今日から始まるWhartonのアラムナイ。伴侶のために用意されたツアーに参加するため、10時に集合場所へ。建物の前には、ショッキングピンクの大きなツアーバスが停まっている。きっと多くの人たちが参加するのだろう。
受付で登録をして、さて周囲を見回せば、参加するのは十名足らず。しかもそのうち3名は日本人。ご主人がWhartonの卒業生だという女性と、奥様が東京のWhartonの事務局に勤務なさっているという男性。
それから、ボーイフレンドがインド人で、スピーカーとして参加しているというシンガポール在住の中国人女性、ご主人がWhartonの教授だという米国在住の女性とその娘二人。
Global Alumniというだけあって、インド周辺に限らず、日本からまでも参加者があることに驚いた。
まずはプリンス・オブ・ウェールズ博物館を見学したあと、いくつかのファッションブティックでショッピング。男性参加者はここで引き上げられ、女性ばかりでのツアーである。
全般に派手できらびやかな色彩の衣服を好むインドにあって、ムンバイのファッションは、より一層その傾向が顕著である。パーティーなどに現れる女性たちは、ボリウッドの女優さながらに、ラメやスパンコールなどをきらめかせた衣服を身に纏っている。
そのような、装飾マキシマムなファッションを目前にして、参加者は感嘆しつつも、当然ながら買う人はない。数軒目で訪れた、おなじみfabindiaで、みな素朴なコットンやシルク製の衣類を求めていた。
途中で携帯電話にアルヴィンドから電話。
「ミホ、今日のディナーパーティー、伴侶も参加していいんだって。おいでよ」
もう! バンガロアを出る前、「わたしはパーティーに招待されていないの?」と尋ねたときには、「ぼくだけだよ」なんて言っておきながら! パーティーに着ていけるような服を持ってこなかったのは失敗だった。こんなことならサリーを持ってくるんだった。
インドのパーティーじゃ、たいてい、みなきらびやかだから、わたしとしても、女に生まれたからには、きらびやかで勝負したいのである。パーティーはおしゃれをできる数少ない機会だからね。
そんなことはともかく、ランチのあとは、子供同伴のアメリカ人母の要望もあって、海に浮かぶムスリム寺院、Haji Aliを見学することに。ここがもう、とんでもなく「インド的」な場所でほんとに。汚いは臭いはで、10メートルが100メートルにも感じる濃密さだ。
物乞い、身体障害者が路傍に溢れ、どこを向いても正視に耐えられない。人間そのものが魑魅魍魎と化している。5歳と9歳のだという娘たちが泣き出すんじゃないかと心配になったが、母は強い。世界のいろいろな現実を見せておきたい、という熱意が伝わってくる。
「経験、経験。なんでも経験だから」
と、子供たちの手をしっかりと握りしめて、連れて行く。
これまでも、さまざまな場所に連れて行かれたのだろう彼女たちは、健気に母に従っている。偉い。強い。がんばれ!
喧噪の寺院を見学したあとは、さらにヒンドゥー寺院へも行く。すでに中国人のランさんは引き上げていて、ガイドを除いては、わたしと日本人女性のマヨさんだけとなった。こうなったらもう、ツアーというより個人旅行である。
熱心なアメリカ人母子とガイドが靴を脱いで寺院内を見学するのを、わたしたちは、「靴、脱ぎたくありませんよね」と、言いつつ、外で待つ。
マヨさんは、米国の大学を出て、東京にて米国の金融会社に勤めていらっしゃるとか。インドは今回、初めての訪問だという。
ヒンドゥー寺院を出る頃にはもう、すでに夕方6時近く。ホテルに戻ってシャワーを浴びて、夜のパーティーに出かける準備をしなければ。
ミュージアム見学のあとはショッピング。インド的高級ブティックを訪れ、派手派手ファッションを見学。とてもすてきなサリーを発見したので、ちょっと試着させてもらったりもした。2000ドル也。右はどこかのショッピングモール。ここでランチを食べる。
本当はショッピングが主のはずだったツアーだが、「ショッピングはもういいね」ということになり、寺院などを見学することに。しかし……。バスを降りたとたん、鼻を突く腐った海の悪臭。海に浮かぶ、ムスリム寺院、Haji Aliが見える。
ああ、あそこね。へえ、あんな細い道を歩いていくんだ。しかし臭いね。さ、バスに戻ろうか、と思いきや、あれ〜? バスの姿は見えず。うげ〜、あそこまで歩くの?! こりゃやられた。線香の煙やらゴミやら揚げ物やらなんやらかんやらの臭いが入り交じった猛烈に臭いエリアを通過して、海上の参道へ。
寺院へと続く「天国の道」であるはずが、ここは「地獄への道」としか思えない。しかし、写真で見ると、どうにもこぎれいに見えるから困ったものだ。手足のない男たちが路傍に横たわり、大声をあげて注意を引く。遠い昔、福岡の筥崎宮の放生会という縁日で見た、傷痍軍人たちを思い出した。子供にあの光景は暗い。「経験」とはいえ、子供たち、辛いだろうな、これを見るのは。寺院にたどり着いたら楽園か、と思いきや、ここもまた、なにやらぐちゃぐちゃで、アイスクリーム売り、土産物売り、靴預かりの人々……。
ムスリム寺院で懲りたかと思いきや、ヒンドゥー寺院へも行くと言うアメリカ人母。たくましいね。わたしはもう、疲れたよ。待ってるから、見ておいで!