予定の便がキャンセルされていたにも関わらず、その連絡不行き届きにつき、空港のラウンジにて、3時間ほど次便を待たねばならなかった。
しかしそれ以外はトラブルらしいトラブルもなく、4泊5日のムンバイ滞在もまた、概ね順調であった。
21日の記録にも綴った通り、アルヴィンドも出張でムンバイにやって来て、部屋をアップグレードしてくれたのが非常によかった。アルヴィンド株、急上昇である。
木曜の夜は、夫がニューヨーク時代に勤めていたMckinsey&Companyのアラムナイが、ちょうど宿泊していたTaj Mahal Palaceで開かれたので、わたしも同行する。
着用している黒い服(上下)は、先日バンガロールのRain Treeで購入したもの。ゴア出身のデザイナーWendel Rodrickというブランドだ。
軽くて着易く、旅行時に便利である。だだし、下に黒いパンツを履いた際、夫から「変だ! 忍者みたい!」と言われた経緯がある、微妙なデザインではある。
さて、Mckinsey&Companyに縁のある約40名ほどが会場に集まっていた。主には米国からの帰国組にも関わらず、しかしここはインド。パーティーの開場は8時だったが、ゲストが集まり始めたのは8時半を過ぎてからだった。
それからカクテルタイムが延々と続き、スピーチが始まり、夕食のブッフェの蓋が開けられたのは10時半である。遅すぎである。
宴の最中、かつてニューヨークオフィスに勤務していた初老の男性の妻による、自身が経営しているアートギャラリーのプレゼンテーションが行われた。
彼女はインド新進画家らの作品を扱っているらしい。
最近、インド人アーティストの世界的評価が高まっているとかで、その価値はうなぎのぼり。従っては今が買い時、投資の好機、というわけだ。
バブル時代の日本とだぶる。
しかし日本と異なるのは、欧米の絵画に投資するのではなく、「インド人画家の作品に投資する」という点である。欧州の絵画に莫大な金額をつぎ込んだ日本とは、根本的に違うと言えば違うかもしれない。
一枚の絵が気に入った。とても心引かれたが、同時に非常に「暗い絵」であり、「重い絵」である。
わたしは、部屋に飾るにふさわしくない、サルバドール・ダリなどの絵を好むところが、困る。好きだからといって、部屋のトーンが沈む絵はよくないだろう。
それは数千ドルと、絵画としては、手のでない値段ではなかった。夫も気に入っていた。彼は無論「投資」という意味で欲しがっていたのかもしれないが、取りあえずは保留とした。
ムンバイ出身、米国、スイスを経て数年前にインドに帰国した夫妻との会話が楽しかった。二人とも博士号を取得したサイエンティストで、夫は米国時代、日本の製薬会社に勤務していたと言う。
「みんなは、インドはどんどん変わっている、住み易くなったっていうけどね。僕は全然、そう思わないよ。汚くて、最悪!」
笑いながら彼は言う。
「僕のムンバイでの生活は、3カ所のエアコンが効いた場所を移動しているだけなんだ。自宅と、車と、オフィスの中。それ以外には、足を踏み込まないよ!」
「クリーンの極み」なスイスから訪れれば、ムンバイはいくら故郷とはいえ、地獄だろう。とはいえ、彼らはインドの慣習に従い、使用人を数名雇い、専ら妻が彼らをマネジメントしている。
昨今の家電店などでは、最新鋭の洗濯機や冷蔵庫や食器洗浄機などがずらりと陳列され、それは使用人のない核家族を想定しているように見受けられるが、今のところ、そのような家族には出会っていない。
インドの新しい家庭から、しかし使用人が排除される傾向にあるのは、事実であろう。
それにしても、欧米諸国から母国へ凱旋をした人たちの話を聞くのは、面白いものである。文句をいいながらでも、しかし懸命に、母国での暮らしを試みている人々。
宴の後半は、円卓を囲んでの、ゆっくりと食事と会話。12時近くまで、語り合う夕べだった。
ところで上の大きな写真、そして左の写真は、ムンバイ郊外のMaladという街に誕生したスーパーマーケット"HyperCity"である。
店内に足を踏み込んだ瞬間、その規模の大きさに驚いた。インドでこれほど大きなスーパーマーケットを見るのは初めてのことだ。品数の種類は少ないにしても、規模に関して言えば、米国のそれに勝るとも劣らない。
パスタやオリーヴオイル、パスタソースなどが並んでいる一方で、インドならではの豆類や穀類、スパイス類が充実しており、インド食生活に則した品揃えだ。
ごく限られた、しかし増えつつある超富裕層を対象とした店であることが伺える。
一方その隣のショッピングモール、"InOrbit"。ここは、他都市のモール同様、中流以上の人々が「物見遊山」に訪れる場所と化している。
もちろん、実際に買い物をする人もあろうけれど、「最先端の商品を見学に」来ている人の方が、圧倒的に多そうだ。それにしても、人々の服装。5年前、初めてインドを訪れたときには殆ど見かけなかった、ジーンズにTシャツ姿の若者の、多いこと。
しかも、肌の露出度が高い。ここ数年のうちに、若者のファッションは劇的に変化した。
ところで写真は、最上階のフードコートで見つけたアイスクリームバーのアイスクリーム。
やはりムンバイ郊外の、Juhuという街で生まれたアイスクリーム店で、自然のフルーツを素材にしているところがポイントのよう。インドのアイスクリームは、ヴェジタリアンを意識して、たいてい卵が含まれていない。そのせいか、ヴァニラアイスなどは生クリームと牛乳が主成分につき、真っ白で味気ない。
しかしこれらフルーツ入りは、卵なしでもカラフルで、しかも味見をさせてもらうとどれも美味! カスタードアップル味、スイカ味など、どれもそれぞれいい味を出していたが、わたしはパイナップル&パパイヤのアイスを買った。
甘みもほどよく、フルーツの新鮮さが感じられ、非常においしい。自分でも研究して作ってみたいと思う、アイスクリームであった。
さてさて。新しいところあれば、古いところあり。
上の写真は、かつて「インド彷徨」でも紹介した、「洗濯屋」の風景である。洗濯機の存在からははるか遠い、庶民らの、衣類を洗ってくれる場所である。
衣類を、ばしばしと、打ち付けながら、洗っている。
この洗濯屋が、いつかは消える日が来るのだろうか?
インドの街の情景が、めまぐるしく変わりゆき、汚いのはいやだけれど、しかしただ、綺麗になってゆくのも、つまらないものだなどと、身勝手に思うのである。
無論、わたしが生きているうちに、この国がきれいになることは、有り得ない気がするのではあるが。