これはインドのビジネス誌"business today"の最新号だ。「インドのために挑戦する25人」。インド企業のCEOら25人の記事が掲載されている。夫はムンバイへ来る途中のバンガロア空港で、この雑誌を買った。
今回のムンバイ出張では、Whartonのアラムナイ(同窓会)に参加するほか、この25名のうちの一人であるディーパック・パレック氏との打ち合わせもあるからだ。パレック氏はほかでもない、先週、クリスマスパーティーに招いてくれた、HDFC(銀行/ 住宅開発銀行)のCEOである。
記事は、インタヴュー形式ではなく、パレック氏が自ら執筆したらしき体裁になっている。記事のコンセプトは、インドの貧困層に、いかにすれば住宅<レンガとモルタルの>を供給できるか、ということだ。
パレック氏は、モヘンジョダロ、ハラッパ遺跡など、古(いにしえ)の住宅についての話を織り交ぜつつ、現在のインド住宅事情を分析、今後の展望を記している。
経済成長目覚ましく、世界のビジネス界から注目を集めはじめているインド。しかし依然、貧富の差は大きく著しく激しく、バラックのような掘建て小屋に住んでいる貧困層も多数だ。たとえば、ムンバイ空港に着陸する直前、飛行機の窓から地上を見下ろせば、「天国と地獄」が同居しているさまを、一瞬にして捉えることができる。
空港付近を覆い尽くす、ぎっしりと密集した灰色茶色のバラックの、見事なまでの汚さ。貧しさ。
かつてのインド経済は、「一握りの富裕層」を消費層とみなした市場構造だった。しかし、最近の趨勢は「大多数の中流階級、および貧困層を狙え」である。ことに貧困層の暮らしは、言ってしまえば「原始的」。住宅はもちろんのこと、あらゆるコンシューマプロダクツの潜在的必要性がある。
彼らの収入源を確保し、消費生活を促す。
すでに、貧困層に焦点を当てることで成功を収めている企業もある。その話題については、また別の機会に触れるとして、パレック氏の住宅戦略である。
財力の乏しい人々が、家を得るために、我々は何ができるか。貧困層を対象にした金融システムの構築(マイクロローン)の必要性。貧困層向けの金融システム構築に成功したウガンダなど他国の例を挙げながら、大いなる挑戦への意義を説いている。
話は変わるが、今日、我々がホテルのイタリアンレストランで夕食をとっていたら、見覚えのある東洋人家族が隣の席に座った。クリスマスパーティーで会った、パレック氏の息子アディテャの新妻、アレスとその両親、弟だった。
中国系アメリカ人の両親はニューヨーク暮らし。弟は英国の大学在学中。アレスと夫のアディテャはフィラデルフィア在住。みな、明日それぞれの街へ帰るのだと言う。
「毎日毎日、インド料理で、もうすっかり飽きちゃったから、今日はわたしの家族だけでこっそり抜け出して、ここに夕食を食べに来たのよ」とアレス。
先週のクリスマスパーティーのときとは裏腹に、疲れきった顔をしている。一方、ご両親はとてもお元気。東洋人のわたしに親近感を持ってくれたのか、
「こちらにいらして、一緒に食事をしましょうよ」と誘ってくれる。
が、アレスはお疲れの様子だし、遠慮した。異国の、しかも社会的地位の高い家族のもとに嫁ぎ、あちこちのパーティーに駆り出され、疲労困憊に違いない。数カ月後にはムンバイへ移住するとのこと。「がんばってね」と労わずにはいられなかった。
[business today/ ビジネス誌]