2020年の半分が、終わろうとしている。モンスーンの季節に入ったバンガロールは、夕暮れ時の雨が大地を潤し、朝の微風は心地よく冷たく、緑も青空も、美しい。
ロックダウンを機に、無数の出稼ぎ労働者が職を失い、インドの都市部では、帰郷する人々の「エクソダス(大移動)」が起こってきたことは記した。
他の都市のことはわからぬが、少なくとも、バンガロールは、その波が終息し始めているようである。「移民の人たちが無事に帰郷できるように」と願いを込めて、ご近所のコミュニティが始めた食料の差し入れヴォランティア。
その知らせを受けた時、わたしは強く感銘を受け、迷わず参加した。そして毎日9枚、3食分のチャパティを焼き続けた。
「自分が誰かの役に立っている」と思うことで、葛藤の多い心を鎮める効果もあった。
ときどき余分に焼いて、自分の朝ごはんにした。無糖のオーガニック・ピーナッツバターを塗り、ジャガリ(ヘルシーな天然の甘味)をまぶして食べると、邪道ながらも、とてもおいしいのだ。
そんな毎朝の習慣が、昨日、突然、終わった。もう、州政府からの「帰郷便」に乗る人が、ほとんどいなくなったためだ。
わたしたちのコミュニティからだけでも、約4万人の胃袋を、満たしたようである。いったいバンガロールだけで何人の人たちが、帰郷したのだろう。彼らが無事に、故郷の土を踏んでいることを祈りつつ……。
近代化が進み、多くの出稼ぎ労働者が大挙し、都市は混沌を極めていた。潮が引くように、熱狂が鎮まった今。これから、この社会はどうなるのだろう。
出稼ぎ労働者の人たちの労苦を思えば、たやすく発言し難いが、しかし、これは多分、「いい傾向」だと思う。彼らは故郷へ戻り、故郷の魅力を見直すかもしれない。そこで、新しい何かを始めるかもしれない。始まってほしい。
The Roti Express。発起人のローズマリーはじめ、賛同した隣人らに感謝しつつ、この国のよい側面をまた、肌身に感じることができてよかった。
さて、いつしか8周年を迎え、9年目に入った我がミューズ・クリエイション。8年間、休みなく稼動し続けてきたこのNGOは、現在、深い眠りについている。起こすのはまだ、少し先にして、今は地図を広げ、目的地を見定めなければ。