獣というものは、よほど気を許している状態でない限り、仰向けには寝ないのではなかったか。
喧噪の町中の歩道のど真ん中で、どうしてこうも無防備でいられようか、獣よ。
後方では、カラスと犬が、まるで友達同士のように親し気な様子で。
どうしてこうも、わざわざ人の邪魔になるような状況で横たわるだろうか。
こういう「腑に落ちない」光景を見るにつけ、やっぱりインドは、なにやら異次元の世界としか思えないのだ。
ご覧の通り、コラバ地区は汚い。汚くて怪し気だが、気になる。建築中の建物で商う人々、気になる。
へんな犬を撮っているわたしを、不思議そうに見る人がいる。
彼らにとっては、腹を出して寝る犬よりも、それを見て一人でくすくす笑いながら撮影しているわたしの方が、よほど不思議、いや不気味なのであろう。わからんでもない。
それにしても、どうして3匹が等間隔で歩道に横たわる、というケースが多いのだろう。これまで何度、見かけただろう。そこにはなにか、インド犬界における黄金律でもあるのだろうか。
蒸し暑くてべたべたする。せっかくThe Taj Mahal Palaceのプールで泳いだ後、スチームサウナで汗を流し、シャワーを浴びて、すっきりしてきたというのに。
粘着質の空気に、雑踏の、埃の、排気の、悪臭の、さまざまが溶け込んで、数百メートルを歩くだけでもかなりの疲労感。
いつものコーヒー&ティー販売店で、HIGH LANDという名のコーヒー豆を買う。
バンガロールから送られて来るという、南インドはニルギリ高原のコーヒー。
それをまた、再びバンガロールに持ち帰る。
同じものを、バンガロールでは見つけられず、このごろはいつもここで大量に調達しているのだ。
周辺事情が一転二転し、振り子が左右に振られるように、メリハリの効いた我らが日々。そして今日も、我は動き、見て、濃厚な一日を無事に終えて、夕暮れどき。
夫と待ち合わせをして、中国料理店で夕食を取ることにしたのだった。
■ババ&ニニ。中国料理店ブラザース
ババ・リンでおなじみバンガロールの中国料理店「南京酒家」。本店はムンバイにあることは以前記した。その本店LING'S PAVILIONへ久しぶりに赴く。
お気に入りのシュガーケーン・プラウンやクレイポット入りのライス(炊き込みご飯)、小籠包や野菜炒めなどを注文す。
どれもこれも、かなりおいしい。
鍋底のおこげご飯を、わたしが夢中になってそぎ落としていると、背後から、
「お手伝いしましょうか?」
と店主。
「コリアンの方は、おこげがお好きなんですよね」
久しぶりに、コリアンに間違えられた。米国時代はしょっちゅう間違えられていたものだ。
「わたしは日本人ですが、コリアンと同様、おこげが好きなんです。インドの人は、焦げたご飯、食べないですよね」
そう言いながら、もう鍋底にわずかとなったおこげを、しつこく自分でそぎ落とす我。その作業もまた、結構楽しいのだ。
白米は「炊く」というより「茹でる」インド。日本の家電メーカーが電気釜を販売したところ、鍋底にうっすら焦げ目がつくことからクレームが付き、商品の大半を回収する羽目になったという話をインド関連の本で読んだことがある。
ともあれ、わたしはおこげが好きだ。塩をかけたりして、せんべいのようにして食べる。そうして、わたしの好きなものの大半を好きなアルヴィンドも、インド人でありながら、喜んで食べる。
ところで店主。スリムで長身、白髪まじりで物腰の穏やかな男性だ。あの巨漢なババリンと、似てはいないが兄さんらしい。なのにアルヴィンドときたら開口一番、「あなたがこの店の店主ですか? するとババ・リン氏のお父さんですか?」だなんて、失礼なことを尋ねるから妻は恥ずかしい。
どう思い返しても、ババ・リンとこの目の前の男性、親子ほど歳が離れては見えないではないか。
ともあれ、ババ・リンの兄の名は何だろう。気になったので尋ねたところ、「ニニ・リン」だという。ババ・リン&ニニ・リン。なんて、かわいすぎる名前! 二人の風貌とかけ離れた、なんてラヴリーな響き!
この店には、今後もしばしばお世話になることだろう。顔なじみの店を、ムンバイにも少しずつ、増やしていこうと思う。