セールシーズンのただ中にあったパリだが、セールの恩恵にあずかるような買い物はほとんどしなかった。一方、最終日のサンルイ島で、帰りの空港で、「グルメな食材」を購入した。
購入したほとんどは保存が利くものだが、しかし保存がきかない唯一の「マカロン」を皆で食べることを口実に、帰国したばかりで、荷解きすら終えていないにも関わらず、小さな宴を開くことにした。
「食事の嗜好が合う人たち」といえば、義姉スジャータ&ラグヴァン。そしてユカコさん&ビル。週明け早々火曜日にも関わらず、午後7時前後の集合で、なにやら「フランス的」である。
サンルイ島で買っていたチーズやフォアグラ、マスタード、それから空港で仕入れたサーモンやイクラなどを開けようと思う。それらを引き立てるために、バケットやクラッカー、そして野菜類を準備した。
さらには、風味豊かなマスタードを何に使おうか……。と思ったところでひらめいたのが、この怪し気な料理である。
そう。豚肉の塩竈焼きだ。
毎度おなじみ肉屋のBamburiesに電話で問い合わせたところ、豚肩の塊肉があるという。
米国時代は「皮」まではついていなかったが、インドでは皮付きも手に入る。
従っては他の肉も合わせて注文。ドライヴァーのラヴィに買いに行ってもらった。
先日は、他の店で購入した同種の肉で「角煮風」の「ビール煮」を作ったところ、非常においしかった。Bamburiesの豚肉も、かなり美しく、いい感じである。
多すぎる脂身は仕上がって後、適宜取り除くなり他の料理のために保存するなりするとして、ともかくは、塩竈焼きである。
今回は、焼いている途中、皮の部分が加熱により硬くなって跳ね返り、塩のカヴァーを壊してしまったが、味に影響はなかったようだ。この料理の作り方、2005年3月16日の記録に残しているので、ご興味のある方、どうぞ試されたい。
最初はリヴィングルームで、ワインを飲みつつ、チーズやサーモン、イクラやフォアグラを味わう。
みなで、「おいしい〜!」「おいしいね〜!」と言いながら、いきなり至福の時間である。
飲みながら、語りながら、食べているのがおつまみなのか、食事なのか、最早わからない感じではあるが、途中からダイニングルームに移り、食の第二段階に入る。
一応は「しょうが醤油」も準備したが、予想通り、豚肉のスライスは凝った風味のマスタードと非常によい相性で、実に美味。皮の部分は見るからに「コラーゲンたっぷり」の感じである。
食後はまた、空港で買ってきていたワインのうち、ミュスカ(Muscat)を開けた。
芳しい香りの甘い白ワインだ。
ミュスカとともに、再びフォアグラを味わう。
実はフォアグラを購入した時、テイスティングに出された「フォアグラによく合うワイン」というのは、ソーテルヌ(Sauternes)という、やはり甘い黄金色のワインだった。
これは貴腐ワインと呼ばれるもので、ボルドーのソーテルヌ地区で生産されている。これも空港で1本、購入してきた。
貴腐ワインといえば、ハンガリーのトカイワインが有名だ。昔ハンガリーを旅した時、スーパーマーケットに格安でズラリと並んでいたトカイの貴腐ワインが、日本では何倍もの値段で売られているのを見て驚いたものだ。
さておき、風味豊かでコクのある、そして滑らかな舌触りのフォアグラと、フルーティーなミュスカとの相性もまた抜群で、なにやらエンドレスな夕餉である。
ここがインドだから、普段は手に入らないから、なおさらおいしく感じるのかもしれない。普段足りないものが多いからこそ、有り難さがひとしおなのかもしれない。
影があってこその光。
そう考えると、「何か足りない」生活もまた、いいものである。
ところでビルはインドに来て、パンを焼いたり、豆腐を作ったり(!)し始めているのだと言う。なんとすばらしいことであろう。足りないものを補うために自分で作る、というのも、「百歩譲って」インド生活の醍醐味と言えるかもしれない。
さて、今夜の集いのきっかけとなったマカロンが最後に登場。あれこれと種類を買ってきていたのを、みなで少しずつ味見をしながら楽しむ。
モカ、キャラメル、ラズベリー、ピスタチオ、レモン、ヴァニラ……カラフルに味わいも個性的で、どれもそれぞれに美味! 実はわたしもアルヴィンドもマカロンに対して、大した思い入れはなかったのだが、今回のパリでしみじみとおいしさを知ったのだった。
なにしろマカロン、見た目が「ハンバーガーみたい(ビル談)」だし、なんとなく「かさかさとしてそう」だしで、さほどおいしそうに見えなかったのだ。
特にGERARD MULOTのマカロンだから、かもしれないが、どれも表面はパリッと、中身はしっとりとそれぞれのフレイヴァーがきいていて、やめられないったらありゃしない。きれいに平らげて、本当に満足。
今回、「所用」で「急遽」訪れたパリであったが、その食の豊かさに、改めて感じ入った。
やはり旅はいいものだ。そして旅を終えてなお、こうして皆でおいしさを反芻できたこともまた、本当に幸せなことである。
加えて、我がインド家族がヴェジタリアンじゃなくて本当によかったと、改めて思う。
食べること以外に、パリに関してあれこれと書きたいことがあるのだが、どうも追いつかない。
インドでの日常は、すでに始まっている。