朝晩は冷え込むものの、日中は太陽の日差し豊かで、ときには暑いほどのバンガロール。とはいえ、自宅にいれば、ほどよく心地よい風が吹き込んで来て、やはりここは暮らしやすい場所だと思う。
部屋が寒いと感じるとき、庭に出ると暖かくて心地よい。庭が暑いと感じるとき、部屋に戻ると涼しくて心地よい。つまりは、どちらかが快適なので、エアコンディショナーを使う必要がまったくないのがよい。
尤も、それは我が家が1階だからであって、バンガロールの場合、上階になると、日差しを遮る樹木などがなく、太陽に照りつけられて非常に暑い。昔ながらの、「樹木生い茂る広大な庭の中央に立つバンガロー(邸宅)」というのが、この地においては最も暮らしやすい家屋なのだ。
昨日は午後、友人数名を招き、日が暮れるまで、おしゃべりをして過ごした。気心の知れた人たちと、最初はお茶を飲みながら、途中からはワインのボトルなどをあけ、とりとめもなく語り、笑って過ごす時間はまた、心地がよい。
夜、ほろよい加減で夕餉の支度をする。夜10時近くになってようやく、カンファレンスから戻って来た夫アルヴィンドとともに食卓を囲む。
TIE (The Indus Entrepreneurs) のカンファレンスが、バンガロールのアショカホテルで3日間に亘って行われており、その初日に参加するべく、夫は週明けもムンバイに戻らずバンガロールに滞在しているのだ。
TIEとは、NHKスペシャル『インドの衝撃2』の第三回「世界の頭脳 印僑パワーを呼び戻せ」でも取り上げられており、夫もメンバーに名を連ねる印僑による起業家のためのネットワークである。
カンファレンスには1500名以上が参加しており、米国時代の友人や知り合い、その他、かつてのビジネス関係者たちとも会うことができ、とても楽しかったようである。
主には、彼はネットワーキング目的で訪れていたため、常時行われている講演などには参加しなかったようだが、キングフィッシャー(UBグループ)のCEOヴィジャイ・マリヤーの講演は聴きにいったとのこと。
また、インフォシス・テクノロジーの現CEOであるナンダン・ ニレカニ氏とお会いし、著書を購入してサインをしてもらったのだと見せてくれる。
プログラムを見ていると、興味深い。せっかくあと2日あるのだから、わたしが行こうかしらと思う。夫も、「僕の代わりにいっておいでよ。楽しいと思うよ」と勧めてくれる。
そして本日。夫は早朝の便でムンバイへ。わたしはやはり、カンファレンスに参加することにした。
プログラムに記されているいくつかの講演の中でも、わたしが興味を持ったのは、FabIndiaというテキスタイル大手のマネージングディレクターであるウィリアム・ビッセル (William Bissell) 氏の講演だ。
午後3時半から始まる彼の講演を目的に、しかし1時ごろには会場に赴く。
夫の名が入ったネームタグを首からぶら下げ、もちろん誰もとがめる人はなく、まずはランチのクーポンを片手に食事のエリアへ。
びっくりするほどたくさんの参加者で、外国人の数は少ないものの、もしも先月のテロなどが起こらなければ、もっと参加者は多かったのではないかと予測される。
テロが起こったのはムンバイであるが、バンガロールもその影響を大いに受けており、インド出張をキャンセルする人たちは少なくない模様。
本日の新聞記事によれば、例年だと、どの高級ホテルも100%近い稼働率らしいが、今年は20〜30%だとのこと。
こんな時期こそセキュリティも厳しく、トラブルは起こりにくいとわたしは思うのだが、そうは思わない人が世間では多数なのだろう。まあ、それは当然のことかもしれないが。
ともあれ、ランチをすませ、起業関連のパネルディスカッションを聴講し、最後にFabIndiaのウィリアム・ビッセルの講演を聴くべく、会場へ赴く。
プログラムには、彼だけが講演することになっていたのだが、ディレクターのスニル・チャイナニ(Sunil Chainani)氏も同席しての、二人による講演(写真右上)であった。
FabIndiaが、地方農村の貧しいアルチザン(職人)たちと、いかに結びつき、彼らとの「共同作業」によって繁栄しているかを理解できたと同時に、慈善活動などに力を入れている理由もまたよくわかり、非常に印象的な講演だった。
FabIndiaの商品や店舗に関しては、カスタマーとして立場からいえば、まだまだ改善すべき部分が多いようにも思われるが、しかし、無数の職人たちを束ねながら、国内外100近い店舗に商品を流通させることの困難を想像すると、「細かいことはさておき」という気分にさせられる。
完璧を求めていては、ビジネスが動かない。不完全さえも「素朴な味わい」という魅力の一つにかえられれば。
かつてから何度も記している通り、「人手過剰」なインドでは、あらゆる場面で「手作業」が生きている。機械で作られる商品のように、すべてがきちんと画一的に仕上がることはなく、不揃いや不完全も少なくない。
そのような対して、「これくらい、大丈夫」「これも個性の一つだから」となるのか、「こんなもの、買っていられない」となるのか。そのあたりの消費者の判断がまた、ビジネスに大いなる影響を与えるのだろう。
FabIndiaの創業の歴史は、かなりユニークで興味深い。1960年にFabIndiaを創設したのは、そもそもニューヨークの有名デパートメントストア、MACY'Sのバイヤーだった米国人男性だ。
そこから始まった歴史や、現在に至る商品の品揃え、オーガニック製品への進出など、企業の背景はとても興味深い。関心のある向きは、ぜひFabIndiaのホームページをご覧いただきたい。
■FabIndiaホームページ
■The Fabindia School(写真右から2番目の人物がウィリアム・ビッセル氏)
講演のあとは、聴講者がどっとステージに集まり、二人を取り囲んで言葉を交わしたり、名刺を交換したりの「フリータイム」である。
わたしは次の約束があったので会場をあとにしたが、せめてご挨拶をして、名刺交換をさせたもらえばよかったと、少々後悔している。
自分の仕事に直接関係があるわけではないカンファレンスであったが、しかし何につけても、成功を収めている人の話には「よりよく生きていくためのヒント」がちりばめられている。
関係がなくても「インドを語り、インドを執筆する」上では、どんな経験さえ、無駄にはならない。これからも、このようなイヴェントには積極的に参加したいものだと思わされた一日であった。