幾度となく歩いた道を、今日も歩く。歩くたびに、カメラを向けたくなる、いつもと似た、しかし異なる光景。欲しかったものが見つからず、買い物の目的は果たせず、ただコラバマーケットのあたりを通過して、繁華街を歩く。
人いきれの極み。要所要所では息を止めて通過する。
動物も、鳥も、大人も、子供も、渾然一体となって。古い野菜を路傍で食む山羊。店頭の米や野菜をついばむ雀。どこにだって舞い降りて、何にだってたかるは鴉。
市場の野菜は、しかしスーパーマーケットのそれらよりもはるかに生き生きと生命力を漲らせていて、やはりこういうところで日常の買い物をすべきなのだな。近所のNature's Basketは確かに便利だけれど。
皮が薄い、きれいな新ショウガを見つけたので、それを買った。毎朝のジンジャーティーに使うために。スライスしてハチミツ漬けにするのもいいだろう。クローヴやカルダモンやシナモンを加えてもいいだろう。それを紅茶にいれたり、ソーダで割ったりして飲むのだ。
ショウガばかりをハンドバッグに入れて歩く少し奇妙な感じ。
まるでオブジェのように、古いものがそこにある。風景に溶け込み過ぎていて、誰も撤去することなく。
一通り買い物を終えて、いつもの避難場所 THE TAJ MAHAL PALACEに入れば、花と柑橘の芳しきアロマに包まれてたちまちの別世界。ここで一息ついたあと、ライオンゲートの向かいにあるインドデザイナーズブランドの高級セレクトショップ、ENSEMBLEまで再び歩く。
タルン・タヒリアーニ (Tarun Tahiliani) やロヒト・バル (Rohit Bal)、マニシュ・マルホトラ (Manish Malhotra)、ガウラヴ・グプタ (Gaurav Gupta)など、数々のインド人デザイナーの衣類が集められている。
アルヴィンドの誕生日プレゼントにシャツを探そうと思ったのだが、あいにく気に入ったものは小さいサイズしかなく断念。こういう店は「長身スリム体型」を基準にした服ばかりだから、そもそもここで買おうとすること事態、間違っていたかもしれない。
と、時計を見れば3時過ぎ。ロメイシュとウマは、今日、コラバのリーガルシネマで映画「バッドマン」を見たあと、INDIGO DELIで遅いランチをとる予定だと言っていたのを思い出し、わたしも顔を出すことにした。
果たして二人は、ピザを仲良く食べているところであった。わたしはすでにランチをすませていたので、冷たい飲み物を注文。実は二人、昨日もここでランチを食べ、スイーツを楽しんだらしい。
ピザを食べ終えた二人は、ベルギーチョコレートのホームメードアイスクリームをそれぞれに注文。わたしも味見をさせてもらう。チョコレートの風味が濃厚な、なんともリッチな風味のアイスクリームである。カロリー高そうだが非常においしかった。
そして本日の夕餉。INDIGO DELIで購入してきた美味なパンと、独創ブイヤベースと、サラダ。
敢えて自分で言うが、ありあわせを駆使して作る独創ブイヤベース、おいしいったらありゃしない。
・たっぷりのタマネギをオリーヴオイルとバターでじっくり炒める。
・冷蔵庫に残っていたズッキーニとナスを炒める。
・インドで初めて見つけた「フェネル」も加える。
・先日鶏肉丸ごとで作ってスープ(だし汁)を解凍する。
・大量トマトを湯むきしてブレンダーでジュースにする。
・冷凍していたエビ、マナガツオを別のフライパンで軽く焼く。
・オベロイホテル製のポークソーセージ(かなりうまい)も炒める。
・野菜炒めの鍋にスープ、トマトジュースを加える。
・ニンニクすり下ろし、白ワイン、塩、醤油などで味を整える。
・軽く焦げ目をつけて味を封じ込めた魚介類、肉類を加える。
・灰汁をとりつつ煮込む。
とまあ、大雑把にいえば、こんな感じだ。海の幸、山の幸のだしがトマト&チキンスープに溶け込んで、過剰な調味をする必要なくうまい。うまいっ!
しかし、アルヴィンドとわたしばかりが
「おいしいね〜」
と騒いでいて、ウマとロメイシュの口にはあまり合っていなかったのか、二人とも比較的静かである。
が、それはそれでいいのだ。万人(ここでは4人)の嗜好にあう料理をいつも出せるわけではないのだ。彼らが食べられない素材さえ避ければいいのである。
とはいえ、彼らもおかわりをしていたので、悪くはなかったのだろう。
食後は毎日のごとく、マンゴー。未だ、マンゴーのシーズンは続いている。アルヴィンドは仕事の帰り、TAJ PRESIDENTのあたりで車を降り、その近所に露店を出している果物屋でマンゴーを買って帰るのが、このごろの日課なのだ。
一昨日、買ったマンゴーの一つが腐っていた。翌日、その旨を店の人に訴えたらしく、もう一つ、無料でもらって来ていた。ぬかりのない男である。
片手にビジネスバッグ、片手にマンゴー入りのビニル袋をぶら下げて、「タダイマ〜」と帰宅する夫。かなり可愛らしい図ではある。