デリー滞在の、この数日。
「いい感じ」の光景ばかりを切り取っているけれど、
正負両側面が混在しているのは言うまでもなく。
ということを、念のために記しておく。
● ● ●
あれは8年前だったか。
デリーから米国へ帰国するため、大雨の中を空港へ向かった。
道路はことごとく浸水し、濁流の中を車は走り、
途中でいくつものオートリクショーが「転覆」しているのを見た。
あの、旧空港とその周辺の記憶が最早、前世のことのよう。
この国の空に在るときには、
「天竺」という言葉が脳裏をよぎる。
空。虚。そら。
照見五蘊皆空
度一切苦厄
地上の、衆生 [sattva]の、せめぎあう混濁。
灯りもまばらな漆黒の大地を覆う柔らかな雲。
それをやさしく照らす月光。
この国が好きで、住んでいるわけではない。
しかし、この国に、好きで、住んでいる。
この理屈は、肝要だ。
客観的に、寛大に、異質をつつしんで受け止めるために。