- 日々、薫風の五月の如く。朝、デリーへ発つ夫を送りだしてのち、デスクに向かう。新しい机は広くて、快適だ。それにしてもなんて爽やかな風だろう……と思うがいなや、「ボンッ!」と大きな爆発音。そうだ、今日はガネイシャ祭り。花火でも上げているに違いない。
- ん? なんだか焦げ臭い。また、リスが自家発電機の電線に触って爆死したのか?! その割には、停電していないぞ。ゲストルームへ走り、窓の下から自家発電機を見下ろす。スチール製の格納庫の、ドアが爆風で半開きになり、煙がもうもうと立ちこめている。
- まるで、コメディーフィルムでも見ているような、光景。
- 煙は静かにたなびき、小鳥はさえずり、木漏れ日は揺らぎ、日曜だもの。誰も来ない。マネージメントオフィスも今日はお休み。……麗しいほど、しん、と静まり返っている。業を煮やして、ゲートに電話をする。「電気のところ、爆発したよ」「わかってますよ、マダム」
- 20分ほどして、マネージャーらがかけつけ、発電機の傍らで、4、5人の男たちと、あれこれと相談している。
- 先日、スタビライザーを買っておいてよかった。寄せては返す波のような電力を、一定レヴェルに保ち、供給してくれる。停電のときにも充電されている電力が補給される 「バックアップシステム」が搭載されているから安心。我がアップル兄弟(iMac & iBook)も、ひとまずは安泰なのである。
- ところで我が家は米国時代から「土足」だ。人を招いたときも、靴を脱がないでもらっている。Sex and the Cityのキャリー(久々に登場!)と気が合うのである。無論彼女は「靴フェチ」で、超高価な靴コレクター故、脱ぎたくないと言う、その理由が異なるけれど。
- わたし自身は、自宅では、日本土産の「下駄」や「ぞうり」を愛用している。
- 数日前から、家政夫モハンが、裸足で室内をペタペタと歩いている。それまではゴムサンダルを履いていたが、鼻緒がだめになり、捨てたらしい。裸足で歩かれるのは、なぜかいやだったので、新しいのを買えば? と言ったのだが、「バンガロールにはいいのがない」という。そんなことはあるまい。
- スジャータ同様、モハンも「デリーが一番」派なのだ。新鮮なタマネギを買って来てくれと指摘すれば、「バンガロールの野菜はダメだ、デリーがいい」。ラッセルマーケットの魚市場へ行けば、「デリーのINAマーケットの方が清潔だ」。ギーを買って来てと言えば、「バンガロールのギーは質が悪い」という具合に。
- 夕方、彼はキッチンでアイロンをかけていた。わたしがお茶を入れようとキッチンに入ったら、「熱っぽいし、寒いから、風邪薬をくれ」と言う。もちろん、言葉は単語の羅列であるが、意味はわかる。
- 風邪薬。そんなもの、あったっけ? 思えば移住以来、一度も薬を飲んでいなかった。というのも、わたしは極力薬を避ける「自然療法派」なので、飲む機会がなかったのだ。
- 米国で買っておいた頭痛薬などが出て来たが、普段服用しない彼にはきつすぎるだろう。いったいどれほど熱があるのか。それによって対処法も異なる。我が家の体温計は、やはり米国で買った「口にくわえるタイプ」だから、これを使わせるわけにはいかない。
- 使用人のでこっぱちにマダムが手を触れていいものだろうか……と躊躇したが、具合が悪いのだから仕方ないだろう、と額に手を当ててみる。……熱はほとんど、ない。あったとしても、36度8分、といったところか。
- 「あなた、寒いなら、まずサンダルを履きなさいよね。床は冷たいんだから。こないだから言ってるでしょ」と言いながら、ふと彼の足下を見たら……。なにゆえに? 料理長モハン、濡れたぞうきんの上に立って、アイロンをかけているではないか!
- 裸足に濡れぞうきん。そんなん、寒いに決まっとろ〜もん! 敢えて風邪をひきたいわけ?! まるでコメディーである。
- 「まず、足を洗いなさい」「そして靴下をはきなさい。持ってるでしょ?」「それから外出用のサンダルでいいから、ともかく今すぐ履いて」
- 「ホットミルクを作って、ターメリックとハチミツをいれて飲む」「それから、今日はダール(豆の煮込み)を食べるだけにして、このキウイとリンゴを食べること」「それと、浄水をたっぷり飲む」「寝る前にバケツに湯を入れて、部屋で30分、足をつけること」「夕飯は準備しなくていいから早めに寝て」
- 毎度すべてを大げさにゼスチャー付きで伝える。一応は、理解していたようだ。靴下を履いた上に、サンダルをぐいぐいと履いて「足袋」状態になっていたが、それもまたをかし。
- 夜、デリーのアルヴィンドから電話。実家でくつろいでいる様子。香港本社から訪れているCEOとのミーティングは明日からなのだ。ちなみにCEOはインド人で、彼の実家はマルハン実家と同じパンチシールというエリアで、目と鼻の先、だとのこと。CEOも今夜は実家に泊まっていて、明日、合流するらしい。なんだか微笑ましい。
- デリーはかなり、暑いようだ。「やっぱりバンガロールが住みやすいよ」とアルヴィンド。明日はデリーからムンバイに飛び、31日に帰ってくる。
- ところで今日は、ガネイシャ祭りだった。けれど一歩も外へ出ずにいた。
- それなりに仕事も捗り、いい一日であった。