今週から、夫はムンバイのオフィスで仕事をはじめた。向こう一カ月はホテル住まいだ。わたしも来週、ムンバイへ赴き、サーヴィスアパートメントなどを探す予定。数カ月はサーヴィスアパートメントに住まい、様子を見て、アパートメントを借りるかどうかを検討しようと思っている。
バンガロールのこの家は、確保しておく。1年前に購入したときには「投資目的」と思っていたので、他都市へ引っ越すときには人へ貸すことになるだろうと考えていたのだが、あれだけ情熱を込めて家作りをした挙げ句には、もう、誰にも貸したくないのである。
なにしろ、引っ越しが面倒だ。ここに自分たちの家財道具をずっと置いておけると思うだけで、ずいぶん気持ちが楽だ。
わたし自身は、ひと月の半分以上はバンガロールで、残りはムンバイ、と考えているが、実際どうなるかわからない。ただ、わたし自身の仕事の上でも、その幅が広がることから、二重生活は有利に働くことになるだろう。
使用人や車のことなど、あれこれ二重に管理するのは簡単ではないが、そのうち慣れていくだろう。インドの変化も激しいが、わたしたちの暮らしの変化もなかなかのものだ。
日々、こつこつと目先のことを片付けながら、ときに遠くを見遣る。
●新しさのなかに息づくインドらしさ。
インドの大手企業がリテール(小売り)に着目し始め、次々にスーパーマーケットなどをオープンしているここ数年。インド最大の私企業、リライアンス・グループ (Reliance Group) も1年ほど前に "Reliance Fresh" というスーパーマーケットを開店し、全国各地に店舗を広げている。
そのリライアンスが、数カ月前に新しい業態の店をカニンガムロードに開店していた。その名も"Reliance Time Out"。
ほかにも確かインディラナガールにフットウエアの専門店を開いていたが、看板はいずれもスーパーマーケットとほとんど同じため、外観のインパクトは弱い。
どちらの店にも入ったことはなかったのだが、本日、やはりカニンガムロード沿いにある歯科へ赴いた帰路、"Reliance Time Out"へ立ち寄ってみた。
広大なロフト風の店内は、かなり米国のそれに近い雰囲気。入り口はCDやDVDなどが置いてあり、その奥がブックストア。さらに奥に入ると文具、インテリア雑貨、玩具などが並んでいる。そして2階はオーディオやカメラ、家電、コンピュータ機器など。
このごろは、インドでも新しい店が続々と開店していることから、先進国的な大型店にすっかり「目が慣れて」しまったが、自分が移住した当初に思いを馳せれば、わずか2年後にこんな店ができるとは、予想していなかった。
とはいえ、店内が「国籍不明」になることは決してないインド。米国のBarnes & Nobleと、Staplesと、Best Buyを足して3で割ってネジをゆるめて店員を過剰に増やした、といった、この国ならではの独特の雰囲気が漂っている。
上の大きな写真は、DVDのコーナー。インドの映画事情、ひいては国の多様性をしのばせる一枚だ。インドの英語イコール「ボリウッド映画」ではない。ボリウッドはあくまでも、ムンバイ(ボンベイ)で作られるヒンディ語の映画のこと。
ここバンガロールでは、たとえば映画館でも、地元で作られるカンナダ語映画をはじめ、隣接する南インド各州の映画が見られる。タミルナドゥのチェンナイで作られるタミル語映画、ケララ州で作られるマラヤラム語映画、アンドラ・プラデシュ州で作られるテルグ語映画などだ。
そしてDVDもまた、こうして地方(言語)別に販売されているわけだ。ちなみに写真の手前にあるRegional Moviesとは、「地方の映画」の意味。つまり、南インドだけでなく、インドその他の地方の映画も、ここに並んでいるのである。
この、いかにも米国的なディスプレイと、インドならではの商品構成が、なんとも言えず面白い。この店一つをとっても、いろいろと書きたいことは募るが、仕事の域に突入しそうなので、このへんにしておく。
●THE NAMESAKE (その名にちなんで)を、静かに見た。
ニューヨーク在住のインド系米国人女性作家ジュンパ・ラヒリ原作の映画、THE NAMESAKEのDVDがReliance Time Outで売られていた。劇場へ見に行く機を逸していたので、迷わず買い求め、早速、見た。
小説を読みながら脳裏に思い描いた光景と、映像として現れた舞台となるインドと、ニューヨークの光景とが、ときに重なり合い、初めて見る映画なのに、見たことがあるような気がする。
インドと米国の狭間で揺れる、人々の心模様。そのやり場のない遣る瀬なさが、いちいち心にしみる。一人で見るのに、とてもいい映画だった。
これもまた、いろいろと感想を書きたいところであるが、とめどないので、このへんにしておく。