東京最終日に表参道へ立ち寄った目的は2つあった。ひとつは「壱の蔵」で襦袢を買うこと。もう一つは茶具の老舗「ことぶきや」で柄杓を買うことだった。
東京時代、数えきれないほど、この店の前を通過していたはずなのに、店内に入ったこともなければ、注意を払って店を見たこともなかった。あのころのわたしは、つくづく海の外ばかりに思いを馳せていた。
店にいらした女性は、茶道の心得がないわたしの質問にも、感じよく応対してくださった。
海外で暮らす中、日本の伝統文化の麗しさに開眼。日本人として日本文化を紹介する機会が多いので、日本の古き良きものを少しずつ集めている。しかし茶道の流儀は心得ていないので、動画などを見ながら最低限を学び「お茶を楽しむ」という本質の、精神的な世界を寧に伝えていこうと考えている……といったことを、お話しする。
正直なところ、茶道の流派その他が重視されるであろう専門店に入るには抵抗があった。そんなわたしにとって、ここは好適なお店だった。お手頃な、しかし「きちんとした柄杓」を買うことができた。
今までは「保温ポット」をテーブルに配して湯を注いでいたのだが、いかにも風情がない。ゆえに今回は、岩田屋で南部鉄器の鉄瓶を購入。茶道で使う茶釜とは形が異なる、普段使い用の鉄瓶ではあるが、十分に美しい。
茶道のことを、よく知らないとはいえ、その精神世界には、心をひかれる。
極東の島国、日本。小さな国土に満ち満ちる、その豊かな自然美。
季節ごとの情趣を、茶室という小さな空間にて育む。
音、香り、空気の肌ざわり……。
茶室という小宇宙で、客人が、心地よく過ごせるための、おもてなし。
華美である必要は、多分ない。侘び寂びが滲む、しかし丁寧に作られた茶器類。
時節を映す、生け花。
凛と、土に在ったままの姿で茶室に佇む花。
見目に麗しき、甘く優しい和菓子。
一つ一つの所作に込められている、優美と、心遣いと、思いやりと、実践的な機能性。
温かく、ほの苦く、やさしく甘い、風味豊かなお茶。
静謐なときを分かち合う、一期一会。
唯一無二のひとときを、瞑想するかの如く共有する……。
🍵茶の湯。侘び寂び。吾唯足知……。異国で滲み入る日本のこころ。(2021/02/11 加筆修正あり)
日曜日のイヴェントで、「日本のお茶」について紹介することになった。単に「緑茶の種類」などを語るのではなく、その背景にある歴史や精神世界にも触れるに越したことはない。
わたしは、大学で寮生活を送っていた時「お茶菓子」目当てで、近所でお茶を学んだことがあった。しかし、中途半端に数カ月通ったきり、やめてしまった。ゆえに、お点前を披露することはできないのだが、その世界観の片鱗を、わかりやすく伝えることはできる。
わたしにとって、英語で茶道を紹介するときのバイブルは、この黄色い冊子だ。
1998年発行。『お茶の12ヶ月』。
わたしが、ニューヨークでミューズ・パブリッシングを起業した直後に手がけた本。書き手は、米国で茶の湯を広め、フロリダの森上ミュージアムの茶室建設に貢献された山本温子レフコートさん。出版は、彼女のご友人からのご依頼だった。
病に倒れた彼女の遺稿を、形にするための仕事。DTP(デスクトップ・パブリッシング)黎明期。買ったばかりのパワーマックにて、彼女の原稿を入力し、編集、デザイン、印刷を手掛けた。
今、読み返して、その文章と表現の美しさに感嘆する。日本を離れたばかりの、33歳のわたしには、漠然としたイメージでしかなかった茶の湯の世界、侘び寂び、四季を慈しむ心、人をもてなす流儀……。
歳月と経験を重ねていま、実感と実像を伴って、その奥深さを受け止めることができる。歳を重ねるとは、こういうことなのだな……と思いつつ、あらゆる要素が凝縮され、見事にまとめられたこの一冊に感嘆する。
今年から、我が人生後半のテーマと掲げた「不易流行」。そして「侘び寂び」。いずれも松尾芭蕉によるものであり。
日本人が著したのではなく、日本古来の精神世界や価値観、美を愛する外国人によって記された、IKIGAI, WABISABIは、もうここ何年も、欧米だけでなく、インド国内でも知られている。
ちなみに「IKIGAI」は、わたしのインド人の友人がプレゼントしてくれたものだ。わたしが座右の銘としている言葉のひとつ「吾唯足知」も、わかりやすく説明されている。日本人が、改めて日本を知り直すことも大切なのだと、海外に出ると改めて、そう思う。
🇯🇵わずか1週間で準備完了! 日本がテーマのヴァレンタインズ・デー(2021/02/16)
https://museindia.typepad.jp/2021/2021/02/valentines.html
🇯🇵弥生3月。盛夏の南天竺で、日本の春を祝う。(2024/03/15)
https://museindia.typepad.jp/2023/2024/03/sakura.html
🇺🇸MORIKAMI MUSEUM AND JAPANESE GARDEN
https://morikami.org/
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