どこぞのジャングルの光景か、と思われるだろう。土曜の午後、夫と二人でアーユルヴェーダ診療所でマッサージを受けた帰りの、ご近所の光景だ。
マッサージを受けている間、天井が抜けるんじゃないかというくらいの勢いで、激しい雨が打ち付けていた。
帰るころには幸い小降りになっていたが、帰宅に時間がかかることは、容易に察せられた。激しい雨が降れば、たちまち道路の随所が水没し、交通渋滞の渦となるのだ。
そこが数時間前までは道路だったということが信じられないような光景。最早、沼。本来は、この線路の下をくぐって家に帰るのだが、当然、迂回だ。
それでも、道路の随所が水没している。
「絶対に、水の中で車を停めないで。前の車が行ってしまってから、深みを通過してね」
と、ドライヴァーに伝える。前の車に密着して走る習慣のあるドライヴァーたち。途中でスタックしたら洒落にならない。
「万一深みにはまっても、絶対にエンジンを止めないでよ!」
念には念を押す。なにしろ、じゃぶじゃぶとしぶきを上げながらのドライヴだもの。
周知の事実だろうが、敢えて書けば、走行中の車の水没被害を軽減するには、エンジンを常にふかし続け、マフラー内に水が入らないようにすることが大切なのだ。
それも一定の速度を保ちながら。
そのためにも、車間距離を保ちながら、深みで身動きがとれなくならぬよう注意が必要なのである。まあ、インドの場合、車間距離をとったらとったで、他の車が割り込んで来る可能性もあるのだが。
この街、この国で車を走らせるには、本当に、「この国仕様の実用性」が求められるというものだ。車高の低い車は、スピードバンプでお腹を削り、水没の道では冷や冷やさせられ、実に、ふさわしくない。
壁画のライオンが、水を飲んでいるみたいに見えて、ちょっとかわいい。
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この街に住んでいると、スズキのジムニーのような小型の四駆が便利だろうなと、毎度のことながら、思う。ま、他にもいい車はあるんだろうが、わたしに知識がないので、取り敢えず、ジムニー。
わたしがここに車関係のことを書くと、「車に詳しくない人が書いた記事だなとわかる」などとと言う人がある。
車に詳しくないのは否定しないが、車を買い、車を使用する人が、みな専門的な知識を備えているわけではないということを、忘れちゃいかんだろう。
わたしは確かにライターがだが、ここではライターとしてではなく、「個人の思いを優先」して、あくまでも主観的に書いているのだということを、理解していただきたい。
世界各地の、さまざまな場所で、さまざまな車に乗り、トライヴの旅をしてきた者としては、車に対してそれなりに、肌身に感じることがある。
その土地の地理、気候、道路状況、文化、慣習、ライフスタイル……。さまざまな要素が絡み合って、「ふさわしいもの」の姿が浮かび上がる。
車に対する期待値。車に対して求めるもの。これもまた千差万別。その期待はまた、乗る場所、土地によっても、当然異なるだろう。
たとえば米国にいたころ、自分が欲しいと思っていた車を、ここで欲しいとは思わない。
あの、とてつもないエネルギー消費大国で、燃費など考えることなく、好きな時に好きなだけ、走っていた。
東海岸から西海岸まで、約4000マイル(約6500キロ)のアメリカ大陸横断ドライヴをしていたころ。
カリフォルニアの新しい地で、「今日は気持ちの赴くまま適当に走ろう」と、あてもなく、日がな一日、ハイウェイを飛ばしたころ。
たとえば「環境汚染」に対して、痛切に向き合う気持ちはなかった。
ニューヨークなどのごく限られた都市部をのぞいては、米国において車のないライフなど、考えられなかった。
しかし、インドに住んでいると、社会問題が目に見えてわかる。看過できない。汚点が露(あらわ)に見えるから、突きつけられるから、意識を変えずにはいられない。
電気自動車が欲しいとか、ハイブリッド車はどうだろうとか、この国に住み始めてからようやく、切実に考えるようになった。
なにしろバンガロール市街(中心部)での平均速度は、多分30キロ前後。高架など、車の流れが速やかなところでも40キロ台。50キロを超えようものなら、危険を感じるくらいだ。
車について思うことはまた、改めて書きたいのだが、ともあれジムニー。以前、『胡蝶の夢』に書いた記事を、こちらに転載しておく。
■スズキ「ジムニー」改め「ジプシー」@インド。
(2011年4月28日の『胡蝶の夢』より)
本日は、久しぶりにOWCのコーヒーモーニングへ。現在、イースター休暇中とあってか、出席者は比較的少なめであったが、毎度のごとく、会のあとに友人とランチを共にし、会話に花が咲く。
話題は各方面に飛ぶなか、車の話。インドの悪路に適しているのは、スズキのジムニーのような車ではなかろうか、と常々思っていた。
小型。車高の高い四駆。頑丈。燃費はまあまあそうだが……。
先日、インドで売られていないのかとあれこれ探していたところ、別の名前で売られているらしきことが判明した。
しかし、その情報が定かかどうか、自信がなかった。
そのことを話したら、友人が、たまたま「ジムニーらしき車」を見かけた時、ドライヴァーに問うたところ、それは「ジプシー」と言う名で、インドではかなり前から製造されていることが判明した。
サイトを確認した所、「救急車」とか「軍用車」とか、「工事用」などといった、一般の乗用車とは異なる世界で乗られているようだ。
ひょっとしたら町中でよく見かけていたものの、気づかなかっただけかもしれない。
インド生活も久しく、自分で運転したいという気持ちが、定期的にこみ上げて来る。そんな中、バンガロール拠点、電気自動車のREVAがいいのではないかと思っていた。
なにしろ、エコだし。ただ、充電が速やかにできるかどうか、そこがネックで購入に踏み切れずにいる。
そこへきて、スズキ・ジプシーの存在。見た目の問題はさておき、コンパクトにアウトドアな感じがいい。これがあれば、「マイソールあたりまで、ちょいとドライヴ」に行けるかもしれない。
本気か? 自分。
っていうか、米国でドライヴする気満々だったのが、今回中止になったことで、「運転したい気分」のやり場がないのだ。
今、すごく、走りたいのだ。自分でステアリングを握って。
「荒野の中の一本道」みたいなところ、走りたい! まさにジプシー!!
インドの都市部をはずれたところを、ひたすら走りたい。それはしかし、危険なんだろうな〜。女子一人じゃ。AK-47(カラシニコフ)でも携えて行くムードやね。
ともあれ、今年こそ、マニュアル車の運転を思い出すべく、数日、自動車学校に通うべし!(目標)