久しぶりにバンガロールへ戻れる。うれしい。わたしが不在時の夫の夕食4日分は、昨日のうちに作って冷凍庫に入れてある。しかし、今後はメイドに作ってもらうなどして、新鮮な料理を食べてもらえる算段を整えようと思う。
ムンバイに住まいができた以上、もう衣類を荷造りをする必要はない。ほとんど空のスーツケースには、「どうしよう、買い過ぎた。そうだバンガロールに持って行けばいいのだ」とジャガイモやトマト、タマネギなどを詰める。
午後、アルヴィンドをオフィスまで迎えに行きムンバイ空港へ。空港周辺の渋滞は激しい。昨今はハイウェイの工事でより渋滞が悪化している。にも関わらず、いつも時間に遅れる上、「できるだけ急いで」とドライヴァーをせかして無茶な運転をさせる夫。
怒濤のホーンがうるさく、時折の急ブレーキが危なく、たいそう不機嫌な妻。駆け込むように空港へ入り、ぎりぎりでチェックインをしたら、二人ともビジネスクラスにアップグレードしてもらえた。
どう? ラッキーだったでしょ?
と言わんばかりに、不敵の笑みを浮かべる夫。これだから、彼の「時間ギリギリ症候群」は治らないのだ。まったく!
ところで、インド国内線は、たとえ1時間に満たないフライトでさえ、ビジネスクラス、エコノミークラスを問わずしっかりと機内食が出る。
朝食、昼食、夕食にはずれた時間帯には、このようなスナックが出される。
メニューは必ずヴェジタリアン、ノンヴェジタリアンの2種類。
わたしたちがよく使用するのはジェットエアウェイズ、ときどきキングフィッシャー。
どちらも機内食は、それなりにおいしい。
もちろん、とても口にあうときと、かなり口に合わないときとがある。今日の場合は、半分が後者であった。チキンサンドイッチはよかったが、インドのスナック、パウンドケーキ、そしてケーキ。
コンセプトはアフタヌーンティーなのだろうけれど、かなり高カロリーでいけない。サンドイッチだけを食するにとどめた。
●効果絶大? 1時間半ダイエット
まもなくバンガロール国際空港の上空から見下ろせば、そこは頼りない灯りがぽつぽつと見える世界。都市化が進み、街が拡張されているさなかとはいえ、まだまだこの街の郊外は、静かな高原なのだとの思いを強くする。
もう、あの混沌の空港ではなく、新しい空港なのだということに未だ不慣れな感じで、きょろきょろとあたりを見回しながらゆく。それにしても、空気が涼しく、軽い。
ムンバイにいる間、2本のジーンズを主に着用していた。それらがピチピチときつく感じていたので、「いかん、また太った」と気になっていた。メニューの構成に気を遣ったとはいえ、先週末までの2週間の外食が影響したのだろうか。
とはいえ、あんなに蒸し暑くド汚い街を汗を流しつつ歩いたり、新居を整えるのに部屋中を動き回ったり、無数の業者と渉り合ってエネルギーを消耗したりしているのだから、プラスマイナスゼロであってもいいではないか。なぜ、太るのだ。
憮然としながらピチピチなジーンズを履いていたのだが、バンガロール空港を出て、爽やかな風吹き抜ける駐車場まで歩いている間、体重が数キロ減ったような身の軽さを感じた。
ん? ジーンズの太ももあたりに手を伸ばす。ピチピチしていない! 布地をつまめるだけのゆとりがある!
