1996年、米国に移住して以来、体重は増えるばかりだった。よく歩き、適度な運動をし、食べ物にも気をつけていたはずだが、太った。日本時代に吸っていた煙草をやめたこと、年齢によるもの、あれこれと理由を付けては、まともに減量を努力することなく、渡米後数年にして、日本時代の体重から6キロほど、最デブ時には8キロほども増量していた。
インド移住が現実味を帯びて来た2004年末。わたしの体重は史上最高を記録していた。いかん。このままではいかん。2005年には40歳になる。この先、中年太りにより、更に増量する可能性が高い。加えてインドに移住したら、マダムは家事もせず食べてばかりだ。
サリーからお腹をぶりぶりと出して歩くのは嫌だ。絶対に嫌だ。
そんなわけで、2005年は、「1カ月1キロ減」を目標に、地道な減量を開始した。いや、別段「減量」をしたのではない。もともと痩せている人が、更に痩せるのは苦労だろうが、ある程度肉付きのいい人は、食べる量を「人並み」に減らせばいいだけのことだ。
それまではたっぷりと摂取しがちだった肉などの量を半分に減らし、その分、野菜を増やした。ごはんもうっかり食べ過ぎぬよう、日本の茶碗にきちんと盛って一杯。
加えて、水をたくさん飲むようにした。チョコレートやアイスクリームなどのお菓子も、適宜少量を摂取する。これは精神衛生上、非常によいのである。
そんなわけで、体重は順調に減って行き、米国を離れる頃には、渡米前と同じ体重になったのだった。うれしい。うれしいが同時に無念だ。こんなことなら、もっと早く、減量をしておくのだった。
花の三十代をデブデブで過ごしたことが悔やまれる。自分では、「たいして太ってはいないわ」と思い込んでいた十年だった。でも、今、ホームページに掲載している過去の写真を見ると、その恰幅の良さにたじろく。
インドに来て以来、2カ月余り。家事をしないとはいえ、あちこち出かけている上、野菜たっぷりの健康食続きなので、体重は増えるどころか、微妙に減少。今や高校時代の体重に戻った。セーラー服すら着られそうだ。ふふふ。我ながらおぞましい。
さて、前置きが長くなったが、わたしが以前、サリーを購入し、ブラウスを仕立てたのは「最デブ期」であった。つまり、すべてのブラウスがぶかぶかなのである。先日も記した通り、ブラウスは「ぴちぴち」に着るのが流儀らしいこの国。腕のあたりやウエストの辺りがゆるゆるでは、多分見苦しいことだろう。
そんなわけで、コマーシャルストリートのテイラーに、サイズを小さくしてもらいに行った。あらかじめ、テイラー情報を入手していた訳ではない。新調するのではないから、どこでもいいだろうと、路地裏に看板のあるテイラーに入った。英語ができるのかできないのかはっきりしないおじさんに、小さくしてほしいと説明する。
なのに、おじさんはブラウスの「まち」の部分ばかりを気にする。大きくするのではなく、小さくするのだからまちは関係ないはず、と思いつつ、ゼスチャーで小さくするのだ、と言っているのに、まだ、まちの部分を気にする。やばいのか、この店。
ようやく、おじさんはわたしの身体を採寸する。採寸して、メモを取る。そのあと、わたしが持参していたブラウスのサイズを測る。
「ん?」
と言う顔をして、もう一度測る。そうしてようやく、合点が言った顔をして、
「小さくするんですね!」
だから、最初から言ってるじゃん!
つまり、それだけ、インドの御婦人は年齢とともに肥満し、サリーを大きくする人が多いということだろう。あるいは、これでもまだ、わたしは太って見えたのか? 尤も、平均的日本人女性の体重に比べれば、まだまだ「小太り」ですけどね。だいたい、日本の女子は痩せ過ぎ! ありゃ、間違っとる。ともあれ、理解していただいてよかった。
6着あるうち、とりあえず1着を直してもらい、それがよければ残りすべてを直してもらう。ちなみに1着のお直し代は25ルピー。50円くらい。
その仕上がりを、昨日、受け取りに行った。パッツンパッツンにしないでね、と頼んでおいたら、ほどよいゆとりに仕上げてくれた。残り5着も直してもらうことにする。
実は今日、サリーを着て、ランチに来る予定だったゲストをお招きするつもりだった。ところが、あいにく体調を崩されたとのこと。実はバンガロア、ここ数日、朝晩の冷え込みが顕著だ。これから夏が来るはずなのに、なんだか秋が来るような肌寒さだ。しかし昼過ぎには気温もあがり暑くなる。
スジャータ姉も「この季節の変わり目、風邪を引く人が多いから気をつけて」と言っていた。
アルヴィンドも、今日は微熱があり、午前中は休んでいた。部屋の中はひんやりとしているので、わたしはストールを巻いて過ごした。こんなときこそ注意をせねばと、外には出ず、うがいを頻繁に、水をたっぷり飲み、健康管理に努める。
モハンばかりは元気で、「寒いね」と声をかければ、「とても寒い」と返すものの、朝から半袖で掃除洗濯、午後は近所へ散髪に出かけ、こざっぱりとして帰って来た。
静かな一日だった。