最近、「お料理ノート」を作った。家政夫モハンが作ったものの中から、気に入った料理をメモし、彼にもヒンディー語を添えてもらうのだ。これは、今後、同じ料理をリクエストしたいときに役立つ。
「あのときの、あのチキンカレーの味付けがよかった」なんてことすら、伝えられないしね。
それから、ゼスチャーで意思疎通が図れない場合は、図を用いることにした。絵を描くのはちょっと面倒だが、ヒンディー語を勉強するよりは近道だ。
さて、最初の数週間は北インドの料理に徹していた彼だが、最近、新しい料理を提案し始めた。夫と話していたときに、チャイニーズも作れると彼は告白したのだ。
「どんな調味料を使うの?」と聞くと、
「ソイソース(醤油)にセサミオイル、それからアジノモト」
アジノモト……。モハンの口から味の素の名前を聞くとは。基本的にはMSG(Monosodium glutamate)を避けている我々。敢えて彼に味の素入りチャイニーズを作ってもらうこともないだろう。その件は聞き流しておいた。
しかし、最近では、春雨入りの爽やか風味サラダを作ってくれたり、レッドペッパーなどのあっさり炒めを作ってくれたりと、ちょっとインドの味に飽きて来たわたしには、うれしい「合いの手」が入るようになった。あ、そういえば、この間の週末は、久々にわたしも料理をしたのだ。
といっても、料理と呼ぶには照れるほどの品々。まずは、先日、「播磨」のジュンコさんから教わっていた、「PUTTU RICE(餅米)&インドの米、半分半分で日本の米の味に近いご飯を作る実験」をした。結果としては。ううむ。
風味がいまひとつだが、しかし多少粘り気があり、食感としては悪くない。カリフォルニアから送った荷物の中に紛れていた「永谷園の寿司太郎」をまぜて食べたところ、寿司太郎の尽力により、かなり「いける味」になった。米実験については、今後も邁進する必要があろう。それから日本風卵焼きを作った。久々に、おいしかった。
話がそれた。上の写真は、わたしが買い置きしていたパスタを、モハンが調理してくれたものである。ゆでてバジルなどのイタリア風味スパイスをあえたもの。それから、わたしたちがサラダが食べたいという要望に応えて、やたらボリュームたっぷりに、カラフルなペッパーと、キュウリ、ニンジンのサラダ。
その向こうにあるのは、マッシュルームとブロッコリのなにか。なんだかよくわからん。ひょっとして、中国風? かも? という感じ。で、その奥がインドの豆煮込み、ダル。
つまり、彼の新境地は、わけのわからん取り合わせである。しかし、いずれもそれなりにおいしいのだ。「食のストライクゾーン」が比較的広いゆえの、わたしの寛大さか。
サラダはライム汁と塩こしょうだけの味付けだが、あっさりして野菜の味が生きている。国籍不明マッシュルームとブロッコリも、よくわからんが、おいしい。しかし、夫の表情は渋い。
「ミホ、このパスタ、アルデンテじゃないよね」
こ、この男は……。バブル時代の日本人みたいなことを言うやつだ。インドの山奥から出て来た使用人に、アルデンテを望むなよ! このふやけた感じはふやけた感じなりに、おいしいじゃん!
後日、アルデンテというコンセプトをモハンに教えるのは、やぶさかではないが、まあ、ぼちぼちと彼のレパートリーを楽しみながら、追々リクエストしていけばいいことだ。だいたい、アルデンテ云々よりも、全体の取り合わせについて再考すべきだとは思う。
毎日、たっぷりの野菜を使った、手のかかった料理を出してもらえるだけでも、とても幸せなことだ。彼は彼なりに、アメリカ帰りのボンボンと、意思疎通度ゼロ+アルファの日本人女性のために、いったいどういう料理を作るべきか、多少なりとも思案しているに違いないのだから。心中察して余りある。
ともかくは、楽しくやっていこう。