20歳の夏、初めて訪れた海外は、アメリカ合衆国だった。旅する人生の、原点となった旅。ロサンゼルスの空港に降り立った瞬間、別世界に生れ落ちた気がした。果てしなく広い青空。乾いた空気、太陽の匂い。インターネットなどなかったころ。鈴木英人の描くような光景を目のあたりにし、ひたすらに、ときめいた。
Anyway。
あのころ聞いていた音楽の一つに、NIAGARA TRIANGLEがあった。中でも好きだったのは、『白い港』だった。「スーツケースくらい自分で持つと、君はいつも強い、女だったね」のフレーズに、心を射抜かれた。ラヴソングの主人公と言えば、大抵、長い髪をした、繊細で美しい女性だ。しかし、このフレーズは、概ね体育会系だったわたしの心を、ぐっと掴んだ。
わかっている。大瀧詠一氏はだからって、ショートカットで体格のいい、なにかとパワフルな体育会系の女子を歌っているのではないということは。わかっていてなお、わたしはヒロインに自分自身を重ねた。人生、時にナルシストになることも必要なのだ。
以来、いくつもの旅を重ねて来た。仕事以外は、概ね、一人旅だった。一人で旅をすることが、好きだった。スーツケースを携えて空港を闊歩するとき、いつもこの歌が脳裏をよぎった。それは、今でもかわらない。この歌を口ずさむとき、心が湧き立つ。それが旅の始まりであっても、旅の終わりであっても。
自分は、自立して生きている。自由に、旅をしている。その、得も言われぬ幸福。
わたしは死ぬ直前まで、旅をしていたい。自分で自分のスーツケースを携えて、しっかりと闊歩していたい。それは、久しく、わたしの願いである。この先の人生、きっと無数の空港で、スーツケースを携え歩くことになるだろう。そのたびに、きっとこの歌を口ずさむのだ。
大瀧詠一さん。すてきな曲をありがとうございました。ご冥福を、心よりお祈りします。
2013年の終わりに。