南国フルーツたっぷりの朝食がうれしい毎日。そろそろアルフォンソマンゴーのシーズンが終わりに近づき、この日はブッフェに並ばなかった。しかしマンゴーに関しては抜かりないマイハニーが、ホテル前の露店で買おうよと提案、半ダースを調達したので、毎晩、夕食のあとに味わっている。
おいしい料理だプールだマッサージだネイルケアだと、なんと優雅なホテルライフを送っているマルハン美穂さんよ、と思われそうである。確かに優雅な面もあるには違いないのだが、実は同時に、汗水垂らして苦行(若干大げさ)を遂行してもしているのである。
書きたくてたまらんことが山積しているのだが、人生、公表してはならぬことが大層ある。公表してはならぬ事柄にこそ面白みが秘められており、にも関わらず差し障りのないことしか書けないのがストレスだ。
唐突だが、上のこの写真。一瞬、マンハッタン? と思われそうな、とあるアパートメントのバルコニーからの光景である。
しかしバルコニーに出て、海辺を見下ろせば、その光景に絶句する。膨大な量のゴミが、波打ち際に押し寄せているのだ。悪臭が漂って来ないのが救いだがそれにしたって、ものすごい量のゴミ。自ら掃除人を雇って船を出し、掃除をしたいと思うくらいにすごい。
しかし、さらにすごいのは、そのすぐ傍らで、貧民の青年らが、楽し気に泳いでいることだ。
楽し気に、泳いでいることだ!!
どれだけ免疫力が強いのよ君たち。
やっぱりインドは地軸がずれている。異次元だ。不自然こそ自然。不調和こそ調和。
常識非常識の定義など、物事の尺度など、千差万別なのだ。
なにかが、間違っているようで間違っていないような気がする。もう、どうでもいいかも。むしろ楽しいかも。そんな気にさせられる光景が満載。人によっては、たやすく神経症を患ってしまいそうな環境。
途端、あたりは緑豊かで閑静な、大通りとは別世界の情景が広がる。
突然、郷愁が込み上げて来た。
懐かしい光景、と思った。
思ったと同時に振り返ったら、そこには日本領事館があった。
あたりに「にっぽんのオーラ」が漂っていたのだろうか。
ところで右の写真は、インド通の方ならご存知、大財閥RELIANCE GROUPの長男であるところのムケシュ・アンバニが現在建築中のビルディングである。
ひょっとしてビル・ゲイツの収入を超えているのでは?
と噂になった、アンバニ兄弟の兄である。
総工費は約1ビリオンドルとの噂。
約10億ドル。
つまり約1000億円。
空中庭園あり、ヘリポートあり、シアターあり。
超高層ビルディングなのに27階しかないというのは、各フロアの天井がかなり高いからとのことである。
左の写真は、完成予想図らしい。
リライアンスグループの創業者であるところの故ディルバイ・アンバニ。
息子たちの生き様を、彼はどう思っているだろう。
それにしても、各所で見聞きするところによると、この都市の貧富の差は、現在史上最高(最悪)のようである。不動産は、この2年間で恐るべき高騰ぶりを見せていることは、すでに記した通りだ。
その理由もまた、あれこれと聞いたのだが、また長くなるので割愛。ともあれ、お金の問題」である。
この国に暮らし始めて、いったい何度「お金」について、考えさせられたことだろう。書きたい書きたいと思いながら、考えがまとまらず、お金についてをじっくりと語れない。
ホテルのワイヤレスインターネットの不具合が生じたため、ビジネスセンターへ苦情の電話を入れた。
ほどなくしてスタッフ(ホテル内では「サイバーバトラー」と呼ばれている!)が接続コードを持って来てくれた。
その接続コードについていたタグが右の写真である。
「参議院情報化推進質」の人がこのホテルに宿泊し、きっと忘れて行ったのだろう。
急にそこだけが「日本的空間」になってしまうのが面白い。
忘れ物には気を付けて。
まるで紅葉のように、赤く燃え立つ樹々が見える。
インドの夏を象徴するグルモハルの木。
バンガロール、デリー、ムンバイ、それぞれの都市で見られるが、それぞれに、朱のその色合いが、微妙に異なる気がする。
昼間は日差しが強く蒸し暑いものの、このごろは、夕刻になると雨が降る。モンスーンシーズンの到来だろうか。つまりはマンゴーシーズンの終焉だ。モンスーンが来る前に、片付けておきたかった諸事情は、まだまだ片付きそうにもなく、ともあれ、ここはインド。
うまく巻き込まれながら暮らしていくことも、大切なのだ。
寝るときには冷房を切っているにも関わらず、ホテル内全体が冷やされているから、夜、寒い。
ブランケットをきちんとかけて寝なければ、風邪を引いてしまう。
今朝、うっかりとシーツだけに包まり、「寒い」と思って目が覚めた。
喉の調子が少し悪いので、朝食時、年配のウエイターにショウガのスライスとお湯を頼む。それにハチミツを加えて、身体を温めようと思ったのだ。刻んだショウガ入りの湯を持って来てくれたウエイター。
「マダム、喉の調子がお悪いのなら、一般に、お母さんのレシピと言われている飲み物をお作りしてお持ちします」
そう言うが早いか、耐熱ガラスに入った飲み物を持って来てくれた。
「どうもありがとう!」
そう言って、一口飲む。
「おいしい! これは……ショウガ、レモン(ライム)、ハチミツ、それに、クローブが入っているのね?」
「マダム。あと一つ、大切なものが入っています。実は、コニャックを少し入れているんですよ。これが喉に効くんです。コニャックがないときは、ウイスキーでもいいですよ。ちょっとアルコールをいれることで、身体が温まるし、喉にもいいんです」
とてもうれしそうに、そう言うのだった。こういう小さな心遣い一つで、なにやら幸せな気分になってしまう。これだからインドは、やめられない。