■2泊3日の週末旅。ジャングル目指してドライヴ
バンガロアから数百キロメートルの圏内には、いくつもの「ジャングル」があり、野生動物を間近に見られるということを、数年前から義姉スジャータに聞いていた。これまで幾度も訪れることを勧められていたのだが、この週末、ようやく実現することになった。
バンガロアの西、約140キロの地点にあるマイソールを通過し、更に70キロほど走った先にあるカビニ(Kabini)という村が目的地だ。
ちなみにマイソール西部のこの一帯はコールグ(Coorg)と呼ばれ、カビニの他にもSiddapur、Dubare、Nagarholeといったジャングル観光の拠点がある。
折しもジャングルはハイシーズンの上、ヴァケーションシーズンにさしかかっている。出かけようと決めたのが遅かったことあり、目星をつけていた宿はいずれも満室。
ところで、近年のインド都市部に於けるホテル宿泊料の高騰ぶりは、マンハッタンを凌ぐ呆れた高さ。ろくでもないホテルでさえ高い。バンガロアの高級ホテルは軒並み1泊US$300以上で、慢性的な客室数不足に陥っている。
ここ数年は、郊外や僻地のリゾートでさえ、「便乗値上げ」を目論み、リゾートとは名ばかりの安っぽい宿ですら、高い。
無論、我々夫婦は「インド人レート」が適用されるので、まだましだが、外国人はインド人レートの殆ど2倍の料金が設定されている。(※都市部では最近インド人レートが撤廃されているケースが多い)
さて、出発の10日ほど前にインターネットを通して宿の情報を得、あちこちへ電話をかけたのだが、前述の通り、どこも週末は数週間先まで満室。
諦めかけていたところに、B&Bスタイルの宿に空室を見つけた。オーナーと交渉したところ、同行するエミさんとショーンもインド人レートで宿泊させてくれることになり、早速予約を入れる。
ところで、我が夫アルヴィンドは「値切り」や「特典獲得」の交渉がうまい。ホテル宿泊の際には、「一番いいレートはいくら?」とか、「条件のいい部屋を」と、まるで「特典があって当然」という雰囲気で、滑らかに要求する。これが意外に効果があるから、試す価値があるというものだ。
そんなわけで、土曜の朝、我々はバンガロアを出発し、カビニを目指したのだった。
ここ数年のうちに、マイソールまでの道はハイウェイが整備され比較的快適なドライヴルートである。
しかし、途中途中で出くわす町、村、集落は、あふれかえる人々の渦で、何かと渋滞に巻き込まれる。
途中、3年前に立ち寄ったおいしいドサの食堂に行きたかったのに、ドライヴァーが通過してしまい(もうっ!)、やむなくマイソールでのランチとなった。
前回母と訪れたときには閉まっていたので、今回、非常に楽しみにしていたのに! そこそこのランチでお茶を濁して無念。
ちなみに左上の写真は途中のトイレ休憩に立ち寄ったドライヴインにいた、たくましい鶏。
■そして、ついには象たちの住む場所へ。
さて、我々は午後3時ごろ、カビニの宿"Water Wood"に到着した。全5室しかないその宿は、ウェブサイトの写真を遥かに下回る安っぽいムードである。ともあれ、ここはインド。ここはジャングル。動物を見られれば、それでいいというものだ。贅沢は言うまい。
あいにくモンスーンが北上して来ているとのことで、この週末は雨とのこと。雨が降ると見られる動物たちの種類や数も減るようだが、仕方ない。
ところで「ジャングルは暑い」と思い込んでいたのだが、曇天のせいか肌寒いほど。携帯蚊取り線香やら虫除けやら帽子やらを持参していたのだが、結果的には使用する機会は少なかった。
カビニの自然保護区は川のほとりに広がっており、宿の庭からは川辺の風景が見渡せる。到着後、お茶を飲んで休憩したあと、早速ジャングルツアーに出かけることにした。
他のゲストとは別々に、我々だけで四輪駆動車に乗り込み、ドライヴァー、ガイドの6人でジャングルを目指す。
車に屋根はあるものの、ついには降り出した雨が横から吹き込んで来て冷たい。
四方に泥水を撒き散らしながら、ラフロードを疾駆する車。上下に激しく揺られながら、あいたたと腰を抑えながら、田園風景見晴るかし、のどかな村落を通過してゆく。
やがて、動物保護区に到着。ここからは、おしゃべりも控えめに、人間は車から降りることはできない。車内から、静かに動物たちの様子をうかがうのである。
