日常の生活が、平穏な軌道に乗るまでは、毎日を旅行記のように綴っている。でもわたしは、最早この国の旅行者ではなく、住人なのだということに、まだなじんでいない。
長いと思っていたデリー滞在も瞬く間に過ぎ、いよいよ我が家へ……。と思いきや、週末は、ラジャスタン州のジャイプールという町へ。ラジャスタンには、魅惑的ないくつもの町が点在しているのだが、中でもピンク色に染まった町、ジャイプールには、以前から訪れてみたいと思っていた。
わたしとしては、もう少し落ち着いてからでもよかったのだが、夫にしてみれば、ここしばらく出張続きだったから、「プライヴェートな旅」をして気分を切り替えたいらしく。ジャイプールはデリーから近い(車で4時間ほど)ということもあり、では行きましょう、ということになったのだ。
とはいえ、世間はすでに冬のホリデーシーズンに突入しており、思うホテルの予約がなかなかとれない。旅行代理店やらホテルやらとの電話のやりとりで、無為な時間が過ぎてゆく。2泊異なるホテルに滞在となったけれど、それはそれで、楽しいかもしれない。(とここまで書いたところで、1泊目のホテルから電話があり、もう一晩も部屋が取れましたとのこと。幸運!)
さて今日は、Maurya Sheratonの隣にあるTaj Palaceまで歩いて行き、ランチ。タージの方が、雰囲気はよくてゴージャスだけれど、カフェテリアのランチは、シェラトンよりリーズナブルでおいしいのだ。しばらく書き物をして過ごしたあとは、ウマと合流し、ダディマの誕生日プレゼントを買いに、幾つかのショッピングエリアへ。
夜、カンファレンスを終えた夫と、夕食を食べに再びTaj Palaceへ。ロビーでは、ピアノとクラリネットの演奏。
いつも書こうと思いながら書きそびれていたのだが、インドでは、たとえ高級ホテルでも、ピアノの演奏家の腕前が「素人並み」であることが多い。「練習しているの?」というような、間違いの多い人もいる。
中には、「お願い、もうやめて!」というくらいに下手な人もいて、音楽に敏感な欧州人や日本人には、多分、考えられない状況。
だから、このラウンジの演奏のすばらしさには、感嘆した。無論、演奏家はインド人ではなく。ピアニストは美しいブロンドの白人女性。クラリネット奏者は東洋人男性。日本人にも見える。
久しぶりに、きれいに流れるクラシックを聴いた気がして、まさに心が洗われる思いだ。
龍が舞い飛ぶ中国料理店で夕食。スーツ姿で、仕事を語る夫を見ていると、いよいよ自分も、仕事がしたくなる。突然、駆け出したくなるような衝動に襲われる。しかし、今しばらくは、落ち着いて。わざわざインドへ赴いた意味が、しかし自ずと、遠からぬ将来、示されるはずだから。