☂アイルランド最終日。ダブリンは今日も雨だった。青空が広がるこの街の表情も見てみたかった。
☂まずは、トリニティ・カレッジへ。1592年に、英国のエリザベス一世によって創設されたアイルランド最古の大学だ。今回の旅を通して、軽く表層だけではあるが、英国とアイルランド、北アイルランド、スコットランド、そしてウェールズの歴史を巡る様々な物語の断片を知った。異国を旅するに際しては、歴史を大雑把にでも知ることで、芸術や文化の「理由」を紐解きやすい。宗教、戦争、占領、独立……。
☂ともあれ、トリニティ・カレッジでは、オールド・ライブラリーを訪れるのが主目的だった。1000年以上前に書かれたケルト芸術の最高峰とされる、修道僧によって制作された『ケルズの書』の展示も興味深く、豪華な装飾本を彩るモチーフに見入る。猫をモチーフにした詩に読み入る。
ちなみに上の写真の下の4枚は、「MIHO」の文字を撮影したもの。
☂そしてアイルランド最大の写本や版本のコレクションを誇る、1713年に建てられた図書館へ。そこへ足を踏み込んだ瞬間に、意識が異次元に飛んだような妙な心境に陥り、涙が出てきた。60メートルを超える長い部屋、樽型のアーチ天井、そしてダイナミックな書架の様子に、胸を打たれた。断崖絶壁に立ったときとは違った意味での、自分が「蟻」のように小さくなったような気がした。文字で記された情報の全体像、ひとりの人間が生きている間に読破することは不可能な、20万冊の圧倒的な威力を目の当たりにして、言葉がない。
☂中央あたりにアイルランド最古のハープが展示されている。ハープは、シャムロック(三つ葉)と並んで、アイルランドのシンボルだ。ちなみにギネスビールのトレードマークもハープである。
☂アイルランドにキリスト教を広めた聖人は、セント・パトリック。セント・パトリックがシャムロックを手にしながら三位一体を説いたことから、シャムロックはアイルランドの「国花」となっている。ニューヨークやボストンは、アイルランド系の移民が多いこともあり、毎年St. Patrick's Dayは、町中が緑色にあふれる祝祭日だ。わたしもニューヨークに住んでいたころ、何度か賑やかなパレードを目にした。
☂ランチは、リサーチ王の夫によって選ばれたThe Winding Stairという運河沿いのレストランで。朝食もそこそこにライブラリーへ赴いたので空腹。夜は軽めにすませる予定なので、しっかり食べることにした。アイリッシュ・トラウトのグリル、スロークックの豚肉、どちらも、とてもおいしい! 豚の皮がこんがり香ばしくグリルされているのに感動した。この料理は、自分でも作ってみたい。帰国したら、研究してみよう。ストロベリー・クランブルも美味。これはアップル・クランブルの応用で簡単に作れそうだ。これも作ってみよう。
☂雨脚が強くなった街を、靴を濡らしながら歩く。テンプル・バーと呼ばれる繁華街のエリアを散策したあと、セント・パトリック大聖堂に立ち寄る。
☂そして本日のハイライト。歴史が浅くも上質のウイスキーを産するティーリング・ウイスキー蒸留所 (TEELING DISTILLERY) へ。一緒に写真に収まっている紳士は、創業者のジョン・ティーリング氏。アイルランドは、ギネスビールだけでなく、ウイスキーでも有名な国。蒸留の回数が、スコッチウイスキーは2回だが、アイリッシュウイスキーは3回といった、よくわからぬが違いもあるらしい。
☂アメリカのオーク樽は甘い香りを添える。フランスのオーク樽はスパイシーな風味を添える。お酒とは、つくづく自然の産物が生み出す味の芸術であると感じ入る。
☂蒸留所のツアーに参加したあと、テイスティング。試飲するウイスキーのグレードに応じて、3つほどのランクがあるが、ウイスキーの味をよく知らないからこそ、ここは敢えて、最もいいものを試すべきと味わった。わからないなりにも、今までさまざまなウイスキーを口にしてきた中で、個人的には、とてもおいしいと感じられるものだった。もちろん、その場の雰囲気のよさも手伝っているが、ほのかな甘みと透明感が、秀でている気がするのだ。
☂バンガロールのウイスキー蒸留所、Amrutを見学したときには、有名なAmrut Fusionもさることながら、輸出用に作られているシェリー樽で熟成させられたシングルモルトが一番おいしいと感じた。今回も、シェリーの風味がする樽のウイスキーBRABAZONのシングルモルトが、強くて甘く、芳しく、おいしく感じたが、一番気に入ったのは、REVIVAL Vというシングルモルト。記念に1本、購入した。これは大切に飲もうと思う。
☂ティーリング・ウイスキー蒸留所に関して、詳細にレポートされている日本語の記事を見つけたので、参考までに。(試飲の値段は、記事よりも高くなっている)