースが多いデリーにおいて、深夜、若い女性が一人でタクシーに乗り、見知らぬ土地に連れて行かれているこtも気づかないほど(数時間との記事もある)寝入っていたこと自体にも、問題がまったくないとはいえない。
もちろん、被害にあった女性を責めるのは酷である。レイプとは、絶対にあってはいけないことである。犯人が100%、悪い。ただ、被害者自身も落ち度がなかったかといえば、あまりにも隙を作りすぎていたと言えるだろう。
何が言いたいかといえば(すでに過去にもあちこちで記してきたが)、この国で生活をする上では、ある程度の「緊張感」を損なってはならないのだ。現在の若い女性たちは、10年前からは考えられないほど、露出度の高い服装で、深夜、飲酒し、喫煙し、徘徊している。
その趨勢を理解している人口は、まだまだごくわずか。都市部には農村部からの出稼ぎ人も多く、女性の地位が非常に低いとされている慣習の中で生きて来た人も多数である。そんな輩の運転する車に、それがたとえ外資系企業の配車サーヴィスの、真新しい自動車であっても、「油断をしてはならない」のだ。
この記事では、UBERは、もっと「インドのやり方」を実践するべきであると提案している。無論、筆者はそれをして、馬鹿げているかもしれないが、と前置きをしているが、わたしは、深く同意する。
警察も、書類も、信用に足らないインドにあって、人材を採用する時に最も信頼できるやり方、それは「ドライヴァーのご近所さんを訪ね、評判を聞く」ということだ。これには、深く同意する。警察で書類を集めるよりもむしろ、簡単かもしれない。
以前、とあるクライアントの調査で、低所得者層上部から中流層下部あたりの世帯を20数軒、家庭訪問し、ライフスタイルを調査したことがあった。そのときに再認識したのは、ご近所付き合いの濃厚さ、ネットワークの強さ、である。もっとも、ご近所に留まらない。たとえば、同じアパートメントに勤務するドライヴァー同士での噂話も、非常に濃い。雇用主の噂までも、しっかり世間に流布してくれる。
つまり、彼らの噂のネットワークはかなり信頼度が高く、犯罪歴などあろうものなら、すぐにバレてしまうという状態だ。
UBERに限らず、企業も公的機関では然るべき手続きをちゃちゃっとすませ、実質的な調査、本当に人材を雇用する場合は、「家庭訪問&ご近所訪問」を実施すべきではないか。
折しも、夫の関係する企業が、人材雇用でトラブルに直面したとの話を先ほど聞いた。マネージャーを採用したが、1週間ほど出社したものの、その後、3カ月ほど、体調不良や身内の不幸を理由に休んでいた。もちろん、給与は振り込まれている。業を煮やした上司が調査したところ、別の会社でいい職を見つけたとのこと。
インドでは、こんなトラブルは日常茶飯事だから未然に防げるだろうに……と思えども、そうはいかないのが、インドである。
インド人とて、インド人にだまされる。普通の図式だ。
……こんなことを考えているうちに思った。インドでは「探偵業」がいいのではないか。いちいち家庭訪問できない企業のために、採用する人物の素行調査をする、という仕事である。まあ、単なる思いつきであるが。
ともあれ、インド人でもこうなのである。異邦人は、よほど褌のヒモをしっかりと締め直してかからずには、大変な目に遭ってしまう、とんでもない国なのだ、とも言える。
ネガティヴを書きたくはないが、事実だから仕方ない。この現状を理解した上でこそ、インド進出である。
■ソフトバンクの投資は失敗に終わるのか。いずれ好転するのか。
今回のレイプ事件を受け、Uber以外にも、ソフトバンクが投資したOla、そしてTaxiForSureといった配車サーヴィスがデリーにおいて営業停止になった。最新のニュースによれば、他都市でも営業停止になりそうな気配である。こうなると、行き過ぎな措置だと思われるが、ともあれ。
ネット通販のSnapdealと合わせて1兆円もの投資をしたソフトバンクは、早くもインドに対する不信感だらけだろう。「詐欺めいたトラブルが多い」と周知のインド市場において、なぜきちんと調査をせず巨額の投資をするに至ったのか、その点もまた、疑問符だ。
