日曜の昼下がり。本当に、のどかだ。しかし、時折静寂を破る、激しい音が轟く。隣接する土地に、鉄材が運び込まれている。いよいよ、空き地と化していた隣の私有地に、何か建築されるのだろう。
わが家は敷地の角に位置している。西側は、ITCテックパークがある。とはいえ、建物は離れた場所にあり、わが家のそばは庭になっているため、樹木が生い茂り、いい塩梅で西日を和らげてくれている。わが家に蝶が多いのは、隣の庭園のお陰だ。
北側の敷地。ここは、昔ながらのバンガロー(邸宅)が、無人のまま残っている。樹木に包まれた広大な敷地の中央に、平屋の一軒家がぽつんと建つ、往年のバンガロールの有様だ。最近までは使用人一家が管理していた。
しかし最近、ひと気がなくなったと思ったら、建材物の搬入が始まった。バンガローを取り壊し、何かが建築されるのだろう。この敷地からは、インド菩提樹(ピープル・ツリー)がわが家の庭にせり出している。ほかにも、名の知らぬ木の枝が迫り、木陰を作ってくれている。
落ち葉や木の実が落ちて来て、庭の掃除がたいへんだが(といっても庭師がやってくれる)、さまざまな鳥たちが訪れ、リスたちが駆け巡り、のどかな高原の様子を残してくれているのも、この木々のお陰だ。
ガーデンシティと呼ばれていたバンガロールが、もはや市街の緑は埃にまみれ、樹木の伐採は進み、それを憂う人々が、緑を守ろうと声高に叫んでいる。
しかし、どこまでその声が届くのか。不動産業者も地主も、まずは自らの利益が優先なのだ。
事実、わたしたちが住んでいるこの低層アパートメント・ビルディング。そもそもは同じ不動産会社による隣接の高層アパートメント・ビルディングに住む人たちのための「庭」だった。
彼らには、「広大な庭園付きの物件」として売り出しておきながら、数年後に開発を開始し、この物件を立てたのだということを、暮らし始めてしばらくして、知った。
そんな場所に住んでおきながら、隣の樹木に干渉する権利はないのだが、しかし、この書斎の窓から眺める緑が、いつまでもそこに在って欲しいと願わずにはいられない。
先週は、ご近所関係の問題を解決すべく、動いた。実はわが家の庭に、タバコの吸い殻やティッシュペーパー、菓子の包み紙などのゴミ、さらには白くて丸い小石などを投棄するご近所さんがいることに耐えかねたのだ。
我が家の真上には3世帯が住んでいる。斜め上を含めると6世帯。真上3世帯中2世帯は、以前からの顔なじみで、ゴミを捨てることはないし、喫煙者がいないこともわかっている。
問題は新しく越して来た1世帯プラス斜め上3世帯である。
しかし、パーティなどを開いた際、ゲストが訪れて喫煙し、タバコを投げ捨てる可能性もある。なにしろここはインド。世間にゴミ捨てが横行しているインド。それを食い止めるのは、簡単なことではない。
ともあれ、先週のある夜、ゴミ捨ての実態を伝え改善を訴えるレターを作り、6軒すべてを訪問して配布した。結果、タバコはやはり、新しく越してきた家からだということがわかった。
実は応対に出たのはティーンエージャーらしき息子なのだが、タバコの件を伝えた途端、急に「おどおどとしたムード」になった。
「タバコは……父が吸ってます。父に、伝えておきます」
と言ってはいたものの、どこかしら、あの少年だか青年は怪しかった。ひょっとすると喫煙を知られまいと、証拠隠滅のために窓から投げ捨てていたのかもしれない。以来、タバコの吸い殻は見られなくなった。
タバコよりも危険な丸くて白い小石の投棄については、斜め上のフランス人駐在員宅からのものだとわかった。バルコニーの敷石を、子ども(幼児)が投げていたことがわかり、即刻やめさせるとのことだった。
……と、綴れば簡単な話だが、すべてのお宅に回り、あれこれと説明しつつ、それなりに気を遣うことでもあった。しかし、このようなことを機に、近所の人とコミュニケーションを図っておくことは、悪いことではないとも思う。
インドでは、突然来訪したのにも関わらず、玄関先で立ち話をするのではなく、「どうぞどうぞ」と中に通してくれる。むしろ玄関先での応対は失礼なのだ。
常に来客に対して寛大なインド。最後には、顔なじみの上階のお宅でしばらく世間話をして帰ってきたのだった。
インド発、元気なキレイを目指す日々(←Click)
■結婚:愉しみを分かち合う相手。
■シャンデリアと上海雑技団と。
■即興の見事。インド伝統音楽。