OWC (Overseas Women's Club) のメンバーながら、仕事をしているため毎週木曜のCoffee Morningに参加できない人たちのために作られたのがPWG (Professional Women's Group)。
発足時の数カ月は、毎月数十名を超える参加者があり、スピーカーを招いて盛況であったが、このごろは毎回十人を切る少ない参加者だ。
わたし自身、ムンバイとバンガロールの二都市生活をはじめるにあたり、積極的に参加できそうにもなく距離を置いていたのだが、数名の「お世話係有志」でやりとりするメールを見ていると、彼女らも自分自身の参加は難しいものの、グループを自然消滅させるのは惜しいと思っている様子。
そんなわけで、ここ数カ月は、辛うじて途絶えることなく「細々と」続けられて来た。
現在は夏休み期間とあり、参加者はより少ないと察せられたが、とあるメンバーがホストをしてくれることになり、ゲストスピーカーなしで、本日ミーティングがもたれることになっていた。ところが先週になり、彼女に出張が入ってしまった。
一方のわたしは、今週、バンガロールで独身生活を謳歌状態である。早速ホストを申し出た次第。PWGミーティングのホストをするのは、これで二度目であるが、こうして気軽に食事やドリンクを用意して人を招けるのも、インドならではだと思う。
米国時代からときおりパーティーを開いたりはしていたが、準備や片付けはすべて自分でせねばならない。一方、インドでは、もちろん自分で料理などを準備することもあるが、メイドにすべてを任せることもできる。
小人数の集まりであれば、途中、何度もキッチンへ赴くことなく、会話を続けられるのが実によい。
さて、今夜は7名ほどが参加する予定だったが、当日の都合で来られぬ人2名となり合計5名。少なければ少ないで、親密な会話ができるのがいい。食事も立食ではなく、ダイニングテーブルについてできたので、とても寛げた。
今日の参加者は、台湾人、英国人、ドイツ人、フィンランド人、そして日本人とそれぞれに異なる国籍。みな夫の仕事の都合で渡印したものの、それを機に自分もインドで仕事を見つけた、あるいは見つけようと思っている人たちである。
最初は互いのバックグラウンドや仕事の話などをしていたが、中盤は使用人の問題でそれぞれに体験談を。
いかなる国からの駐在員も、使用人には苦労しているようである。
バンガロールはなにしろ短期間に急成長している街で、使用人、ドライヴァーの供給が需要に追いついていない。
然るべき教育を受けておらず、技術不足の人たちが使用人として働いているケースも多く、トラブルはつきない。
賃金の相場もまた、雇い主の国籍によって大きく変わる。欧米駐在員家庭の多くは、相場を大きく上回る賃金を払う人も少なくなく、市場が乱れている。
食事を終えて、2名が早めに帰宅し、残る3名はリヴィングルームに場所を移してかなりパーソナルな会話を。
夫との出会い、仕事、結婚。加えて既婚者との恋愛、不妊治療、養子問題など、話題はかなりディープな世界へ。ワインも進み、それぞれの体験談をシェアする。
仕事やキャリアの問題は、所詮は自分自身の問題として、男性だろうが女性だろうが、自らの力で解決していくしかない。しかし結婚や出産の問題は、一人では解決できない。
特に女性にとって、仕事と出産との両立は、住まう国や都市の環境にもよるだろうけれど、たやすくできることでもない。
不妊治療や養子問題についても書きたいことは少なくないのだが、個人的な事情と直結するため記すに憚られる。その一方で、知ってもらいたい現状も多々あり、いつかうまくまとめたいテーマではある。
不妊治療に関しては、実はメイドのプレシラを通して、ちょっと面白いエピソードがある。
彼女がまだ我が家へ来て数カ月のころだったろうか。クリスチャンである彼女は、定期的に1日の休暇を取り、一族郎党でマイソールの教会に赴く。あるとき、マイソールから戻って来た彼女はわたしに言った。