たとえば2008年、第一三共が買収したランバクシー。その直後から、ランバクシーの米国に絡む特許問題などで悪いニュースが続き、結局、今年の4月、第一三共はランバクシー売却を発表している。
また、2009年、タタ・テレサービシーズに2523億円をも投資して事業を進めていたNTTドコモが、やはり今年の4月、モディ政権に変わって希望が持てるのでは、という時期に、インド撤退を発表した。
これだけ大きな悪いニュースが続いているのだから、仲介役となる銀行(どこが入っているのかは知らないが)も、もっとなんとかできなかったものだろうか、との思いが浮かぶのだ。
なぜそう思うかといえば、たとえば2009年。夫の仕事の関係で、わたしたちはムンバイに住んでいた。夫はJPモーガンのプライヴェート・エクイティに籍を置いていたが、オフィスはJPモーガンの投資銀行内にあった。当時、NTTドコモのインド進出に絡んで仲介したのはJPモーガン投資銀行だったことから、夫の耳にも裏事情がすぐさま入って来た。ドコモが出資した直後に、インドの業界で流れた噂は「日本のNTTが価値に見合わない莫大な金額の投資をした」ということであった。
これは「騙す」「騙される」の問題ではなく、価値を見極めている、見極めていないの問題ともいえる。素人のわたしが偉そうなことを書くのは憚られるが、しかし、出資直後にこんな噂がすぐに広がり、「日本人は、ひっかかりやすい」「無駄遣いをしている」といった風に言われるのは、腹立たしくも残念な思いだった。
そして、今回。ソフトバンクがSnapdealを買収した直後も、夫が水を差すような話をしてきた。
夫はインド最大手のロジスティクス(流通/運送関係)企業の投資も手がけていることから、その会社の関係者としてインドの複数のEコマースの配送部門の責任者たちと話をする機会があった。その際の調査や、外部からの伝聞により、Snapdealの決済に大いなる問題があるということを指摘していた。
Snapdealの見通しが暗そうだと思っていた矢先に、もう一つの投資先、Olaのデリーにおける業務停止。残念すぎる。
無論、ソフトバンクの投資はまだ新しいニュースであり、今後、どのような展開になるかは未知数だ。とはいえ、ニュースを追っている人ならば、事態が決して楽観的でないとわかるだろう。間違いなく、日本企業のインドに対する印象は悪くなり、投資も減ることだろう。
ちなみに夫の会社は、インド系米国人がCEOの、ニューヨークに本社があるプライヴェート・エクイティで、インド国内には、ムンバイ、バンガロールにオフィスがある。インド市場だけに投資するプライヴェート・エクイティとしては、その投資額においてインド最大規模だが、しかし、ビジネスは決して順風満帆とはいえない。
インド人がインドでインド市場に投資しようとしてさえも、騙されたり、壁にぶつかったりと、「予想通り、予想していなかった事件の連発」なのである。ゆえに夫はといえば、不定期に怒りの波が押し寄せ、「インド、最悪」と、苛立ちを隠せずにいる。
「そんなにいやだったら、もう仕事辞めちゃえば?」と、何度、口にしたことだろう。
尤も、夫がここ数年、投資に関わったロジスティクスの企業、及び教育関連の企業に関しては、業績を上げていることから、夫もまだ仕事を続けるモチベーションが続いているようだが、油断ならない。
幸いなことに、夫は、おいしい夕飯や食後のおやつ、ふざけたコメディ番組、あるいはクリケットの試合観戦などがあると、たちまち気分転換ができるから立派だ。最近は帰宅後、NORAと一緒に遊ぶことで和んでいるようだ。諸々、うらやましいくらいだ。
そんな、いい意味で「仕事命」ではないインド人的な部分を持つ夫ゆえに、インドでも生き延びて行けるのだと思う。
わたしが彼の立場だったら、多分、食事も喉に通らない。笑う気にもならない。泣く。そんな事態が起こったのも、一度や二度ではない。
話がおかしな方向に逸れてしまったが、日本企業。インド市場への投資をする際には、間に入る銀行すらも、信じきるのではなく、あらゆる側面から調査を進め、無謀とも思える投資を見直した方がいいのではないか、と思うのだ。
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