ムンバイで週末を過ごすのも、これで三度目か。バンガロールの快適空間と、緑に満ちた庭が恋しくもあるが仕方ない。この明らかなる二重生活に、これからより、なじんでいくことになるのだろう。
「僕たち、インドの三都市に拠点ができたね」
アルヴィンドがしみじみとそう言う。本当に。デリーには実家があって、いつでも訪れることができる。バンガロールには自分たちの家があり、ここムンバイにもまもなく。
本気で仕事をするには、なんという恵まれた環境だろうかと思う。しかしまだ、この好条件を大いに生かしきれていない、わが仕事人生。
土曜。晴れ間も見られる午後。
アルヴィンドとThe Taj Mahal Palaceへ赴き、プールサイドで過ごす。
それぞれに、本や雑誌を携えて。
アルヴィンドは熱心に読書をしているが、わたしはと言えば、雑誌を読んでいるはずが、瞬く間にまどろみの中。
我ながら、よく寝る。
と、鼻腔を幽かにくすぐるは漁村臭。そして舞い降りて来るカラス。幾度となく綴るが、このあたりは、いくつもの異なる世界が共存している。
この場所で、塀を越えて、自由に往来するカラスを見るたびに、誰にも遮ることのできない悪臭をほのかに感じるたびに思い出すのは、中島みゆきの"EAST ASIA"の歌詞。
……心は帰りゆく
心はあの人のもと
山より高い壁が築き上げられても
柔らかな風は
笑って越えてゆく
力だけで心まで
縛れはしない……
特に中島みゆきのファンである、というわけではないのだが、なぜかこのCDが出たときには発作的に購入した東京時代のあの日あのとき。とても気に入っている。
古〜くからの読者はご記憶かもしれない。あれは、「サロン・ド・ミューズ」に書いていた頃だったか。アルヴィンドも、この"EAST ASIA"の旋律が好きで、米国時代にドライヴに出かけた折などは、「歌って」とリクエストされたものだ。
わたしは運転しながら歌い、アルヴィンドは助手席ですやすやと眠る。懐かしい日々である。
さて、ひと泳ぎのあとは、スパのスチームサウナでリラックスし、熱いシャワーを浴びる。このひとときが心地よい。
その後、ホテル内の書店でしばらく過ごす。小さな本屋ながら、インドに関する書籍が充実していて、特にテキスタイルやジュエリー、アート、建築関係、伝統芸能などの写真集を見るのが楽しい。重い本ばかりで肩が凝るのが玉に瑕。
●平和に無口にカニ食えば。
夕食はホテル近くのLing's Pavilion、ニニ・リンの店へと赴く。今日は奮発してカニを食べることにした。バンガロールのババ・リンの店でカニを見せてもらって以来、いつか食べようといいながら食べないままだったので。
調理前、ウエイターが大小の生きたカニをテーブルまで持って来てくれる。
二人だから小さいカニで十分だ、多すぎるくらいだと思った。
前菜にお気に入りのシュガーケーンプラウンを頼んだが、それ以外は野菜とパンにしようということに。
しかしながら、パンもかなりのヴォリューム。
しかもわたしの好きな、中国の渦巻きパンである。
久しぶりに味わうカニは、とてもおいしかった。
今日のところはジンジャー風味を頼んだが、その味付けも上品で、さっぱりとしている。
二人無口に、黙々と味わう。
大きいと思ったが、そうでもなかったようで、二人できれいに食べ尽くしてしまった。パンも残らず。このパン、お持ち帰りにして冷凍保存しておきたいくらいである。今度、ニニ・リンに相談してみよう。
●漁村の前に、いかしたカフェ発見
日曜。新居となるカサブランカを最終偵察。やはり、何度訪れても「住み心地よさそう」な雰囲気に満ちている。よかった。
大家の「星回りによる都合」の結果、やはり契約書へのサインは月曜となるらしく、契約書にサインがなされるまでは、家財道具購入を待つべきとの判断で、結局先週は生産性のない日々を過した。
今週の後半はバンガロールへ戻ろうと思っていたが、この調子だと、火曜日に買い物、うまくいけば水曜か木曜日に配達、金曜日は片付け、といった状況か。
カサブランカ偵察後、ムンバイのガイドブックに紹介されていたカフェ&ビストロへ行ってみようと、近所を散歩する。港に面したスラム化した漁村。道路を挟んでその真向かいに、その店 "MOSHE'S"はあった。
本当にもう、絵に描いたように「著しく異なる二つの世界」が向き合っている。
その小洒落た店内は、サンデーブランチを楽しむ富裕層ファミリーで占拠されていた。わたしたちは遅い朝食、つまりはブランチをすませていたので、ケーキとドリンクを注文する。
クローブやジンジャーが入った、スパイシーなレモネードが美味であった。これは家でも作れそうだ。アイデアいただき、である。
アイスクリームが添えられたアップルタルトもおいしい。周囲の人々が食べている地中海料理もまた、とてもおいしそうである。加えて、売られているパン類もインドにしては洗練されている風である。
新居から徒歩7分程度。道中、若干(かなり)、漁村臭が気になるが、今後ランチやティータイムに訪れたいと思える、かなりいい感じの店であった。
ホテル内の3つのレストラン(タイ料理、インド料理、イタリアン&コンチネンタル)はすでに制覇しつくしているので、界隈で別の店を開拓しておきたいものである。
さて。今週後半の肉体労働に備えて、またしてもビューティーサロンでヘッドマッサージをしてもらい体調も万全である。
それにしても、ここヘッドマッサージは、「ヘッド」といいながら、頭をはじめ、腕、背中、顔と上半身全体を30分ほどじっくりとマッサージしてくれて500ルピー程度とお手頃である。今後も通うことになるだろう。
今週も、雨が降らないでいてくれることを祈る!