« 2005年12 月 | メイン | 2006年2 月 »
町へ出よ。砂塵舞い上がる埃の交差点。 町へ出よ。裸足の少年、少女、物乞い。 町へ出よ。牛に触れ、祈りながら行く。 町へ出よ。染みの壁、立ち小便の痕跡。
町へ出よ。古い油の匂いスナック露店。 町へ出よ。裸電球の下の色鮮やか果物。 町へ出よ。神々を称える唸り、声、鐘。 町へ出よ。二輪、三輪の傍らを掠める。
町へ出よ。天地清濁、併せ見よ。
この国の、泥と蓮。
その不確かな定義に触りながら行く。
街満たす、モスクのスピーカー、祈りの旋律。
サリー姿、たたずむ屋上。
翻る洗濯物、軒先。
クリケット少年ら、走る路上。
椰子の木、何の木、タマリンドの木。
空舞い飛ぶ、カラス、ハト、トンビ。
望郷のゆくえ知れず。
ただ、情感のみ揺蕩う。
久しく使わずにいたハンドバッグ。
ポケットに眠っていた映画の半券。
GEORGETOWN 1/16/05
一年前。 1月16日 あの日は、寒かった。
凍てついた町の匂いが、瞬時、鼻先を掠める。
ジョージタウン。ジョージタウン。
春恋しく、冬は長く。 手ぶくろ越しに手をつなぎ、肩を竦めて歩く運河沿いの小径。
なんて遠い、日。
朝。バルコニーが明るい。
午。バルコニーが明るい。
夕。バルコニーが明るい。
まばゆく光る、太陽の雫。
日暮れどき。
無数の小鳥のさえずる声。
おもてを上げて、
書斎のバルコニーに出る。
大樹の上でひしめく小鳥。
あ、あんなところに橙色の花。
浅い冬のあとの、浅い春。
車のホーン。一斉に舞い飛ぶ。
ここからは、遠い、遠い場所で、
産声をあげた君のこども。
山から吹き下ろす冷たい風が、
祝宴の馳走の香りを運ぶころ。
君は夜空を見上げて、
故郷の風をしのぶだろう。
甘くやさしいミルクの菓子を、
今宵ひっそり、噛み締めながら。
君の、その、かけがえのない人生。
目を覚ます。 ヨガをする。 シャワーを浴びる。 水を飲む。
窓辺に座る。 新聞を広げる。 紅茶が届く。 光がこぼれる。 風が流れ込む。
ひらひらと舞う黒揚羽。 木枝を走り抜けるリス。 数十メートル向こうに喧噪。
冠をつけた黒い小鳥。 そのうぐいすのような鳴き声。 を遮る鴉の叫び。
隣家のヒンドゥー宗教音楽。 改装工事の木槌の音。
朝。
命在る者が一斉に動き出す時刻。
すべてが振り出しに戻り、 また始まる朝。
昨日、連れて来た緑が、今朝はここで、風に吹かれている。
朝日を透した白は、自ら光を放つ灯(ともしび)のよう。
一昨日、イラストレータ(ソフトウエア)で名刺を作った。
そのデータを、電子メールで印刷会社に送った。
仕上がりが、今日届いた。なかなかに素早い。
会社の名前も、肩書きもない、間に合わせの名刺。
その割には、500枚も。その割には、きれいに刷り上がって、うれしい。
また、出版や、広告の仕事をしたくなる。編集の仕事をしたくなる。
とはいえ、このごろは、逡巡が多く。まだ何も明らかにならない。
これから、どんな人たちに巡り会い、この名刺を配るだろう。
インドに移住して、ちょうど2カ月。
ようやく、しばらく、ここにいられる。
風が気持ちいい午後。
生い茂る緑を見上げれば。
揺れていたのは、竹、だったのか。
ようやく、いまごろ、気がついた。