旅から戻った翌日、ミューズ・クリエイションの集いを開いた。お茶の時間に、ピンク・フロイドの回顧展がすごくよかった……という話をしたのだが、その場にいたメンバー16名全員が「?」という顔をしている。名前は聞いたことがある、という方、1名を除き、他のメンバーは「ピンク・フロイドってなんですか?」状態だった。自分の中では、かなり著名なバンドだと認識していたので、結構な衝撃を受けてしまった。相当、古い話題だったのか。確かに、「50周年」。新しくは、ない。
ライターを生業とするものとしては、常々、多くの読者に理解されるよう、具体的な説明を添えながら文章を書いたり、語ったりしているのだが、今回に関しては、非常に、なんというか、面倒だ。というわけで、以下、ピンク・フロイドをご存知の方、あるいは関心のある方に限って、目を通していただければと思う。
5月中旬より開催されているピンク・フロイドのデビュー50周年回顧展を見るべく、ヴィクトリア&アルバート・ミュージアムへ。
わたしが彼らの音楽をじっくり聞き始めたのは遅く、1996年。夫と出会って直後のことだ。当時、彼はピンク・フロイドの映画、"The Wall”(1982年公開)を見て大いに触発されたあとで、オリジナルとなったアルバムをよく聴いていたのだ。映画は、1979年に発売された同名のコンセプト・アルバムのストーリーがそのままに、映画化された作品で、音楽とともに映画が進行するのだという。
展示会場では、入り口でオーディオガイドを渡されるのだが、これが実によかった。何の操作をすることもなく、自分が展示物の前に立つと、センサーが反応して、展示に関する説明、メンバーのインタヴュー、関係者のコメント、音楽などが流れて来る。だから、ピンク・フロイドに詳しくなくても、全身で彼らの世界に浸りつつ、理解を深めることができる。
彼らの音楽に対する姿勢や取り組みなどが、つぶさに伝わってくる。1960年代後半からシンセサイザーを操り「未来の音」を追求。独特の音の調和の実現。舞台装置、レコードジャケットの意匠、音楽に発露されるメッセージ……。
Photoshopも特撮もない時代。全てが手作りで、緻密で、完璧主義で、貫かれているように見えた。超前衛的でありながら、地に足が着いている安定感。とはいえ、メンバー同士の軋轢も多かったようで、個性炸裂な人間の集まりとあっては、それも無理のない話だろうとも察せられた。
展示の最後は、ヘッドフォンを外して楽しめるオーディオシアター。観客は床に座って、壁に映される映像を眺めながら、音楽に身を任せるのだった。
映画 "The Wall”を見よう。そして英語の歌詞をきちんと理解しながら、聴こうと、強く思った。
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エキシビションで撮影した写真を、以下、ランダムに掲載する。
ピンク・フロイド展を見終えたあと。外は雨が降ったり止んだりの不安定な天候。他の場所を観光するよりは、ここで過ごそうと決めた。すでに過去2回訪れているのが、当然、何度見ても、興味深いものは興味深く。
展示物のいくつかを、思い出に掲載しておく。