「マダム。わたしは昨日、マダムとサーに子供が授かるよう、神様に祈ってきました。わたしも結婚してからしばらく子供ができなかったんですが、あの教会の神様に熱心に祈って、そして男の子が授かりましたので」
という。いやいや、祈ってくれなくてもよかったのに。とも言えず、そのときは軽く「ありがとう」と流してそのままにしておいた。そのときの彼女はわたしの年齢を知らず、わたしたちはまだ新婚さんであると思っていたのだ。ま、実際そうだけれど。
さて、それからしばらくの時を経て、数カ月前。プレシラの子供が私立の学校に上がるのに、入学金が足りないから給与を前借りさせて欲しいと頼まれた。借りた分は、月々の給与から差し引いてくださいという。
詳細を聞けば、彼らの暮らしは実に厳しい。夫は企業のガードマンをしているが、給与はなかなか上がらず、しかし義理の母、義姉とその子供たちの生活も面倒を見ている。
わたしはアルヴィンドと相談して、プレシラの子供の入学金は、わたしたちが出そうということにした。翌日、プレシラの夫アンソニーを自宅に呼んだ。
英語もきちんと話せる夫妻は、わたしとも問題なくコミュニケーションがとれ、会話が速やかに進む。二人曰く、私立学校の学費は高いけれど、一人息子だから、無理をしてでもいい教育を受けさせて、いい仕事につかせたいと思っている、とのことだった。
「わたしは息子に、IT関係の仕事に就かせたいんですよ」
とアンソニーは言う。
「わたしがガードマンをやっている会社の若者たちも、かなりいい給料をもらっているんです」
傍らでプレシラが頷く。子供には貧しい未来を与えたくないという二人の思いが伝わって来る。
「子供が将来、どんな仕事につくかは、子供の意見を尊重してくださいね。彼が大きくなる頃は、ITとは違う仕事に人気があるかもしれませんし」
と笑いながらそう言いつつ、しかし、勉強をする機会を与えることはとても大切なことなので、入学金はわたしたちがプレゼントしますと申し出た。二人とも、喜んでくれた。
話が横道にそれたが、そのときわたしが「わたしたちは子供がいないので」と、断言し、将来子供を持つことを匂わせなかったことに関して、プレシラが引っかかっていたのだろう。
数日後、彼女はわたしに、「子供は産まないのですか?」と聞いて来た。
わたしは自分の年齢を話し、結婚当初はもちろん考えていたが、いろいろと問題があって、諦めたことを告げた。驚いたのは、ここからである。
「マダム。わたしはいい不妊治療のドクターを知っています。わたしたちは子供を授からなかったので、しばらく治療に通ったのです」
「わたしの夫は精子の数が足りなかったので、精子の数を増やすための治療を、別のドクターでやってもらいました」
「治療のおかげで、わたしたちはようやく息子を授かることができたんです」
なんと!
神様にお願いしていただけではなく、きちんと治療も受けていたらしいのだ。彼女はこの件以外にも、医学用語などにかなり詳しい。いったいどこで学ぶのだろう。
先進諸国において、不妊治療の医療費とはたいそう高額である。加えて言えば、男性の生殖機能に問題があったとしても、男性への治療は一般的ではなく、女性側がホルモン治療などを受けるのが主流。女性の身体にかかる負担の方がはるかに大きい。
わたしはまず、彼女の口から「精子の数」といった言葉が出て来たのにも驚いたし、それを上昇させるための、高額ではない治療が受けられることにも驚いた。
それはどういう治療なのだろう。アーユルヴェーダなどホメオパシー(同種療法・類似療法)だろうか。そのときは驚いたこともあり、「あらそうなの」と聞き流していたが、今こうして書いていると、その内容が気になってきた。
ところでメディカルツーリズムにおいても注目を集めている昨今のインドだが、なにもよく知られている心臓治療ばかりではない。不妊治療もまた、先進諸国よりはるかに安い値段で受けられるとあり、長期滞在して治療する人も少なくないようである。
……話がまた、終わらなくなってしまう。
この件についてもまた、いつか書くときが来るんだか、来ないんだか。