●夕べ、サンフランシスコに到着した。冷たい雨が降っていた。思えば4カ月半前、ここを発った日も、雨が降っていた。今朝は晴れていてほしいと願って眠りについたが、窓の向こうの風景は、北欧の冬の朝のよう。
●時差ボケと曇天で、少し頭の重い朝。ホテルのカフェで朝食。オートミールとフルーツ、オレンジジュースにカフェラテ。急速に、モハンのダリア(ミルク粥)が恋しい。小さく切られたパパイヤ、マンゴー、パイナップル。ほどよい塩こしょうの目玉焼き。インドを離れて1週間を過ぎ、外食に疲れ始めて来たようだ。モハンは今頃、どうしているだろう。
●夫は今日、主にはミーティングなのだ。よってネクタイ着用。本当は別行動をしてもいいのだが、久しぶりに車を借りてドライヴする彼を一人にするのはちょっと心配。心配性な妻は、シリコンヴァレー(サンタクララ、パロアルト)へ、同行することにしたのだった。それにしても、昨日からサマータイムが始まったというのに寒い。
●昼前、車を駆って、サンタクララまで40分ほどのドライヴ。去年暮らしていたサニーヴェールも通過。サンタクララのレストランで、アヒツナのグリルのサンドイッチとプライムリブのサラダ。アメリカンなランチを。夫が打ち合わせの間、わたしはコーヒーを飲み、待つ。寒い。二人して、革のジャケットをスーツケースに入れ忘れて、だから軽いジャケットだけ。ニューヨークは、どうだろう。まだ寒いのだろうか。
●サンタクララを離れ、パロアルトへ。夫が打ち合わせに出かけている間、わたしはスタンフォードショッピングセンターで待つことに。ここは相変わらず花々が美しい。桜の花、のような花が雨に打たれている。そうだ。今は桜の季節なのだ。ワシントンDCの桜もまた、見事に開いていることだろう。
●去年の7月から11月までの5カ月間、住んでいて、あのころは、サニーヴェールでは、2度しか雨降りを見なかったのに。今は雨の季節なのだろうか。それにしても毎日が、途方もなく突き抜けていた青空だった。表層は麗しく在れたけれど、きつい日々だった。
●多くを打破して、自分たちの環境を変えて来た。ここを離れたのが、わずか半年前のこととは。あのときの、あの波乱を、わたしたちはよく乗り越えて、インドに渡ったものだ。わたしたちは、本当によくやっていると、思う。
●と、ときには素直に、自分たちの健闘を讃え合おう。買い物もせず、回想ばかりしている。あ、でも、J. CrewでTシャツとベルトとパンツを買ったのだ。なぜかJ. Crewに入ると、買わずにはいられないのだ。学生みたいなファッションなのに。どうも、何かが琴線に触れる。
●スターバックスカフェで、ティーを飲みながら、打ち合わせを終えて戻るはずの夫を待つ。が、予定の時間を過ぎても現れない。わたしは今まで、一体どれほどの時間、彼を待っていただろう。待ちながらも、何かをしているとはいえ。
●運転をするのは、いい気分だ。滑らかな、ハイウェイ。「でも、僕はもう、ここに住みたいとは思わないよ」……。ここ数日、「インドが恋しい?」 と尋ねるわたしに、毎度「ノー」と言い続けてきた彼が、そう言うのだから。I am missing India。わたしはもうすでに。
●十年前と同じホテルの、十年前と同じイタリアンで、ディナーを。Sonomaのカベルネソーヴィニョン。オークの香りが鼻を抜けて脳の隅々にまで行き渡るほどに、すばらしい。4カ月の果ての、この味わいに、全身が陶酔するようだ。やっぱり、ワインは、この地がおいしい。さほどのワイン通でもないのだけれど。ワインに関して言えば、インドは恋しくないのである。
●鴨のボロネーゼのパスタも、ポークチョップも、ホウレンソウのソテーも、どれもすばらしくおいしくて、ワインとも本当によく合って、今朝はモハンの朝食が恋しかったけれど、やっぱりこういう味は、インドでは得られないねと、夫ともども幸せに浸る。
●自家製ブリオシュで作ったという、ブレッドプディングをデザートに。この素朴なデザートが、わたしたちはとても好きなのだ。この店のそれもまた、この店なりの工夫が効いて、やさしげなおいしさで、最後にダブルエスプレッソを飲み、パーフェクトな気分で店を出る。