雲は重く垂れ込めて光浅く、時折、雨脚が強くなり、風が吹き、決してサファリ日和とは言えなかった。
しかし、雨に打たれたジャングルの緑や、土の匂いや、ひんやりとした風の感触はまた、なんとも言えず、いいものだ。
念願の象たちの姿を見られたのは、ことに赤ちゃん象を見られたのが、何よりうれしかった。鹿の群れ、猿、イノシシ、水牛、クジャク……。野生動物が危険だということは、重々承知しているけれど、車を降りて、ジャングルを歩き出したい衝動に、何度も駆られた。
■ずっと雨が降り続いて、夕方までは、宿で過ごした。
雨音とともに眠りにつき、雨音とともに目が覚めた。それでもひとときは晴れ間が見えて、外で朝食を、と準備がされていたけれど、川面を渡る風のあまりの強さに、結局は室内のダイニングで食事を。
朝食を終える頃、また雨が降り出した。アルヴィンドとショーンはボートに乗って島へのツアーに出かけたけれど、妻らは雨に打たれてまで出かける根性がなく、ラウンジで読書をしたり、おしゃべりをしたり、お茶を飲んだりして過ごす。
やがて、ずぶ濡れながらも笑顔で、夫らが戻って来た。対岸の島に渡り、小さな寺院を見て来たらしい。この場所とは裏腹に、島は雨が上がっていて、花々も咲いており、とてもすてきなところだったらしい。根性を出して行くべきだったか。
遅いランチを終えたあとは、エミさんが持参していたカードゲームで遊ぶ。カードの一番上にはある単語が書かれており、その下に5つほどの別の単語が書かれている。
一番上の単語を、それに関連した下の5つの単語を用いずに、相手に伝えるという「連想ゲーム」のようなもの。これがかなり面白いゲーム。他の面々に比べると、ヴォキャブラリーが圧倒的に少ないわたしには、少々厳しい状況ではあったが、簡単な単語を連想させるものもたくさんあったので、かなり楽しめた。
結果は我がマルハンチームの惨敗であった。チームワークの悪さが顕著に現れた結果となった。
そして夕方。昨日よりも雨は強いが、それでももう一度、ジャングルへ出かけることにした。雲は昨日より厚く、視界も悪い。時折、動物たちの姿が見られるが、森の緑に溶け込んで、目を凝らさなければよく見えない。
象たちも、数頭いるにはいたが、かなり遠目で見づらかった。晴れた日には何百頭も見られるのだと、宿のオーナー曰く。
彼によれば、バンガロアから南西に、やはり250キロほど走ったところにある"BR Hill"のジャングルがお勧めだという。
そこはラグヴァンも勧めてくれていた場所だったのだが、今回、予約が取れなかった。機会があれば、そのBR Hillにも行ってみたいと思う。
今日はもう、写真を撮影するのはよして、ただひたすらに、雨に濡れる緑を眺めていた。もっと鬱蒼と生い茂る深い森を想像していたのだが、視界が開ける場所が多く、非常に開放的な雰囲気だ。
アルヴィンドは随所に現れる竹林が気に入ったようで、「きれいだね!」と何度も言う。
先日、カウアイ島に行った折、植物園の竹林で「風が吹くと竹が鳴るんだよ」と教えたら、彼は真剣に、その音に聞き入っていた。
よほど印象に残っていたのだろう、「竹はね、風が吹くと竹と竹が触れ合って、きれいな音を立てるんだよ」と、ショーンに説明していた。
雨降りのジャングルの、薄暮の空が、得も言われぬ美しさ。
■3日目もやはり雨。マイソールに寄って、帰った。
夢の中でも、雨が降っていた。
寝心地の悪いベッドにも関わらず、思いのほか、よく眠れた。
雨の雫で濡れた窓越しに、外を見る。川は水かさが増していて、茶色く濁っている。雨に打たれて、アルヴィンドとショーンは川辺を少し、歩いていた。
わたしとエミさんは、小降りのときを見計らって、傘をさして、少し宿の周りを散歩してみるけれど、風が強い。川辺に出た途端、強風にあおられて傘はオチョコに。せめて雨が降っていなければ、川べりをひたすらに歩けたのにと、ちょっと残念だ。
昼前にはチェックアウトして、カビニを離れる。途中、マイソールでランチを食べ、土産物店でマイソール名物のサンダルウッド(白檀)のオイル、石けんを買い、パレスの前で記念撮影をして、帰路についた。
バンガロアの町は、相変わらずの排気ガスと渋滞。戻って来てことさらに、いい時間だったと思える週末。
この地を離れる前に、もう一度、ジャングルに行きたいと思う。