空を飛んでいる間に痩せた! わけではもちろんない。ムンバイ滞在中、我がジーンズは猛烈な湿気によって常にしっとり、縮んでいたのである。湿気によって肌に密着していたのである。なんという不快なシチュエーション。
それにしてもよかった。決して痩せたわけではないのだが、過激に増量していたわけでもなく安心したのだった。
吹く風はそよそよと、半袖では肌寒くさえ感じる朝。
バンガロール宅は、プレシラがきれいに整えておいてくれた。
3週間前よりも、細部が片付いている。
土曜日は、朝も、昼も、庭で食事をする。
ランチは、プレシラが作ってくれた。ダル(豆の煮込み)、ジャガイモのカレー、チャパティ。夜、ユカコさん宅へ持参する一品を頼んだら、ひき肉を解凍してコロッケを作ってくれた。それがやたらとおいしくて、ついついいくつか食べてしまう。
それにしても、必要最低限しか揃っていないガランとしたムンバイ宅に比して、ここはあれこれとモノが多い。安心するようでもあり、こんなにあれこれといるのだろうか、という気もする。空のスーツケースには、ここに余分にあるものを詰め込んで、ムンバイ宅へ少しずつ運んで行こうと思う。
毎度おなじみ、午後アンサナ・スパへと赴く。
ホワイトフィールドに新しいスパ (Angsana Oasis) ができてからは、専らここばかりを利用するようになった。
本家のアンサナ・リゾートよりも近いし、サーヴィスは同様によい。
いつもと同じ、フェイシャルとボディマッサージのパッケージ。
ここはバンヤンツリー・グループのスパで、タイから来た女性たちがトリートメントをしてくれる。インド的なアーユルヴェーダのマッサージではないため、オイルも軽め。
エステティシャンは誰もがしっかりと訓練をされておりとても上手なので、指名をせずに訪れることが多い。
今朝まではあれこれと「ピリピリする事件」があり、相変わらず夫婦喧嘩が連発していたのだが、マッサージのあとは、休戦ならぬ終戦ムードであった。
わたしたちは、なにかと夫婦喧嘩が絶えないバトルな夫妻なのだ。
ということを、随分久しぶりに書く気がする。そんな私事はさておき、入念なトリートメントで「憑き物が落ちた気分」となった。
●ユカコさん&ビル宅で過ごす夜
アンサナ・スパを出た後、ユカコさん&ビル宅へと赴く。スパのある場所からは車で5分ほど。来るたびに、周辺の光景は変わっている。かつてはとても静かな「僻地」だったらしいホワイトフィールドは、これからもどんどん住宅や商業施設が増え続けるのだろう。
さて、ジェイク君含め3人に歓待され、ワインやおつまみをいただく。
キングフィッシャーが販売開始したばかりの南アフリカワイン「BOHEMIA」の白ワイン。
初めて飲んだのだが、これがかなりおいしい。
移住前、カリフォルニアワイン三昧だったころは、
「インドに行くと、おいしいワインが飲めなくなる」
と思っていたのだが、もちろんカリフォルニアとは比べ物にならないにせよ、おいしいと思えるワインがどんどん手に入るようになって、うれしいものである。
夕食は、ユカコさんが料理を準備してくれていた。彼女はお料理もとても上手。メイドさんから教わったという南インドの料理なども、よく作っているようだ。
手作りパンもとてもおいしい。米国やニュージーランドでの生活も経験している彼女とは、インドの食材、食文化に関する「前向きな」話ができるので、とても楽しい。
それにしても、かわいらしきはジェイク君。表情が豊かになっていて、笑顔がたまらぬ。ときどき、言葉にならぬ言葉でしゃべっているのもまたかわいい。すべすべぷくぷくと、触ってみずにはいられないほっぺた。
●思い思いに日曜。夜はヴァラダラジャン宅へ
夫は夫で、わたしはわたしで、やらねばならないことを片付ける一日。郵便物の整理やデスク周りの片付け。わたしは来週に持ち越せるが、アルヴィンドはそうもいかない。主には書斎にこもっていた。
わたしは本を読んだり、昼寝をしたり、かなりだらだらと過ごす。それにしても空気が軽い。昼寝にもってこいの気候である。蒸し暑いムンバイでは昼寝をしたいという衝動はわかなかったもの。昼寝をしているいとまもなかったが。
夕方、義姉スジャータ&ラグヴァン宅へ。
食事前のスナックに、フライド・カラマリ(イカのフライ)を出される。わたしたちの好物。実は昨日、ユカコさん宅でも前菜に出されたのだった。みなどこかしら、嗜好に共通点があるらしい。
今日は、学会に参加するため、ラグヴァン父のヴァラダラジャン博士がデリーから来ていた。物理学者である博士は日本の文化にも詳しく、たまたま新聞に載っていた小川洋子の作品の書評について、コメントを求められる。
小川洋子の作品は『博士の愛した数式』しか読んだことがなく、そこに載っていた数冊のことは知らなかった。十年以上も日本を離れて、日本語も日本の本からも遠い暮らしをしている。
文章の書き手でありながら、読書機会、つまりは他から刺激を受ける機会が著しく少ないというのは、由々しき事態だと、すでに何年も前から気づいていることであるが、改めて思うのだった。
英語の本も、日本語の本も、この職業に就いている人間のわりには、読んでいなさすぎる昨今である。
ともあれ、今宵またおいしい手料理。わたし自身はキッチンに立つことなく、もてなしてもらうばかりの贅沢な週末であった。二つの都市で暮らすことは、決してたやすいことではないが、こうして歓待してもらえる場所があるというのは、心安きものである。
写真左上から●ラグヴァン作のマルガリータ2杯目。1杯目にはグラスの周囲に、ちゃんと塩がまぶされていた ●これがスジャータのお料理バイブル ●パスタ、とりすぎではありませんか?! 右に立っているのはラグヴァン弟のマドヴァン ●スジャータのコルカタ(カルカッタ)土産。コルカタ名物のマスタード。この間、GOOD EARTH内のTHE TASTING ROOMのシェフが、マスタードはコルカタ出身の料理人が作るといっていたが、そうだ、コルカタはマスタードが作られているのだと納得する。なぜかマスタードづいているこのごろのわたし ●野菜もたっぷり、とてもおいしい料理 ●デザートはチョコレートムース