バンガロールもまたモンスーンシーズン特有の、灰色の空がちだったのだが、今日になって快晴。庭を吹く風も軽い。今朝は毎度おなじみのアーユルヴェーダのマッサージに来てもらい、1時間半ほどトリートメントを受ける。インド生活の醍醐味である。
しかしリラックスする間もなく、荷物をまとめ、メイドのプレシラに不在時の指示をし、庭師ともども今月分の給与を渡し、正午には家を出たのだった。
さて、今夜から2週間はムンバイ宅。実はアルヴィンド、昨日からデリー出張で、ムンバイにはいない。明日、義父ロメイシュと義継母ウマと同じフライトでムンバイに戻って来るらしい。
ムンバイ宅の掃除は、わたしの不在時もメイドのジャヤがやってくれているので問題ないが、義理両親が来るとあれば、ゲストルームやバスルームを快適に整えたく、あれこれと作業がある。むしろ今夜は一人でゆっくりと過ごせるのがいいかもしれない。
米国のPEOPLE誌のインドヴァージョンが創刊された。
ボリウッドスターをはじめ、インドのセレブリティたちの写真や動向が、ページを埋め尽くしている。
ハリウッド情報も入っているが、大半がインドの華やかな世界を切り取っている。
インドでは、"PAGE 3" という表現がある。
インドで最大の発行部数を誇る英字紙 “THE TIMES OF INDIA” の3ページ目、つまりPAGE 3には、セレブリティをはじめとする業界の、パーティーの写真が数多く掲載されている。
富裕層の象徴でもある彼らのファッションは、インドのトレンドを反映してもいる。ちなみに最近は、年配者を除き、サリーを着ている人の写真が本当に減った。
尤も、特段セレブリティでもない人も、ゲストとあれば名前入りのキャプションと共に写真が掲載される。ともあれ「ミーハー感」に満ちたページである。
そのページが人々の関心を集めるインドである。そのPAGE3の総まとめのような雑誌PEOPLEは、売れるに違いないと察せられる。
ちなみに英国における"PAGE 3" は、タブロイド紙の3ページ目を指し、そこにはセクシーな女性たちのグラビア写真が載っている。
●ロス在住NRI夫妻と、日本の味。
午後2時発の、バンガロールからムンバイへの便に乗った。ランチは空港でサンドイッチとカフェラテですませておいた。今日はいつものBARISTAではなく、奥にあるTIME OUTというカフェの「マサラオムレツ・サンドイッチ」を試してみたが、これがなかなかおいしかった。
惜しむらくは、インド定番の「ホットサンド器」で温めて欲しいところが電子レンジで加熱だったことか。インドではサンドイッチを買うと、たいてい「ホットサンド器」で、表面に焦げ目が付く程度に焼いてくれるのだ。そうしてケチャップを添えてくれる。
さておき、機内である。3時ごろ、機内食が出た。前回、この時間に乗ったときには、サンドイッチを食べたあとだったのでさすがにパスしたのだが、なにやらカレーのいい香りがする。
ちょっと味見をしてみようと、一応はもらうことにした。必ずヴェジタリアンとノンヴェジタリアンがあるが、わたしはノンヴェジタリアンを頼む。
ところが、わたしの隣のおじさんが頼んだところで、ちょうど終わってしまい、ヴェジタリアン料理しかないという。
ちょっとムッとしたが、仕方がない。と、隣のおじさんが、
「僕のと取り替えてあげますよ」
という。わたしのささやかな「ムッ」に気づいたのだろうか。それはささやかではなかったのだろうか。恥ずかしい。
「いえいえいいんです。どうぞ、召し上がってください」
と遠慮をしたら、
「いえ、ぼくはもう、さっき軽くランチを食べましたから」
といって、取り替えてくれた。
わたしもランチを食べたばっかりなのだが、それを言ってはおしまいだ。せっかくの好意だと思い、いただく。チキンはココナツカレー仕立てで、匂いの通り、かなりおいしくて、味見のつもりがすべて食べてしまった。
さて、おじさんの隣には、奥さんが座っている。夫婦ともNRI(非インド在住インド人)でロスから帰郷しており、家族に会うためムンバイに向かっているとのこと。
「僕たちは、日本に行ったことがありますよ。東京、名古屋、大阪、長崎……
「大阪は、あれ、パンケーキみたいな、ええとオコノミヤキ、おいしいですよね。
「長崎では、カステラ。カステラはうまかったなあ。
「僕たちは、ロスに行きつけの日本食レストランがあるんですよ。ラーメンときどき食べますよ。 あと、イザカヤが好きでね。
「妻はツクネが好きなんですよ。
「しゃぶしゃぶも、ときどき食べにいきますよ。
「寿司も大好きでね。寿司屋に行くと、カウンターに座ってね。オマカセ、お願いするんですよ。で、ビールを飲みながら待つの。 妻は、ツナとネギのロールが好きでね。
「妻はね、よく日本食の朝ご飯を作るんですよ。僕たちスティッキーライス(短粒米)が好きなんですよ。妻はエッグロール、作れますよ。あの、卵をクルクルと巻いて作る。そうそう。タマゴヤキ。
……。
なにやら、ひたすら、日本食の話を続けるおじさんだった。アルヴィンドの遠縁かと思った。
無性に寿司が食べたくなった。どうしてくれよう。