我がマックの不調にあたって、アドヴァイスのメールをくださった方々、本当にありがとうございます。
「インドで日本語のコンピュータを買えぬ」
と断言していたわたしだが、思い返せば我が5台の歴代マックのうち、今回壊れたものを除いては、すべて米国で調達した英語環境のアップルコンピュータだった。それを、アップルコンピュータに詳しい日本人に依頼して、セットアップをしてもらっていた。
わたしは、そのセットアップの際に、なにか特別なソフトウエアや技などが必要なものと思い込んでおり、それらはわたし自身、持ち合わせておらず、加えて言えばインドのマック関連ショップを信用してはおらず、最初から諦めの境地であった。
しかし聞くところによると、OSX以降は、英語環境から日本語入力可能な環境へ、設定を「切り替える」だけで簡単に以降できるらしいということが、アドヴァイスのメールによりわかった。
アップルコンピュータ歴は長いものの、設定その他のハード部分には弱いわたしである。そんな進化を知らなかった。
もしも、こちらで購入したアップルコンピュータを日本語環境で使えるのなら……。わざわざ日本で買わなくてもいいということだ。ん? ってことは、慌てて帰省せずともいいということ……?
いえいえ、帰国はもう決めた。帰って2年ぶりの福岡を満喫するのだ。
ところで、一時は「もう、PCを買ってやる!」と捨て鉢になっていたわたしだが、マック愛用の友人知人から再考を促すコメントを受けた。現在、少々軟化している。
インドにコンピュータを2台以上持ち込む際には、法外な関税を請求される。そこまでして、新品2台を持ち込む意味があるのか。もう少し落ち着いて、我がマックに向き合ってみようと思う。
インドでの日々は、オリエンテーリングに似ていると思うことがよくある。地図とコンパスのかわりに、方向音痴のドライヴァーと、自分の嗅覚だけを頼りに、紆余曲折を経てゴールへたどりつく。
そんな話はさておき、今日もまた、刺激的な一日であった。
先日、日本のパスポートを更新した話は記したかと思う。これは自分の写真うつりがいまひとつよくないことを除いては、問題なく翌日に発行された。
さて、次はパスポート更新に伴って、PIOカードにその更新の旨を記載してもらう手続きである。PIOカードとはPersons of Indian Originカードのこと。NRIなど、インド血統だが海外生まれの人がインドに暮らす際に利用する永住権のようなものだ。
わたしはインド人の妻なので、インド血統ではないが、このカードを持っている。ふふふ。何がふふふだ。
移住前、ワシントンDCで申請し、入手した。このカードを持っていれば、向こう15年間、インドに滞在できるが、半年に一度、国外に出るか、あるいは書類申請をせねばならない。
それを避けるためにも、そしてパスポート更新情報を記載するためにも、Residential Permitという外国人のための居住許可証を得ている方がいいだろうと言われた。
実際には、古いパスポートを携行していれば、海外へ出て再入国する際にとがめられることはないらしいが、米国時代より査証の件であれこれと苦労している者としては、できる限りリスクを抑えたい。
リスクを抑えたい。
インドに、なんて不似合いな言葉だろう。空々しい感じさえする。
そんな所感はさておき、居住許可証である。それを取得するためには、FRRO (Foreigner Regional Registration Office) へ赴かねばならない。外国人登録事務所。移民局といったところか。そこへ行くには問題ないのだが、書類申請にはインド人一名を連れて行かねばならないらしい。
道ばたのインド人をナンパして同行してもらうわけにも行かないので、夫に仕事の都合をつけてもらい、共にフォート地区にあるFRROを目指した。
写真で見ると、味わい深いビルディングに見えるが、実際は、古くて暗い。
インドの役所関係は、どうしてこうも、不必要に人の心を不安にさせる淀んだ空気が漂っているのだろう。
不安とは「本当に、手続きは、終わるのですか?」という不安である。
延々と待たされそうな予感を振り切って、3階へ赴き、受け付けで必要書類を確認する。
すべて持参している。
それらを待合室にあるコピーコーナーで、3部ずつコピーするよう指示される。
コピー機を自分で操作しようとしたら、コピー担当のおじさんに慌てて制された。
そう。ここインドではすべて人がやってくれるのである。機械の横に、いつも誰かが立っている。
パーキングメータの横にも、自動販売機の横にも。
それはさておき、1部1ルピーでコピーをとったあと、今度はコンピュータでフォームを記入するよう指示を受ける。5台ほど設置されているコンピュータの1台の前に座る。
「僕が入力する」
と、夫が手伝ってくれる。わたしは必要情報を確認しつつ、夫に伝え、同時に画面を追って入力事項をチェックする。結構時間がかかったが、なんとか仕上がりプリントアウト。
それを今度は指定された担当者に提出する。几帳面な風情の、若い男性であるところの彼は、すべての資料をてきぱきと仕分け、写真をペタペタと張り付ける。さ、申請完了か、と思った瞬間、彼の視線が書類の一点に固定された。
「これ、あなたが入力しましたか?」
「いいえ、夫が入力しました」
「やはりそうですか。性別が、男になってます。入力、やり直してきてください」
うおぉぉぉぉ〜!
「そこ、ちょっとホワイトナーで直したり、できないんです?」
「できません。情報はすべてデータで管理されますから。直さなければ、期限が切れる2020年まで、あなたは男として登録されます」
いやですいやです。直します直します。
ああ、もう、ふりだしに戻るじゃないのよう!
そんなこんなで、思いがけない落とし穴に落ちたものの、なんとか書類を調えることができた。1時間後に居住許可証が受け取れるということなので、ランチへ行くことにする。
近くにあるROYAL CHINAへ行こうと意見が一致。こういうときの我々は意思疎通が速やかだ。美味点心を味わい、夫は会社へ戻り、わたしはFRROで居住許可証を受け取りに行った。
右の写真。グレイのノートがPIOカード、濃紺のノートが居住許可証だ。
ごわごわとした質の悪い紙。
印刷も製本も悪いこのノートは、昔日のスパイ手帳を彷彿とさせる。
まがいものくささが、味わい深くてよい。
インドに暮らしていると、自分が知らず知らずのうちに、「手続き恐怖症」になっているのがわかる。
きっと、必ず、終わるのに、いつまでも終わらないような気がして、あらかじめから気が重いのだ。しかし、こうして終えてみると、大したことはなかったなと思う。
知らず知らずのうちに、いちいち気構える習慣が身に付いているのかもしれない。肩の力を抜いて、もう少しリラックスしていきたいと思う。